くろーずどさーくるくるぱー
「お前たちにゲームをしてもらう」
放送用スピーカーからそんな定型文が流された。
( TДT)
──肝試しに行こう!
ことの発端は例のごとく
何でも、8月10日に集団自殺が実行されたスポットがあって、1年に1回その日にお化けがどんちゃん騒ぎしてるんだと。意味分からんわ。
勿論、嫌がったよ。でも亮は強情だった。
「一緒に行ってくれないとゆうのベッドで一日中オ○ニーしてやる! 枕でシてやる!」と駄々をこねた。
それはごめんなので渋々電車とバスと徒歩で山奥の廃村まで来たら、いつものように事件に巻き込まれた。
亮が不安そうな顔で放送用スピーカーを見つめる。
「君たちには毒を与えた」
多分ボイスチェンジャ-により声を変えているんだろうね。変なザラザラした声だ。
ざわっと周りの奴ら6人に緊張が走る。
俺と亮も含めて8人が、目を覚ましたら肝試しに来た廃墟の一室に集められていた。おそらく肝試しに来たバカをターゲットにしていたのだろう。廃墟に入ってだいたい5分後以降の記憶がない。
そんで目覚めたらここに居た。ホワイトボードに「毒を与えた。解毒薬が欲しければ廃墟から出るな」とあったから、皆で自己紹介とかして待ってたら先のセリフである。
「どういうことよ!」
この部屋に集められた人間の内の1人、キャバ嬢をしているミキさんがおこである。ぷんぷんしている。
「あと2時間以内に解毒薬を投与しなければ死ぬ」
スピーカーから説明がなされる。録音か否かは判然としないね。
「冗談はやめて! 早くスマホを返しなさい!」
信じられない気持ちは分かるが、多分、毒ってのは本当だ。
そして、スマホが無いとなると助けも呼べない。
ここはド田舎だ。仮に走って一番近くのバス停に向かったとしても2時間は優に越える。
そもそも次のバスは明日までない。俺たちは肝試しに来たのだ。時間的に今は夜中。日中にならないとバスは来ない。
そして、車で来た連中からはスマホだけでなく鍵が奪われている。
「ミキ、多分言っても無駄だ。先ずは落ち着こう」
ガタイのいい男──太一さんがミキさんをなだめる。ミキさんの恋人と言っていた。太一さんに言われたミキさんは唇を尖らせながらも引き下がる。
何故か亮も唇を尖らせている。変顔の練習でもしてんのか?
「……ゲームの内容は?」
眼鏡を掛けた痩せた男──
こいつはサラリーマンだったか? ただ、引きニートって言われた方が納得の見てくれをしてる。まるで自分を見てるようだぜ……。
「この廃墟内での宝探しだ。解毒薬を7個程用意し、それらをバラバラに隠した。貴様らはそれを見つけるだけでいい」
解毒薬は7個。つまりはそういうことだろう。意地の悪い奴だ。しかし俺の予想は外れることになる。
「信じられないわ。毒を投与したっていう証拠を出しなさい」
今度はつり目の女──
「言い忘れたがこの中の1人だけ、少しばかり効果が早く顕れるようにした」
!!?
それで解毒薬は7なのか……!
「……ちょっと、
バイト仲間と言っていた女2人の内、1人──優衣さんが蹲っている。
「失礼」
眼鏡の自称サラリーマン──
突然の柏崎さんの行動に太一さんが眉間にシワを寄せる。
次いで柏崎さんは優衣さんの瞼を開けて小型のライトを当てる。瞳孔を確認しているのだろう。
最後に口元に手を翳す。呼吸もないみたいだ。もう確定やね。
「亡くなっています」
「
なんかB級ホラー映画みたいな展開になってきたなぁ。
仕方ないから本気出すか。
ここに居る皆の記憶を読む。はい、真相も薬の隠し場所も丸分かりになりました。
「
『なに?』
「頼みがあるんだ」
沙也さんの霊は微妙な顔をしてるけど、なんだかんだやってくれるみたいだ。
『
沙也さんが帰ってきた。薬の隠し場所を確認してもらってたんだ。その間に小道具も用意した。
『ビンゴ。百発百中だったよ! イエーイ!』
うるさい幽霊だな。まぁ役に立ったから許してやろう。
後でガチに腕の良い除霊師を紹介してあげよう。嬉しさのあまり昇天間違いなしだ。
よっしゃ。じゃあ帰りたいからサクサク解決しますか。
「謎は全て解けた!」
突然俺が訳わかんないこと言ったせいで空気が凍る。そもそも謎って何だよ。これはそれ系ではないのにな。
だが、亮はまるで地獄に仏が降臨したのを見た時みたいな顔をしている。恥ずかしいから拝むな。
「はぁ? 何言ってんの?」
キャバ嬢のミキさんだ。
「言った通りだ。この身勝手な茶番の全てが分かったんだよ」
「……本当なのか」
ガタイのいい男──太一さんが半信半疑ながらも、しかし完全否定まではしない。よしよし。お前はいい奴だ。
「ああ、安心しろ。薬の位置も把握している」
「説明しなさい。内容によっては信じてあげるわ」
なんで真理さんはそんなに偉そうなんだ。なんか納得できねぇがまぁいい。さっさと終わらせて帰るぜ。
「まず、結論から言おう。犯人はお前だ!」
そう言って俺は先程亡くなってしまった優衣さんを指差した。残念ながら優衣さんの霊はここに居ないが、それはもういい。
「はぁ? 何それ? 意味分かんない」
優衣さんのバイト仲間──
「そしてもう1人」
おー、全く動揺しないとはやるなぁ。
「柏崎健二さん、あなただ!」
ぴしぃぃっと効果音が出そうなくらいのキレで指差す。亮が真似してるが、全然キレが足りない。未熟者よのぅ。
こっからは屁理屈とこじつけのなんちゃって推理を雰囲気だけで押し切る! 腕が鳴るぜ! ……帰りたい。
「柏崎さん、あなた単なるサラリーマンではないですね」
「……根拠は?」
「先程、あなたは優衣さんの死亡を確認していた。脈は分かります。呼吸も分かります。しかし、瞳孔に関しては普通の人は分からない。それこそ、医療関係者でないとね」
亮がごくりと唾を飲み込む。完全に観客気分である。
ムカつくわぁ。
「ミステリー小説好きで、たまたま知っていただけですよ」
「では、その時のペンライトは? あんなもの普通の人間は所持していない」
病院以外で見たことないよ。
「……仮に私が医者だったとして」
「おや、俺は医者なんて一言も言ってないですよ?」
これは本当にただのいちゃもんだ。
ただ、周りの人間の中に僅かな疑念は生まれるだろう。場の空気を変えることは、雰囲気推理(笑)では最重要事項だ!
ちなみに亮はハッとした顔をしている。
リアクション芸人かな?
「そもそも冷静に考えてみてください」
先程からインテリぶって偉そうな真理さんに近き、問う。
「真理さんはガス状の睡眠薬を上手く調整して人を眠らせたり、毒薬を調整して死亡時刻を操作できますか? そしてその薬を入手できますか?」
「……無理ね」
でしょうね。普通できないよ。俺だって無理だ。
「であれば犯人は医療関係者であるとするのが妥当でしょう。更にもう一つ」
今度は太一さんに近く。
「太一さんの体重はどのくらいですか?」
「……100に少し届かないくらいだ」
おーやば。ガリガリな俺の2倍近くあるやん。
「すごいですね。ちなみに普通の成人女性があなたを運ぶことは可能だと思いますか?」
「台車使えば何とか……ん、わかんねぇな」
「俺たちは最初の部屋から移動しています。つまり運ばれたということです。この時点で俺は太一さんと柏崎さんを真っ先に疑った」
ただなぁ。これは太一さんが犯人の可能性を確実に否定できないから微妙ではある。
「……ただ、太一さんは柏崎さんが死亡確認を取り始めた時、怪訝な顔をしていた。最初は柏崎さんが何をしたいか分からなかったのではないですか?」
立ち位置的にも「脈を取る」というよりいきなり腕を掴んだように見えたかもしれない。それにはバイアス──知識不足からの思い込みもあっただろう。そんな奴が医療関係者とは考えにくい。
こんな説明だと……うーん、無理があるなぁ。でも他にないんだよなぁ。
しかし、意外なところから助け船が出される。
キャバ嬢のミキさんだ。
「そりゃあ分からないって。この人、このナリでグロいのとか病院が嫌いで全然そっち系に詳しくないんだよね」
ナイスアシストだ!
「つまりその時俺は容疑者から外された、と」
「ええ、俺が考える第一の犯人像は、男かつ医療関係者です。だか」
しかし、俺の言葉は遮られる。
「お前はどうなんだ?」
まさかの太一さんからの鋭い突っ込みが入る。それを言われると弱い。どうしたものか。
「正直、俺が犯人でない物的証拠はない。だが、これから薬を皆で回収に行く。その時、俺への薬の投与は最後でいい。この行動で勘弁してくれ」
「……確かに犯人がそこまでするとは思えない。でもあなたが頭のおかしい愉快犯であるなら矛盾なく説明できるわ」
真理ぃー! 余計なこと言うなぁ! これだから中途半端に頭のいい奴は!
しかし真理さんからの追及はやまない。
「薬の位置だって、あなたが犯人なら知っていることに説明ができるわ」
くぅ。その通りだな!
だが抜かりはないぜ!
俺はポケットからメモを取り出す。メモには薬の場所が書かれている。
「これは……!」
皆が息を飲む。亮は微妙な顔をしている。
まさか亮は勘づいたか……? まさかな。亮だしな。
これは俺がさっき周りを見てくると言ってここを離れた時に、優衣さんの霊を無理矢理憑依させて、能力だけ模倣し、筆跡を真似て書いたものだ。
優衣さんはまるで強姦にでもあったかのようにしくしく泣いていたが、まぁどうでもいい。
「っ!」
おっと漸く柏崎さんの表情が変わったな。
俺はニッコリと笑いかけてやる。いい気分だぜ。
「おそらく彼女なりに悩んでいたのでしょう。罪の意識もあった。それが俺に薬の場所が記されたメモを渡すという行動になったのでしょう」
「いつだ?」
「目覚めてすぐですよ。彼女がこの部屋を出た時があったでしょう? その時、俺もたまたま部屋の外に居た」
勿論、嘘である。もう真っ赤なお鼻である。
「始めは俺も疑っていた。どうするべきか、迷っていた。だからすぐに言い出せなかった」
すまない、と頭を下げておく。
「さて、これらのことから俺は柏崎さんと優衣さんが犯人であるとしました。そして、もう一つ」
あー、長くなってきたから亮、飽きちゃってるよ。うとうとしてるわ。お前が連れてきたせいだろ。もうちょい我慢しろ。
「亜美さんは柏崎さんを知っていた。そうですね?」
「……ええ、優衣の恋人として話はよく聞いていたわ」
「あなたは柏崎さんを『健二さん』と迷いなく呼んだ。そんな風に柏崎さんは名乗っていないのに、です。つまり、柏崎さん、亜美さん、優衣さんが顔見知りであると読んだのです」
疲れた。早く帰りたい。
て、おい! 亮寝るな! ずるいぞ!
亮の頭を小突いて起こす。何があと5分だ。お前絶対そのまま二度寝するだろ。
「……そして、優衣さんはメモを渡す時、私に言ったのです」
場が静まり返る。
「健二を止めて、と」
もう嘘をつくことに抵抗がない。サイコパスだろうか。
でも、憑依した時に流れ込んできた感情はそんな感じだったし、セーフっしょ。
「……以上のことから、親密な関係にあったであろう柏崎さんと優衣さんが今回の共同正犯であると判断しました」
「……でもそれだけじゃあ」
真理さんが突っかかってこようとするも、それは柏崎さんによって止められた。
「もういい。君の言う通りだ」
こうして柏崎さんは自供を始めた。何か色々考えすぎちゃう人って感じで、人間の醜さに絶望していたとかなんとか。
最後に、追い込まれた人間が如何に醜いか確認してから自殺するつもりだったらしい。
きっと医者の激務で病んでたんだな。やっぱニート最強だわ。
あの後、ミキさんが警察に通報した。
俺は「帰りの交通費が浮くぜ」と喜んでたんだけど、何故かまたしてもエロい身体の女刑事と密室で人には言えない秘密の会話をするハメになった。
まぁ前回よりは早く帰れたので許してやらんでもない。
署から帰った俺を出迎えたのは、下着姿で枕を股に挟み込み、けしからんことをしている亮だった。
目眩がする。
「結局やってんじゃねぇか!」
泣いていいかな?
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