結城君の法廷ミステリー劇場(偽) [ネタ編]

──自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第三条二項より)


 ここで言う「前項と同様とする」とは「人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する」ことを指す。














( ・_・)ノΞ●~*




「弁護士になりたい!」


 あきらがやけにハイテンションで宣言した。


 今度はなんなんだ。


「なんでさ? 弁護士なんてシビアで意外とコスパの悪い面倒な仕事だよ」


「昨日ブラインド見た!」


 ブラインドってのは盲目の主人公が弁護士として活躍する流行りのドラマだ。

 盲目な主人公と真実から目を逸らそうとする悪を掛けたタイトルが差別的だけど、話の内容とのマッチ具合が秀逸だとなんとも言えない評価を受けてるらしい。ちなみに主人公の決めゼリフは「俺の目は誤魔化せない!」だ。

 

 そう言えば昨日放送日だったな。でも亮に理解できんのかな。あのドラマ、結構本格的に法律知識をぶっこんで来るからなぁ。

 しっかり理解するには、最低でも一定レベル以上の大学の法学部で真面目に勉強した経験とかが無いとキツい。

 俺が知ってるエピソードでは会社法関係の犯罪と絡めた敵対的企業買収のやつがめっちゃ難しかった。会社法の細かい条文、判例、学説をあそこまで出してくるドラマなんてブラインドぐらいだ。創ったやつは絶対頭の良い馬鹿だわ。


 で、亮はそれに影響されたと。


「亮に法律の勉強なんてできんの?」


「昨日ネットで勉強したよ! すごいでしょ!」


 ほーん。


「じゃあ問題です。吸収合併存続会社が株式会社の時に、吸収合併契約で定めなければいけない事項の内、会社法749条1項1号に規定されているのは何?」


「食べられる会社のしょーごーと会社のあるとこ!」


 え、即答……。どういうことなの……。


 しかも合ってるよ。正確には消滅会社の商号と住所だけど、内容的には正解だ。


 な、なんか悔しい。つ、次だ。次は条文知識だけでは答えられないやつにしてやる!


「事情判決の法理とその典型的事例は?」


「政治っぽいことからイケナイ感じがするんだけど、『め!』するだけで、色んな人のことを考えて、その政治っぽいことをなかったことにはしないでおいてあげるやつ。ジレーは偉い人を選ぶ時、人がいっぱいでごちゃごちゃなとこで皆の声が届きにくくなったりした時に『過疎ってるとこは人がちょっとだから、ちゃんと1人1人の声が届いててずるい!』って文句言うやつ」


「ぐぅ、めちゃくちゃ馬鹿っぽい言い方だけど趣旨は合ってる……」


 亮はふんす! とドヤ顔だ。


 よく考えてみると、神経衰弱では1回見ただけで100%完璧にカードとその場所を覚えてたから、記憶力はピカイチなんだろう。

 難解な条文、判例や学説を理解しているのは納得いかないけど、ポテンシャル的には司法試験を大学在学中に突破するレベルなのか……? 認めたくねぇー!


 亮はゴロゴロしながらお腹をぽりぽりしている。


「……お腹空いた」


 な、なんという堕落しきった馬鹿っぽい姿。これで天才なんて世の中間違ってる。


 俺は天(井)を仰いだ。


 
















「早く早く!」


 今、俺たちは駅前の大型書店に来ている。亮が法律関係の本が欲しいと騒ぎ出したからだ。

 面倒だし、法律の本や資料は結構高いから断ったんだけど、そうしたら「買ってくれないと、毎晩ゆうを湯タンポにして寝てやる!」と駄々を捏ねてきた。

 冬で寒いとはいえ、俺はノビノビと1人で寝たい男だ。亮の凶行を許すわけにはいかない。仕方ないから買い物に来たんだけど……。


「あ! 『自滅の刃』の新刊だ!」


 おい。何故漫画コーナーに直行する?


「あ! 『進撃の故人』もある!」


 おい。なんでネタ系の漫画ばかりに吸い寄せられる?


 その後も亮はよく分からない本を俺に渡していき、最終的に意味不明な組み合わせの本を、俺がレジに持って行くハメになった。


「あ、合わせまして6726円に、ぷっ、なり、なります」


 レジの若い女性が笑いを根性で抑えている。なんと涙ぐましい努力だろうか。同情を禁じ得ない。だから俺の趣味だなんて思わないでほしい。


「……結城君じゃないですか。お久しぶりですね」


 ん? どっかで聞いたことのある声だな。どこだっけ?


 振り返ると、長い黒髪に鋭い目付きの銀縁メガネ、極めつけは右の瞼を縦断する傷。インテリヤクザ……じゃなくて検察官の霧島龍きりしまりゅうさんが居た。


 いや、雰囲気が完全に堅気じゃないって。こっわ。


「お久しぶりです。霧島さんも買い物ですか?」


 俺が当たり障りのない受け答えをすると、霧島さんはすっと手に持つブツを見せてくれた。


「え……。『KILLERりんレボリューション』!?」


 女子児童向けを偽装した超絶胸糞エログロ鬱漫画である。

 そして困惑する俺に思わぬ所から追い討ちが掛けられる。


「あ、これ面白いですよね」


「え」


 いきなりレジの店員さんが乱入してきてビビった。

 

 だがそれよりもだ。


 グロ漫画をきっかけに少女漫画みたいな雰囲気を作るのはやめなさい。シュールすぎて怖い。




















「実は今、私が担当している事件なのですが……」


 本を買った後、よく分からない流れで霧島さんと一緒に飯を食いに来たんだけと、深刻な面持ちで霧島さんが語り出した。

 

 完全個室の寿司屋を選んだのはこれが理由かよ。クソっ! 良いキュウリがあると釣られた俺が馬鹿だった!

 

 ちなみに亮はアニメを見たいからと先に帰ってしまった。俺だって見たいのに……。

 ここまで来たらしょうがないってことで、カッパ巻きを食べながら霧島さんの話を聞いてやった。


「何か良い案は無いでしょうか……」


 いやこのキュウリマジ旨いな。シャリもカッパ巻きの為にあると言っても過言ではない絶妙な甘さだ。流石1本2万円(税抜き)もするだけはあるわ。

 こんな旨いカッパ巻きを奢ってくれる霧島さんマジ天使。インテリヤクザとか思って悪かった。


「あのー、聞いてますか?」


「え、なにが?」


「……」


 えー、そんなこんなで霧島さんが説明(2回目)をしてくれた内容を簡単にまとめる。


 斎藤康博さいとうやすひろ被告(34)は、7カ月程前の7月1日の深夜に自家用車を運転し、壊れたガードレールに誤って突っ込み、海に車両ごと転落する事故を起こした。その結果、同乗していた妻の塔子とうこさん(31)が亡くなった。

 事故当日、塔子さんはアルコールを摂取し、容態が悪化した。妻の苦しそうなさまに冷静さを失った被告は、普段は運転をしないにもかかわらず(運転免許はある)、自ら運転し、妻を病院に連れて行こうとした。

 しかし被告は3年前から鬱病を患い、抗うつ剤を服用していた。病気及び付随する薬の服用により注意力が落ち、かつ妻の容態の悪化で気が動転していた結果、被告はカーブする公道のガードレールが破損した箇所に差し掛かった際に、誤ってアクセルを踏み込んでしまい、海に転落した。被告はなんとか車から脱出し、助かったが、妻はそのまま溺死するに至った。

 鬱病は自動車運転処罰法の3条2項に規定される『正常な運転ができないおそれ・・・のある病気による危険運転致死傷罪』における政令で定められた病気に該当する。そして、東京地方裁判所は諸般の事情を斟酌しんしゃくしつつ、本条項を適用し、懲役6年の実刑判決下した。

 

 しかしこの1審判決に納得できない者が居た。


 それが霧島さんだ。霧島さんの検察官としての勘が、この事件は過失による単なる事故ではなく、人間の明確な悪意が絡んでいると訴えてるんだってさ。

 霧島さんはすぐに不服申立て、所謂控訴をし、現在、東京高等裁判所で第2審が進められているんだけど、如何せん明確な証拠が無い状態で『被告の証言や病状から判断して、過失ではなく、故意又は未必の故意である』との漠然とした主張だけでは、1審を根本から覆す判決は下りない。そうなると精々危険運転致死傷罪の範囲内でより重い量刑を狙うくらいしかできない。

 実際、控訴趣意書も大したこと書けなかったみたい。でもそんな控訴趣意書しか提出できなかったのに、控訴棄却決定が為されなかったってことは相当上手い書き方したんだろうな。ただ、そこは凄いけど旗向きが悪いことに変わりはないんだよなぁ。

 

 そして、その敗色濃厚な審理が3日後にある。


 霧島さんはどこか疲れた顔をしている。強面なのにそんな顔をすると妙な哀愁があって、ちょっと笑える。


「で、霧島さんは康博さんを殺人罪と見てるんですよね?」


「はい……。勘を頼りに動くのは法曹人としては間違っているのでしょう。しかし、もしも、もしも被告が悪意ある殺人者であった場合、今回の量刑はあまりにも軽すぎます。それは認められない。私が非難されようとも議論を尽くすべきです」


 うっわ。なんか無駄に正義感が強い。見た目とのギャップありすぎて違和感が凄い。


 ……しゃーないなぁ。


「はぁ」


「やはり結城君でも難しいですか」


 そんなしょげた顔すんなよ。いいよ。やるよ。亮に丁度いい土産話が出来るしな。


「難しいかは分からないけど、やるだけやりますよ」


「!」


「ただ、1ついいですか?」


「なんでしょうか?」


 霧島さんが緊張しているのが分かる。別にそんな難しいことじゃないから安心してくれ。


「疲れるから敬語やめていいか?」


 もうやめてんだけどな!


 ぽかんとしたインテリヤクザって結構レアじゃなかろうか。面白い絵面だ。




















「こんにちは。少しだけお話のお相手になっていただけませんか?」


 東京拘置所にて、霧島検察官の助手という体で康博被告と取り調べをさせてもらってる。勿論、記憶を読む為だ。

 

「……構いませんよ」


 康博さんは疲れきった顔をしている。元気も無いし、如何にも病人って感じだ。


「ありがとうございます。先ずは──」


 まぁ、話の内容なんてどうでもいいんだよね。今の目的は記憶を読むことだけだし。


 はい。真相が分かりました。余裕だぜ。

 

「今日はこのくらいにしますね。お疲れのところお時間をいただき、ありがとうございました」


「いえ、どうせやることもないですし、いいですよ」


「ありがとうございます。それでは失礼します」


 一礼して、取調室を後にする。

 俺の後ろに控えていた霧島さんが訊いてきた。


「何か分かりましたか?」


「はっきりとは分からん」


「そうですか……」


「だけど朧気ながら何者かの描いた絵・・・・・・・・は見えてきたよ」


 霧島さんが面白いくらいはっきり驚いてる。


 ……なんかだんだん霧島さんから萌えを感じてきたんだけど、俺も精神科に行った方がいいかな?




















塔子とうこさんのことについて教えて下さい」


 今度は塔子さんの働いていた保育園に来ている。霧島さんには車で待っててもらって、俺1人の聞き取り調査だ。


「はぁそうですねぇ」


 園長先生の部屋。園長をやってる初老の男性と2人だけだ。

 ちなみに俺は今、ライトグレーのスーツを着て、無理を言って拝借した検察官バッジを付けている。

 だから俺みたいな覇気の無い若造にもそれなりに答えようとしてくれる。


「明るい方でしたよ。親御さんからの評判も良かったですし」


「親御さんと良好な関係ですか。例えば不倫とかですかね」


「! いや、それはないんじゃないかと思いますよ」


 はいウソー。康博被告と園長先生の記憶を見たから分かる。塔子さんは4年程前から当時ここの保育園を利用していた若いお父さんと不倫関係にあった。

 そしてそれは職員では誰も気付いていない(と園長先生は考えてる)みたいだ。

 確かに、俺が園長先生のとこに来る前に他の職員に挨拶しつつ記憶を見たら、不倫については知らないようだった。全員の記憶を細かく見たわけじゃないけど、ある程度の信憑性はありそうだ。

 それと、なんで園長先生が知ってるかって言うと、たまたま男女の会話・・・・・をしているところに遭遇したことがあるようだ。それが4年程前。

 

 そして園長先生はこの事実を警察に言っていない。


 園長先生は職員と親御さんの不倫が公になり、保育園の評判、ひいては経営に影響が出ることを危惧しているみたいだ。

 そして、万が一SNSなりなんなりで世間の注目が集まったり、今回の事件の関係で警察の目が保育園に向くことを何よりも恐れているんだ。


 何故なら。


「隠し事がお好きなようですね。こちらはあなたの今までの横領の事実を把握しています。私の言いたいこと・・・・・・は分かりますね?」


 言外に正直に言わないとバラすと脅す。


「なんの証拠があってそんなデタラメを言ってるんだ。ふざけるのはやめなさい」


 おっと。威圧的になってきた。ウケる。


「ちょっとした縁で帳簿データと保育園利用者のデータを入手したんですよ。今年度はまだ269万円らしいですね。昨年度に比べたら112万円も少ないです。改心したのでしょうか?」


 にっこりと笑い掛ける。


 ちょー楽しいぜ!


 社会福祉法人である保育園の財産を、ここでは園長先生が1人で管理している。それを利用し、不正な会計処理をして私腹を肥やしていたのだ。

 そしてその会計が反映された帳簿データも当然ある。

 そういった物を作成する過程で、この園長先生は横領の金額をしっかり認識していた。完全に長期記憶になっていなくても、一度認識してしまえばそれは魂に記録される。

 だから俺はそこから知ったことを言っただけだ。物的証拠なんて何も無い。フヒヒ。


「……本当なのか」

 

 でもここまで弱みを正確に把握してる人間が現れたら、信じざるを得ないんじゃないか。

 仮にまだ疑っていたとしても、一笑に付すことはできないのが人情ってもんだ。


「なーに、心配は御無用です。ちょっとした依頼をお受けしてくだされば、悪いようにはしないとお約束しましょう」


「……」


 こうして証人その1をゲットした。

 霧島さんを連れて来なかったのはこういう手段を嫌ったら面倒だからだ。最初に挨拶した職員さんの記憶に、横領を怪しむ感情があったからね。こういうパターンもあり得ると思ったんだよ。

 悪いが俺は正義の味方ってほど清廉潔白な人間じゃないんだ。ゲヘへへ。


 ちなみに、検察官の証人の尋問請求を裁判所に認めてもらえれば、証人を強制的に召還してもらうこともできるが、それだと憲法38条1項を具体化した刑事訴訟法146条の証言拒絶権を主張されて、証言を拒まれる可能性があるし、あくまで検察側に有利な証言をさせたいのだから、仲良く(?)しておく必要があるんよ。

 ね? 俺が正しいだろ(詭弁)?





















 都内の某メンタルクリニック。


「ふむ、斎藤康博さんですか」


「はい。覚えていますでしょうか?」


 白衣に知的な佇まい。医師の須貝すがい壮介そうすけさんが思案顔を浮かべ、ややあってから口を開いた。

 

「覚えていますよ。よくいる詐病患者でしたからあまり印象にありませんがね」


「なるほど。具体的に詐病と判断した理由を教えてくださいますか?」

 

 ここは3年程前に康博さんが一度だけ訪れたメンタルクリニックだ。その時は疲労が溜まってるだけと言われ、鬱病の診断はされなかったようだ。

 今はそこの医師とお話し中よ。今回は霧島さんも同席してる。医師には守秘義務があって、ガードが堅いだろうから、本物の検察官がいた方がいいとの判断だ。特にダーティなこともしないしね。


「長くこの仕事をしてるとね、分かるんですよ。鬱をやってる人は見ればすぐ分かります。薬漬けの患者、鬱、発達障害、そういった患者の顔は比較的分かりやすい。見ればすぐピンときますよ」


 うーん、それは経験則からの判断だからなぁ。ベテラン医師という肩書きがあれば有効な証言になり得るけど、もう1つ欲しいなぁ。欲しいなぁ。


「他には根拠はありますか? 例えば脳を客観的に調べる検査とか」


 須貝医師が俺を探るように見る。


 もう! 焦らすのはやめてぇや。


「……結城さんは分かってて訊いているようですな」


「いえいえ、私の知識は分かっているなどと言えたレベルではありませんので、是非専門家の方に教えていただきたいのです」


「あなたのような方が一番分かりづらい。何か一般的な価値観や統計的傾向から逸脱した要素を持っているようだ」


 うっわ。マジ鋭いな。流石、人を見ることで飯を食ってるだけあるわ。

 だが仕事をしないでも飯を食ってる俺には遠く及ばん。


「私など何処にでも居るタダ同然の値で売られる凡人ですよ。それより検査についてを」


「……光トポグラフィ検査をしました」


 オッケー。それを聞きたかった。


「簡単に言うと、脳の血流量の変化を調べて、特定の疾患パターンに該当するかを見る検査です。鬱も分かりますよ。ただし絶対正確とまでは言えないので、問診の補助的位置付けですがね」


 おkおk。でも理屈はいらんから結果を早くクレクレ。


「斎藤さんは典型的な健常者のグラフパターンでした」


 健常者。

 このワードに霧島さんが揺れる。今、漸く自分の勘が正しかった可能性を提示されたんだ。そうなってもおかしくはない。


「須貝先生は3年経った今でも斎藤さんが鬱でないと思いますか?」


「……それは分からない、と医師ならば言うべきですが、私の見立てでは彼は鬱になるタイプの気質を有していない。だから鬱にはなっていないと思います」


 まぁ最後の質問は余談だ。重要なのは検査の方だ。


「ありがとうございます。今のようなお話を法廷でもう一度していただきたいのですが、可能ですか?」


「……それは医師の職業倫理的に見ても、証言すべき場合ですか?」


 須貝さんは医師であることに誇りを持って、こうあるべきとの理想により自分を律しているのだろう。ぶっちゃけ俺との相性は微妙だが、真っ当な証人としては信頼できる。

 だから俺も真っ当に答える。


「勿論」


 にっこりと笑い掛けてやる。

 須貝さんが目を細める。俺を推し測っているのかね。

 

 俺みたいなニートにそんなことしたって時間の無駄だと思うけどなぁ。


「……分かりました。証言します」


 はい。証人2人目ゲットー!


 ちなみに、こっちは刑事訴訟法149条による証言拒絶権が認められる可能性が高いから、須貝さんは正当に拒否できる・・・

 つまり、拒否しない自由も須貝さんにはある。だからこそ、こうやって話し合って友好的(笑)に証言をお願いしたんだ。

 まぁ、須貝さんの場合は道義的に見ても証言すべきとなるし、仮に召還されれば証言拒絶するしないに係わらず、どうせ裁判所には行かないといけないから、須貝さんからすれば拒絶するメリット又は理由が薄いんだよね。

















 昨日、亮と来た駅前の大型書店。

 働いている店員さんをじろじろと見る。

 

 居ないな。


 俺が探してるのは、昨日、レジを担当していた若い女性の店員さん。彼女が最後の証人さ。


「あ、居た」


 彼女は参考書コーナーで何やらしている。真っ直ぐに向かう。


「こんにちは。少しよろしいでしょうか?」


 仕事の手を止めて、こちらを向く。


「あ、昨日の方」


「覚えていましたか。今日はお仕事で来ちゃいました」


 俺のお仕事と言うワードに固まる店員さん──新道真鈴しんどうまりんさん。


「お仕事してたんですね……」


 鋭い! やはり俺の高貴なるニートオーラのお蔭で分かる人には分かるようだ。うむ。


 しかし不思議なことに、ニートなのに働かなきゃいけないので内ポケットから1枚の写真を取り出す。


「ええ、ちょっとしたイレギュラーでね。それよりあなたはこの人がここ、By-the-books書店に買い物に来たのを覚えていますか?」


 写真には斎藤康博さんが写っている。


「あぁ、はい。覚えていますよ。何回か本を買ってくれた方です」


「何の本を買ったかまで覚えていますか?」


「うーん、タイトルを完璧に覚えてはいないです。だけどどういう本かは覚えてますよ」


 助かるわぁ。本屋さんの証言があるか無いかで勝率が全然違う。


「それはどういった本だったのですか?」


「覚えている」の言葉に嘘はなく、真鈴さんは即答した。


「法律や裁判の本です」


 ひひ、笑いが漏れそう。よしよし、真鈴さんは良い真鈴さんだ。また買いに来てあげよう。


 この後、裁判で証言してくれるようにお願いしたら、軽くオッケーしてくれた。やはり良い真鈴さんだ。

 そして俺の職業が何か余計に気になるとか言ってきた。俺も何故こんなことをしてるのか知りたいよ。

















 さて、○ケモン……じゃなくて証人も集めたし、あとは育成タイプ……じゃなくて尋問の予想と証人テスト(想定される質疑応答の確認。事前に行う)用のファイルを作りますか。この前は○ordベースでPDF化したし、今回は○太郎にしよっと。

 あ、あと霧島さんにお願いがあったんだった。


 車を運転している霧島さんに話し掛ける。


「ちょっと仕入れて欲しい証拠があるんですよ」


 原本でなく、写しであればそんなに難しい物じゃないから、サクッと持ってくればオッケーよ。ま、原本を引っ張って来れた方がいいんだけどな。


「? いいですよ。なんですか?」


「康博さんの会社で実施された健康診断の結果です」


 詐病を補強していかんとな。ゲヘへ。



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