集落系事件で美少女が居ないのは納得できない [バレ編]

「大丈夫だ。俺に良い考えがある」








!!( ; ロ)゜ ゜





 思い詰めた顔の晴さんが口を開く。


「ごめんなさい……。多分、嵌められた……」


 !?


 いや、そうか! それなら納得できる。


「依頼人が黒幕か」


「はい……」


 俯いたうつむ晴さんが小さな声で言う。

 

 そんなに気にしなくていいのにな。晴さんはまだ中学生だろ。大人だってよくやらかすんだから、晴さんの場合むしろ少ないくらいなんじゃないか?

 そんなに晴さんのことは知らないけど、この感じならそんな気がするよ。


 ぽんっと晴さんの頭に手を乗せる。


「……」


 晴さんが俺を見る。


「ドンマイ」


 くしゃっと髪を掻き回す。

 

 ……サラサッラやな。なんやこの生き物。俺とは完全に別種族だろ。美少年目美少女科とかいう謎の生態系(意味深)を持つ珍種だな、うん。


「結城さん……」


「ん?」


「痛いです……」


「ア、ハイ」


 危ない所だった。通報されたら実刑は避けられない。


「ありがとうございます……」


 なんやこの生き物! 戦闘力高すぎぃぃぃ!




 


 











 村の外れ、少し森と混ざったような空間。俺たちは作戦会議をしていた。


「状況を整理しよう」


 晴さんが頷く。


「晴さんが依頼人を怪しんだ理由は?」


「前提としてこの村の収入源について推測した……。人、特に子供を、たくさんの人間を養うだけの大金に換える手段はそんなにない……。人身売買、具体的には臓器売買、あとは奴隷売買とか……」


 いずれにしろ、真っ当な手段ではないね。だけど、この村の現状を考えるとそれくらいやらないと成り立たない。


「それならどう考えても村の外の世界に詳しい人が必要……。でも村の中の人は外の常識を知らないみたい……。違うかもしれないけど、依頼人がそうであるなら全てに説明がつく……」


「依頼人と何かあったのか?」


 晴さんが困ったような、イタズラを見つかった幼子のような、そんな顔になる。

 

 なんだってんだ。


「依頼人は警察にも捜索願いを出したって……。でもそれだけじゃあ不安だから、探偵にもお願いしたいって……」


 なるほど。それでさっき「警察は来たか」って訊いたのか。

「この村に行ったっきり行方不明になっている」と晴さんに伝えたってことは、真っ当な依頼人なら警察にもそう伝えているはずた。

 そして、そこまで分かっているなら警察だって聞き取り調査の為に訪問くらいするだろう。それが無いってことは依頼人は嘘をついていることになる。つまり依頼人は警察に捜索願いを出していない可能性が高くなる。

 凛さんが嘘をついている可能性も無くはないが、凛さんの立場からするとメリットが無い又は不明確だ。

 生け贄に捧げることを全く隠さずに話すくらい自分たちを悪いと思っていないのに、警察が来たのを隠す為に「来ていない」と話すのは些か不自然だろう。普通、警察が来た事を隠したい時ってのは悪い事をしたという認識がある時が大半。従って、一応は真実を述べたと推定してもいいだろう。


「晴さんは依頼人の狙いは何だと思う?」


 俺の考えでは、客の求める商品、つまり適切な性別、年齢、容姿の人間が村に居なかったからだと思う。

 そして探偵をしている晴さんは動かしやすいと思われたんだろう。依頼という綺麗な包装紙で真実を隠した。そんなとこだろう。

 

「多分、僕が需要に合致した人間だったから……」


「……俺もそう思う。で、問題は犯人の居場所と逮捕の証拠だ」


「分かってます……」


 おそらくは依頼人の正体は空皿家の人間。そして村人が違法な人身売買に絡んでいないとなると、実行するのは空皿家の人間しかいない。

 つまり空皿家の人間を纏めて逮捕する必要がある。


 俺に考えがある。

 空皿だか、灰皿だか知らないが敵に回したのがどれ程ヤバい奴かをしっかりと教えてやるぜ。ゲヘヘヘ。

 

 晴さんがまた暗い顔をしてる。

 

「今回は解決できないかもしれない……。現実的に考えて、警察上層部や地元政界にもこの村を手助けする人間が居る筈……。そうでないと、今まで大きな問題にならずに何十年もやってこれるわけがない……」


 確かにな。

 だがそれも考えてある。警察だって一枚岩じゃあない筈だ。人が集まれば派閥が生まれる。この村に好意的な人間ばかりで警察や政界が成り立っているわけではない。

 つまりそうでない人間の下に情報を届ければいいだけなんだ。俺なら記憶を読めるから、その人間の立ち位置やスタンスが丸分かりだ。


 だから心配すんなよ。


「大丈夫だ。全てひっくり返してやろう」


「でも……」


 仕方ないなぁ。たまには大人っぽいとこも見せてやるか。


「晴さん」


 俯いていた晴さんが顔を上げる。


「晴さんがなんでこんな怪しい依頼の怪しい村に突撃してしまったのかは俺には分からない。でも、頭の良い晴さんが慎重さを無くしちゃう何かがあったのは何となく分かる」


 晴さんの視線が泳ぐ。


「それを俺から詮索するようなことはしないから安心しろ」


 晴さんが「はい」と消え入りそうな声を吐き出す。


「話がそれちゃったな。要するに俺が言いたいのは、今の晴さんは失敗しちゃって少しネガティブになってるだけだってことだ。しかもその失敗には情状酌量の余地がいっぱいある」


「でも事実として……」


「事実がどうであれ、やってみないと分からないこともある。だいたい犯罪なんてのは道理を引っ込めて無理を通し続けないと隠せない。そんな薄氷の上の無罪がいつまでも続くわけがない」


 まぁこんな屁理屈は晴さんを元気付ける為の誤魔化しだ。でもそれが必要な時もあるって俺は思う。


「大丈夫だ。俺に良い考えがある」


 多分、俺は今、物凄く悪い顔をしていると思う。だって晴さん引いてるんだもん。


 悲しいです。


 でも笑ってくれたから、まぁ良しとしよう。





















「こんな辺鄙へんぴな村に来てくださった御二人にお料理をご用意いたしました。さぁ、お上がりになって下さいまし」


 夕方、村長宅──凛さんの家に訪れると、満面の笑みを浮かべた凛さんが出迎えてくれた。

 目が潤んでいて、よく見ると瞳孔が開いている。さらに脂汗もたっぷりと滴っている。瞳孔の開きや脂汗は薬物中毒者の典型的な特徴だ。明らかにまともじゃない。

 でも凛さんを責めるのは酷だろう。

 言ってしまえば、産まれた時から薬物を洗脳に使うカルト集団の中で生きてきたんだ。凛さんに選択肢なんて無かった筈だ。

 裁判では心神喪失や心神耗弱による責任阻却により、あるいは期待可能性(ある時点で違法行為をしなくて済む状況や状態であったこと。責任主義に重きを置いた場合は刑罰を科すには原則として必要)が無かったとして、寛大な判決が下される可能性がある。

 俺の主観では凛さんは被害者だ。

 だから、今の彼女の好意あくいを素直に受け取りたいという感情は、決して全てが嘘ではない。


「それはありがたいです。お恥ずかしながら、歩き回ってお腹がペコペコでして」


 晴さんもうんうんと頷いている。

 凛さんが嬉しそうに一層狂気的に笑う。 


「まぁ! それは大変! 早く召し上がっていただかないといけませんね」


 凛さんに導かれるままに、俺たちは夕食の席に着いた。

 テーブルには岩魚いわなだろうか、川魚と山菜を使った、料亭のおもてなしのような豪華な食事が並んでいる。


「さぁさぁ、どうぞ召し上がってくださいな」


 晴さんがチラッと俺を見る。


 大丈夫だ。


 そういう意味を込めて俺から料理を口にする。味は普通に旨い。

 晴さんも味噌汁から口を付ける。


 そして俺たちは強烈な睡魔に襲われ、意識を手放した。





















 というのは嘘だ。

 眠っているように見せかけた狸寝入りである。


 当然だろ? あんな分かりやすい罠に無策で突っ込むかよ。


 記憶をより詳しく読むと、こんな風に睡眠薬入り料理を振る舞い、客が深い眠りに陥ったところを空皿家が管理する「神殿」に運ぶのが常だったようだ。

 そこから先、客がどうなるかを知る村人は居ない。それが当たり前の真理で疑問を挟む余地は無い。村人はそんな風に洗脳されている。

 都合の良い閉鎖空間に、薬物による苦痛と快楽、更に神様の贈り物たる現金という飴。これほど洗脳に適した環境はなかなか無いだろうよ。


 人の話し声が聞こえてきた。


「眠っでるが?」


 第一村人のじいさんやないかい。元気だったか?


「ええ、ぐっすりです」


 今度は凛さんやな。


「これで空神様の怒りが鎮まるんだな」


 お、新しい男やないか。新しい男ってなんかエロいワードだな。


「それでは運んでください」


 俺の膝と肩に逞しい腕の感触が……。


 って、おい! これお姫様抱っこやないかい! ひぇ、恥ずかし。いったい何が悲しくてガチムチの野郎にお姫様抱っこされなきゃいけないんだ! 

 ダ、ダメだ。シュールすぎて笑ってしまいそう。や、ヤバい。助けて晴さん!


「こっちの子は私が運びますね」


 !?


「すまねぇなぁ。急に腰が痛んみだじてよ」


 おい! なんだそれ! ズルいぞ! ……は! うらやまけしからん状況に笑いが引っ込んでいった……。なんという幸運()だろうか。

 

 まぁそんなこんなで俺たちは神殿に安置されたわけだ。


 ちなみにどうやって睡眠薬に対処したかというと、この村に来た時に晴さんに渡した守護の札を使った。晴さんは持ってるから俺のだけサクッと制作した。

 何度も言うが俺の霊能力はチートだ。特に霊圧は現役世代世界最強なんじゃないかって思ってる。

 そして、くずし字を書かせた知り合いの除霊師──坂神さかがみめいもかなりやる奴だ。こと、霊関係のアイテム制作においては俺以上。そんな俺たちの合作したガチート守護の札は霊的な現象以外にもそれなりの防衛力を発揮する。

 その1つが、不都合な、あるいは悪意ある薬物の効果を消滅させるものだ。

 

 何も問題は無かった。単に反則チートを使っただけである。ゲヘヘヘ。まだまだいくぜ。


 神殿の中に人の気配。フヒヒ。獲物が寄ってきたぜ。


「この少年が今回の目玉商品か」


「ええ、綺麗な顔をしてるもの。少年好きには堪らないでしょうよ」


 ふわぁ、なんという三下臭いセリフ。声の感じからして、若い男と大人になりきる前の少女。フヒヒ。カモがネギしょって来たとはこのことか。

 ヤバい、また笑いそう助けて! 晴さん!


「本当に綺麗な顔。肌もスベスベ……。少し味見・・しようかな」


 !? 


 さっきから晴さんとの扱いに、違いがありすぎませんかねぇ……。


「やめておけ。商品に傷でも付けたら破滅しかねない」


 そうだ! そうだ! 悪の美学は無いのか!?


「そうね。あの豚は大事なお友だちだもんね」


 ブヒヒ……。 


「じゃあさっさと積み込むぞ」


 なんか運ばれそうな雰囲気。ここが好機。


 今だ!


 急に神殿の温度が10度は下がる。

 空皿家の2人はざわざわと妙な気配を感じているだろうよ。

 

『死ね。マジ死ね』


『クソ変態女が!』


『生きたまま内臓を引きずり出してやる!』


『絶対許さない。末代まで祟ってやる』


『『『『『絶許』』』』』


 はい。今まで殺されたお客の皆に協力してもらいました。

 もうね、この神殿に居るわ居るわ。遠目で見ても分かったもん。聞けば、別の場所で殺されたのに、わざわざこの神殿に戻って地縛霊やってる奴まで居るんだよ。相当キテるわ。


 凛さんの家に戻る前にこの神殿に寄って、霊の皆と打ち合わせしてたんだよね。彼らもブッチ切れてたから、怨念タラタラだった。

 だけど空皿家はそれなりに霊に耐性のある一族らしくて、思ったような祟りは起こせなかったんだって。


 そこで俺は彼らに取引を持ち掛けた。


──空皿家を潰すから協力してちょうだい。約束してくれたら俺の霊気を貸してあげるよ☆


 そうやって霊を誑か……じゃなくてお友だちになった。俺の指示に従う代わりに、指示以外ではチート印な俺の霊気を使って空皿家を好きにしていいと約束してな。

 この約束には言霊ことだまとしての効果を持たせたから、一定レベル以上のヤバい奴じゃないと約束を破れない。

 抜かりは無いぜ!


 さっきは、俺の霊圧を高めることで合図を送ったんだ。俺が霊圧を高めたら、貸してあげた霊気で倍増した怨念をおもいっきりぶつけるように言ってある。


「な、なななにがが」


「──!?」


 おーまだ自我を保ってるとは思ったよりやるじゃないか。しかも男の方はまだ文字を発することができている。

 自分の許容範囲を越える霊圧に晒されるのは、海の底に裸で引き摺り込まれるようなものだ。息もできず、光もなく、冷たい世界。

 それなのにまだ正気だなんて、霊に対する耐性だけなら中堅以上だな。

 

 だが無意味だ。


 少し手助けをしてやろう。


 霊圧を高める。

 晴さんの持つ守護の札が壊れない程度に抑えはするが、ギリギリまで行かせてもらうぜ。


 霊圧に怨念(笑)を乗せてやる。


──マジ面倒な事しやがって俺の日曜日と月曜日を返せよニートだってゲームしたりアニメ見たり忙しいんだぞマジふざけんなよポテチ食わせろよコーラもつけろよペプ○じゃないからな間違えたら許さないからな……。


 地震でも起きたかのように神殿がガタガタガタガタと揺れ出し、パキパキと古い柱にヒビが入る。


「──!?」


「──」


「」


「」


 はい終わり。意識が無い以上抵抗力は下がる。俺レベルなら別だが、こいつらくらいのレベルなら怨念で悪夢を見せるのは容易い。皆ほど憎しみに溢れすぎた怨霊おんりょうならね。


 さて、もう狸寝入りも要らないな。

 俺は何事も無かったかのようにすくっと立ち上がる。あとは仕上げだ。


「晴さん、もういいぞ」


「」


 あれ? 返事が無い。


「起きないとイタズラしちゃうぞ」


 ツンツンと誰かにつつかれた。


 何だよ。今、いいとこなんだよ。邪魔するなよ。


『親分。この子気絶してますよ』


 え! マジ!? 札は完璧だろ!? なんで!?


 俺に嫌な考えが浮かぶ。


 まさかまた暴走? しかしめいの書いた文字があるのにあり得ない……。


 混乱する俺へ残念な奴を見る目を向ける怨霊たち。


 何だよその顔。生意気な奴らめ。


『いや、あのね。普通に恐すぎて気絶してるんですよ。親分って馬鹿なんですね』


 え……。






















「遅かったな。何をし!? こここれはれれれ霊気!?」


 おー凄い。意識をはっきり持っている。しかも抵抗までしてきた。こりゃ普通の怨霊が束になろうとどうにもできないわけだ。


 さっき気絶させた男と少女の記憶を読んで、商品の引渡し場所とそのお相手を調べた。そんで彼らの車を拝借して、ここまで来たんよ。いやぁオートマでよかったぜ。

 空皿家の仮面を被り、男と少女に成りすます。

 そして空皿家外交担当の男に何食わぬ顔(仮面)で近づいて、即、霊圧をガッツリ上げたわけだ。

 ちなみに気絶した空皿家の2人は、後部座席で商品の役をこなしてもらってる。今はきっと悪夢を楽しんでくれてる筈だ。地縛霊以外の、普通に2人に憑いてる霊もいっぱいだしね。


「きき貴様! はぁぁああ!」


「はい無駄」


 どーん! と一気にギアを上げる。


「──!?」


 え? しゅごい。こんなに耐えた人、命以外で初めて見たよ。


 ……やったぜ! やっと3%以上の本気・・・・・・・を出せるぜ!

 残念だったな。今までは精々1、2%ってとこだ。どこまで耐えられるか、レッツクッキング(?)!


 3%。


「──@;/``**@」


 4%。


「──」


 5%。


「っ──」


 あ、なんかくしゃみ出そう。


「へくしっ」


 19%。


「」


「あ」

 

 凄い勢いでぐりんって白目剥いたよ。きんも。


「ふっ。また詰まらぬ者を斬ってしまった……」


 また俺に残念な奴を見る目を向ける霊たち。


 てへ☆


『『『うわぁ』』』




















 さて、さっき気絶させた奴が晴さんに依頼を出した奴なんだけど、そいつの記憶を読んだところ、どうやら主なパトロンはA県知事、与党系列の県議会議員数名、A県警察本部長と本部長に親しい警察庁の幹部数名のようだ。


 ふむ。真っ黒やないかい! 日本どうなってんだよ!?


「晴さん、ちょっと俺の身体を守ってて」


「へ!? 何を言ってるんですか?」


 車の座席に座って準備完了。


「すぐ戻る」


 幽体離脱ぅ!


 霊体になった俺はびゅーんと非常識な速度で飛行する。でも物理法則なんて関係無いから、常識もクソも無いよね。

 空皿家の3人は暫く悪夢の世界から帰ってこないので拘束する必要は無い。だから適当なとこに転がしとけば大丈夫。


 そんなこんなで到着したのがA県知事のお家。

 早速、記憶を読ませてもらうぜ。


 ほー。オッケー把握した。次!


 こんな感じのノリでパトロン全員のとこに行き、記憶を読んでいく。


 おkおk。全員セフセフだ。

 

 何をしてたかっていうと、いつも俺をこき使ってくれてる警視総監殿と関係があるか否か、近しい関係か否かを調べてた。


 うん、今回の事件と俺のやらかしの後始末は警視総監殿に丸投げするつもりだ。フヒヒ。

 いつもいつも子供の小遣いみたいな謝礼金とかスナック菓子詰め合わせ程度で良いように使いやがって。この怨みを今こそ晴らしてやる。


 今回のパトロンたちは警視総監殿とは無関係だったよ。


 あとは、村の大麻畑の存在、洗脳された村人、人身売買の実態とその被害者の居場所、違法臓器移植手術をした病院、処理された遺体の場所、空皿家の3人の居場所をPDFファイルにまとめて、USBにコピーして、警視総監殿のとこに行くだけだ。

 ちなみに「他人の車を無断で拝借したけど、重大な犯罪事実の調査の為にやむを得なくしたことだから穏便に頼むぜ?」って趣旨のことも書いてある。どうせバレるしね。早めに手を打つに越したことはない。




















「こ、これは……!」


 警視総監殿──佐藤一さとうはじめさんが息を飲む。

 うん、なんか警視庁の入り口に居たお巡りさんに俺の名前を伝えて、警視総監殿に直接渡したい重大な情報があるって言ったら、信じられないくらいスムーズに面会まで来てしまった。日本の警察はもうダメだと思う。


「しかし本当なのか? 具体的な物的証拠は無いようだが……?」


 そうなんだよなぁ。調べてくれればいろいろ出てくるだろうけど、現時点では単なる可能性を提示したにすぎない。

 

「正直、ここには証拠は無い」


「そう言われると警察としては動き辛い部分もある」


 でしょうね。分かってるよ。

 

 すぅと息を吸って、気合いを入れる。

 

 俺の演技力を見せてやるぜ!


「だから! これは個人的なお願いだ。一さん! 探偵としての俺を信じてほしい。調べてみて、俺の話が嘘だと思ったら公務執行妨害で俺を逮捕してくれても構わない! でもこの巨悪をのさばらすのだけは絶対に駄目だ! 頼みます!」


 ぴしっと頭を下げる。


 ゲヘヘヘ。俺が今まであんたらのせいで培ってこざるを得なかった、嘘と雰囲気で押しきっちゃえスキルだ。

 一さんよぅ、さっさと絆されてしまえ。


「ふっ」


 ん? なんか想像していた反応と違う……。


 !?


「は、一さん、あんたまさか……」


 一さんから、霊気が溢れ出している。なんという霊圧。俺には遠く及ばないが、それでも明らかに一流クラス。


「私が君を買っているのは探偵として、だけではない。霊能力を犯罪捜査に駆使している同志としても、高く評価しているのだよ」


 マジっすか。

 霊能力者は俺以外にも居るけど、本物は極めて希少だ。

 それがまさか警視総監? なんの冗談だよ。


「おかしいと思わなかったか? ただの探偵をここまで特別扱いするなんてあり得ないだろう?」


 ホントだよ!? いつもおかしいおかしいと魂で叫んでたよ! くっそ。一杯喰わされた。

 

 一さんはまるでマフィア映画の主役のような魅惑的な笑みを浮かべる。絶対に警察官のしていい顔ではない。


「これも君の力で入手したんだろう?」


「あ、ああそうだ。確かな情報だよ」


「いいだろう。私も本腰を入れよう。車を勝手に運転したことも巧く揉み消しておく」


 何だかんだと結局動いてくれるのか。けっ。ビビらせやがって。


「ただしこれからもよろしく頼むよ? 名探偵結城幽日君」


「」


 で、ですよねー! そんなこったろうと思ったよ!?





















 こうして、日本の闇と大々的に報道されることになってしまった事件は解決した。多数の逮捕者や入院患者を出し、正直、ハッピーエンドとは言えないと思う。それでも終わりは終わりだ。


 そう、穏やかなニート生活が終わりそうなんだよ!?


「事件解決には警視庁の切り札と言われる探偵の存在が──」


 テレビでは、俺の個人情報こそ出ていないものの、俺が今まで解決してきた事件の関係者へのインタビューなど、マジでやめてほしい報道が連日なされている。


「この名探偵の今後から目が離せません!」


「ゆうじゃん、これ!」


 亮のテンションに反比例するように俺の気持ちは真っ暗である。闇だ、闇。


 もうおしまいだぁ。


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