集落系事件で美少女が居ないのは納得できない [ネタ編]
「僕たちなら、きっと解決できる……」
┐( ̄ヘ ̄)┌
日曜日。
それはニートにとってはなんとも形容し難き困ったちゃんな曜日である。
だって皆休みなんだぜ?
ニートの優位性がまっっったく無いじゃん。つーわけで俺は日曜日が嫌いだ。だからやむを得ず部屋でグダグダして英気を養ってる。
ぴんぽ~ん↑? ぱんぽ~ん↑?
……誰か来たようだ。嫌な予感しかしない。でも最近はもう悟りに近い精神状態だ。どうせどうあがいても疲れるんだろ。分かってる分かってる。
インターフォンを取る。そこに映し出されたのは意外な人物だった。
「おはようございます……。相談……」
いつぞやに俺を追い詰めた少年探偵──
相変わらず眠そうっすね。それにしてもどったのだろうか。こんな
ガチャリとドア開ける。
「久しぶり。とりあえず入ってくれ」
「お邪魔します……」
……ちょっと思ったんだけど、これ、未成年に対する
でも最近の風潮を
晴さんを見る。
うむ、眠そうでやる気をまったく感じさせない素晴らしい雰囲気であるが、よく見ると普通に美少年だ。女装すればそこらのアイドルにも負けないくらいの美少女になりそうだ。ふむふむ。
……やっぱお引き取り願おうかな。アウトでしょ、これ。
ふぇぇ、美少年には勝てなかったよ……。
今は、晴さんを客室に案内して相談とやらを聞いているところだ。
「実は行方不明者の捜索依頼を受けていて……。A県の
ちょっと待って。晴さんおいくつでしたっけ? あなた普通に探偵業をこなしてますけど、労働基準法とか探偵業法的に大丈夫なんだろうか。疑問は尽きない。
……ミステリアス系(?)美少年とはたまげたなぁ。
「調べてみたら……空器村での行方不明事件が過去50年の間に数回起きてる……」
お、おう。
もうヤバい臭いがぷんぷんしてて胸焼けしそう。
悪いことは言わない。事件は警察に任せて、俺と○ケモンしようぜ。○リカーでもいいぞ。俺の害悪プレイを見せてやるぜ。
「明らかに空器村には何かある……」
せやな。だから危ないことには首を突っ込まないように……。
「だから僕たちで行ってみましょう……」
「なんでやねん!?」
ダ、ダメだ。キリがないからツッコまないつもりだったけど無理!
おかしいって、絶対おかしいって! なんでそこでやる気を出すんすか!? そしてなんで俺を誘うんすか!?
「大丈夫……」
晴さんが俺の目を真っ直ぐに見つめる。
おいやめろ。俺をそっちの業界に引きずり込もうとするな! 俺はノーマルなんだ!
「僕たちなら……きっと解決できる……」
……。
こうして俺らはA県の空器村へと旅立った。美少年との2人旅。警察にバレたら絶対にヤバい。
でもしょうがない。晴さんにすっっっごく純粋な目で見つめられたら断れないって。美少年恐るべし。
やって来ました空器村!
新幹線を降りてから電車を乗り継いでタクシーを使い、やっと辿り着いたぜ。
周りは山しかない。戦後すぐに建てましたって感じの家が
「な、なぁ晴さん」
「なに……?」
「帰らない?」
晴さんはキョトンとして首を傾げる。なんという破壊力だろうか。
「い、いや、なんでもない。行こうか」
く、この子強すぎる……!
「うん……」
うん! ……は! ヤバい。危うく底無し沼に沈むところだった。
そんなこんなで村へと足を踏み入れる。
その瞬間、俺の全身に痺れにも似た冷気──霊気が振りかかる。
ほぅ。これはこれは。
怨念、いやちょっと違うな。なんだろうか、
だが俺は全く問題無い。霊能チートを舐めてもらっては困る。少し気合いを入れて霊圧(霊体、霊気の密度と存在感)を高める。
すぅと痺れが消えていく。
ふっ。他愛も無い。
「結城さん……こ……れはいったい……?」
あ、やべ。晴くんちゃんさんのこと忘れてた。てへ☆ミ
俺はリュックから1枚の札を取り出す。
そこには俺の字……ではなく、知り合いの除霊師に書いてもらったくずし字が記されている。
──この札を持つ者を守護すべし
こういった趣旨の文をくずし字は形成している。あ、ちなみにくずし字ってのは古文書とかで使われてる、ミミズの這いずり回ったような汚い字のことね。
これに俺の念を込める。
──早くお家帰りたい。ゴロゴロしたい。ポテチ食いたい。
……間違った。気を取り直して、Take two!
──
一陣の疾風が駆け抜ける。俺の霊気が札に吸収されていく。
そして完成する。
おそらく現役世代最強の守護の札だ。然るべき所に出せばヤバい値が付くこと請け合いだ。
それを晴さんに差し出す。
「これを肌身離さず持ってて。絶対だぞ。いいな」
「? 分かった……」
受け取った瞬間、晴さんが何かを感じ取ったのか、ビクっとする。しかしすぐに先ほど迄の身体の強張りが消えていることに気付いたようだ。
「結城さん、あなたはいったい……」
「ただのニートだって。それより行くぞ」
さぁ鬼が出るか蛇が出るか。
なんつってな! 実際なんでもいいけどな! だってそこは俺の領域だ。軽く捻ってやるぜ。
「僕たち、A県の民俗文化について調べているんです……」
!?
え、晴さん何言うてはりますのん? 聞いてないんやけど?
「はぁ、そんで俺らの村さなんの用だべ」
「こちらの結城さんは
!?
それも聞いてないよ!? さっきいい感じにニート宣言したばっかなんだけど!? 晴ちゃんくんさん? ちょっと酷くない? せめて事前に打ち合わせをだねぇ……。
晴さんが俺に意味深な目配せをする。
なんという信頼感に溢れた眼差し……! くっ! 仕方ない。許してやらんでもない。テキトーに合わせちゃるわ。
「はい。私、東大学大学院修士課程の結城幽日と申します。先日、古い文献を漁っていたところ、こちらの村には独自の宗教、所謂、民間信仰として大変興味深い慣習があるとの記述を発見いたしました。本日はそちらの取材をさせていただけたらなと思い、訪問させていただきました」
ふぅ疲れた。東大(笑)。ガチニートですぅ。すまんなぁ嘘ついて。
しかし、俺の勢いとよく分からん単語の登場で第一村人のじいさんは困惑している。
「勿論、皆様の信仰や文化を荒らすような真似は誓っていたしませんし、タダでとは言いません。取材を受け入れていただけませんでしょうか?」
「お、おう。そんならまぁええわ」
「ありがとうございます」
「あんたらの言うことはようわがんねがら、村長んとこさ連れてってやる」
どうやら付いて来いってことらしい。じゃあ行きますか。
晴さんが俺に近づいてきた。なんぞ?
「ばっちりです……」
こそっと言ってきた。
いや、少しは反省をだねぇ……。
晴さんが気合いを入れて、キリっとした顔をしている。いつものやる気無さげな顔とのギャップが凄い。これがギャップ萌えというやつか……。
……ま、まぁ許してやらんでもない。
じいさんの後を付いて行きながら、晴さんは村の様子を頻りに観察している。俺もそれに
村の広さは、うーん? 山の何処までが村か分からないから正確ではないけど、山を抜かせば2k㎡位かね。
これは日本に現存する村では最小クラス以下だ。要は実質的には村というより集落に近いのだろう。だけど法令上の分類は山の一部も含めて村となっているってとこか。
ただ、意外な点が2つある。
「結城さん……」
どうやら晴さんも気付いていたようだ。
「ああ、不思議な事に子供が多いな」
「はい。それに皆さんの身なりも良いです……」
普通、こういった田舎の集落は極端な少子高齢化が進んでしまうものだ。所謂、限界集落ってやつね。
確かに、優秀な特産品や観光資源があれば別だが、ここもその類いなのか? そうは見えないんだけどなぁ。
加えて、なんとなくだけど、晴さんの言うようにこの村は貧困って雰囲気じゃない。やはり何かこの村には
先を行くじいさんの背を見る。
……だが記憶を見た限りでは、じいさんは売りについて具体的には知らないようだ。村長とやらに期待するしかないか。
「ようこそ、お
築70年はありそうな村長の家で出迎えたのは若い女だった。年齢は30歳くらいだろうか。
「ご丁寧にありがとうございます。
「僕は五月雨晴です……。結城さんの後輩です……」
俺たちの自己紹介を聞き、驚いたのか女は目を大きく開ける。
「まぁ! 東大学! 優秀なのですね! 私はこの村の村長をしております、
「はい。よろしいでしょうか?」
「勿論でございます。私たちの文化を評価してくださいましたこと、嬉しく思います」
晴さんが俺に目で問うてきた。「質問していいか」ってか。止める理由は無いな。晴さんなら妙なことは言わないだろうしな。
頷いてやる。晴さんも頷いてから凛さんを見る。
「じゃあ早速質問です……。この村独自の政策など他の村との違いは……?」
おっと。核心からボール一個分ずらしたような質問やな。
「違い……ですか。そうですねぇ、あんまり他の事情は知りませんが、私たちの村は子供が多いですね」
ほー。流石にこれに関しては嘘をつかんか。見たまんまだしな。
晴さんの目が怪しく光る。
「何か理由が……?」
「はい。私たちの村では昔から「沢山子供を産み、育てるべし」と言われてきました。それが
オオスギィ。少子高齢化に喧嘩売ってやがるぜ。
何かに気づいたのだろうか。晴さんが微妙な顔をした気がする。
「もしかして、この村は特定の配偶者を持たない……?」
「? 特定のハイグウシャ? ですか」
凛さんは配偶者が分からないのか?
「質問を変えます……。あなたは同じ男性の子を10人産んだのですか……?」
そう攻めるか。
「いえ違いますよ。誰の種かははっきり分かりません」
凛さんは然も当然といった体だ。
確かに、民俗学的解釈の一つに古代日本においては多夫多妻であり、現代のように固定した夫婦関係は無かったとする説がある。
この村の閉鎖具合から考えると現代日本の一般的慣習と異なっていたとしてもおかしくはない。
「それも空神様の教えによるもの……?」
「はい。子供の数が減ってきたら祭りを開き、皆で交わります」
乱交はまぁいい。そういう文化があってもいいしな。問題はその前だ。
「子供の数が減ってきたら」が意味するところは「成長し、大人になったから」ではない。
すでにじいさんと凛さんの記憶は読んだ。
それによるとこの村では、不定期で空神様に生け贄を捧げているらしい。その生け贄には高確率で子供が選ばれる。勿論、大人が生け贄になることもあるが、子供の方が多い。
晴さんも今の凛さんの言葉に潜む闇に気付いたっぽいね。だって凛さんの言う男女関係が本当なら、村で見た子供の数が少なすぎるし、大人の数、つまり村の総人口が少なすぎる。
凛さんの発言だけでは「大人が村を出ただけ」との解釈の余地はあるが、晴さんもそんな平和な感じでない可能性が高いと思っているのだろう。少しだけ険しい顔だ。
「『子供が減る』とはどういう意味ですか……?」
グイグイ行くなぁ。
「空神様へ捧げるから減るということですね」
どうやらこの村では儀礼的、形式的な行為としての生け贄ではなく、ガチに人が居なくなってしまうらしいのだ。だが凛さんの泰然とした態度からも分かるように、それに疑問を持つ村人は居ない。
晴さんの表情がほんの一瞬強張るも、すぐにいつものポヤッとした感じに戻る。
「そうなんですね……。他にこの村の特徴はありますか……? 例えば特産品のような……」
「無いですね。何も無い所ですから」
「では皆さんの収入源は……?」
は、晴さん。攻めすぎちゃう? 大丈夫かな。
「農業ですね。細々とやらせてもらっています」
凛さんの態度に変なところは無い。少なくとも凛さんの中では真実なのだろう。
「最後に一つ……。最近この村に警察は来ましたか……?」
「? いえ、少なくとも私が産まれてからは来ていませんよ」
「そうですか……」
晴さんから視線を送られる。一旦、切り上げたい、ってところか。俺もさっさとお家に切り上げたいよ。
というわけで頷く。
「ありがとうございました……。それでは僕たちはフィールドワークに行きます……」
「何かありましたらここに来てくださいね。微力ながらご協力いたします」
凛さんはニコニコとしている。一見、裏は無さそうだ。
「ありがとうございます……」
「はい。お気をつけて」
大和撫子のようなしっとりした趣で、凛さんが頭を下げる。
……うん。凛さんにしろこの村にしろ、怪しすぎるよね。普通に晴さんも薄ら寒いものを感じてるね。
さて、さっきのじいさんと凛さんの記憶を見るに、この村では生け贄を怠ると、人々に祟りが降りかかるらしい。耐え難い苦痛に見舞われ、正気でいられなくなるのだ。
具体的には妖怪(幻覚、妄想)に襲われたり、身体が震えだしたり、不眠になったり、下痢をしたりするといったものだ。
うん、どう考えても薬の離脱症状、一般的には禁断症状と言われてるやつだね。
そして儀式の時には香を焚くらしくて、記憶ではもくもくと広場が煙たくなってた。
うん、麻薬くさいね。やばぁ。やばぁ。
更に儀式では俺たちのような客が生け贄にされることがよくあるみたい。勿論、生け贄は帰ってこない。やばぁ。やばぁ。
そんで、生け贄を捧げて暫くすると、祭壇に現金が現れるんだとさ。やばぁ。やばぁ。
その現金は空神様の子孫と言われる
だから物資なんかは彼らが運んでくる。凛さんの認識では、これは収入という俗な物では無く、神聖な贈り物であるみたいだ。だからさっきの質問に「収入は農業だけ」と答えたんだ。やばぁ。やばぁ。
ただ、彼らはいつも仮面を付けていて素顔は誰も知らないし、神殿と言われるボロい建物にいつも居るわけじゃないから、簡単には捕まえられなさそう。やばぁ。やばぁ。
そして俺たちにとっては困ったことに、凛さんとじいさんは行方不明者については知らないみたいなんだよなぁ。つまり2人は利用される側ってことなんだろう。
俺が記憶を読んで分かったのはここまで。もっと知るには他の皆の記憶を見ないとだな。
と、思ってたんだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます