名探偵など居なかった。いいね?

「先ずは1人。後7人。あなたたちは我輩を止められるかな?」









( *゜A゜)




 ある日、珍しく俺は1人の時間を過ごしてたんだけど、それはそっこーで終わることになった。


 ぴんぽ~ん?↑ ぱんぽ~ん?↑


 我が家のちょっと頭のおかしいドアベルが響き渡ってしまったんだ。

 誰だよ? せっかくの孤独なのに「めんどくさいなぁ」「居留守使おうかなぁ」って思ったけど、無視して何度も鳴らされると普通に恥ずかしい。

 仕方ないからドアを開けてやる。


「うっす! 来ちゃったっす」


 女刑事──吉良きら解理かいりさんが軽い調子でやってきた。

 相変わらずのエロエロボデーである。グラビアアイドル崩れのAV女優みたいって言えば分かりやすいかね。










 狭い客室に招き入れて麦茶を出してやる。すると一気飲みしてから、解理さんは真面目な顔でしゃべりだした。


「実は結城君にお願いがあるっす」


「おう、断固拒否する」


「なんでっすか!? 話くらい聞いてくれてもいいじゃないっすか!」


 何だよ。めんどくさいな。嫌な予感がさっきから凄いんだよ。俺のすぃっくすすぇんすぅはよく当たるんだ。


「だからあんたは疫病神なんだよ!」


「ひ、酷いっす! 何回も夜を伴にしたのに……!」


 やかましいわ。

 しかし俺はここではっとする。まさかこいつドラク○で言う確定イベントみたいに、断ると無限ループするんじゃ……。

 

「とにかくやらないから帰ってくれ」


「嫌っす。せめて聞いてくれるまで帰らないっす」


 ……。


「俺も嫌」


「嫌っす」


「帰れ」


「嫌っす」


「嫌っす」


「……なんで真似するんすか」


 よかった。無限ループじゃなかった。


「もし、ウチの頼みを聞いてくれたら、いつもの事情聴取が短くなるように(努力)してあげるっすよ。ど」


「全力を尽くすことをお約束いたします!」


 そういう大事なことは先に言えよな、全く! エロい身体で焦らしやがって。


「え、あ、はい。サンキューっす?」


 何を呆けているんだ。早く述べたまえ。

 俺が聞く態勢でスタンバっていることを察したのか、漸く解理さんは語り出した。 


「3日前に明暗中学校の生徒が殺害される事件が起きちゃったのは知ってるっすよね?」


 知ってるから、こくん、と頷く。

 明暗中学校。

 私立の学校で、大学まであるお坊っちゃまお嬢様学校だ。ま! 俺とは無縁だな! そこの生徒がナイフでメッタ刺しにされて殺されたらしい。昨日ネットニュースを見て、亮が騒いでいた。


「警察では捜査本部を設置してかなり力を入れて捜査しようとしているっす」


 あ。金持ちの親、つまり権力者の圧力があるんかね? 

 しがないニートの俺にはよく分からん世界だ。


「で、昨日、警視庁捜査一課宛てにこんな手紙が届いたっす」


 解理さんはそう言ってパンツスーツのジャケットに手を入れる。

 擬音で表すとむぎゅって感じ。

 ……わざとやってんのか? まぁいい。それより手紙だ。

 大きめのスマホに画像が表示される。


「先ずは1人。後7人。あなたたちは我輩を止められるかな?」


 こんな風に書かれた紙が表示されてる。

 犯行声明ってやつか。

 てかさ、こーゆーの外部に漏らしちゃアカンくない? 別に俺に損失が無ければいいけどさ。

 でも、残念ながら疲れるという損失はありそうなんだよなぁ。


「で、俺にそれを見せたってことは……」


 今度は解理さんが、こくん……、いや勢いが強すぎて、ごぐん゛て感じだな。


「結城君には一般の捜査協力者として、事件解決に力を貸してほしいっす!」


 ……怪しい。

 ○ナン君しかり、金田○一少年しかり、フィクションでは民間人である探偵が、殺人とかのヤバめの事件にガッツリくい込んでるけどリアルではあり得ない……と、思うんだ。

 だって探偵つっても民間人だぜ? おかしいって。絶対おかしいって。状況的にやむを得ないなら分かるけどよ。いつもの俺みたいに!

 ジトッとした目を解理さんへ向ける。

 

 じぃぃぃーーー。


「ど、どうしたんすか?」


 じぃぃぃーーー。


「そんなに見つめて……ハ!」


 じぃぃぃーーー。


「さてはウチの色気にやられたんすね!」


 やっぱり自覚あったんだな! クソ○ッチが!













 と、そんなわけで俺はクソビ○チ──解理さんと一緒に犯行現場に来ている。

 ちなみに解理さんは何故か俺を名探偵だと誤解していて、同僚を出し抜いて手柄を上げる為に独断で俺に助力を求めたらしい。

 勿論、あまりよろしくない行為だ。

 解理さんも「本当はダメっぽいから誰にも言わないで♡」とあざとい感じで言っていた。

 うざいしムカついたけど、毎回毎回事情聴取で長いこと拘束されるのはダルいから渋々了承した。

 

 犯行場所は工事が中断している建設現場だ。一応、工業地域だから周りに通行人がたくさん! てわけではない。

 

 そんで、現場に着いた俺はすぐに残留思念──人がモノや場所に残す感情や記憶──がないか、感覚を研ぎ澄ませた。

 そして見つけた。

 揺蕩たゆたう被害者らしき霊体の残滓。現場で円を描くようにくるくると旋回している。

 後はそれに触れて取り込むだけだ。残留思念が風に流れるタイミングを読んで……。

 手を伸ばす。


「っ!」


 痛い痛い痛い痛い!

 被害者の少女がまさにメッタ刺しにされてる瞬間の記憶が痛覚と共に流れ込んできたんだよ。きっついわ。

 でも。


「分かったぞ」


 被害者は犯人の顔や出で立ちをしっかり見ていたんだ。これならすぐ見つけられる。

 しかも、だ。犯行中に犯人の名前を呼んでいた。


「え! 何か分かったんすか?」


 俺の呟きを逃さなかったみたいだ。解理さんが近寄ってきた。

 

「犯人が分かったんだ」


「うっそ!? マジっすか!? マジでマジなんすか!?」


「マジにマジ」


「ぱねぇ! 結城さんマジぱねぇす!」


 お前は後輩ヤンキーか!


 犯人の目星はついた。被害者の少女を殺したのは、同世代の少年で少女と顔見知り。特徴は坊主頭と右の耳の軟骨が変形していること。アダ名はしゅんちゃん。

 これだけ揃えばバカでも分かる。

 おそらくは同じ明暗中学校の生徒だ。


「明暗中学校に行こう」


 ちなみに、俺は捜査協力するに当たって条件を出している。

「俺の推理(笑)について突っ込まないこと」。

 だって、「霊能力です!」なんて説明したくないし。

 ま、そんなこんなで今回も事件解決! めでたしめでたし!


















 強烈な破裂音。

 拳銃、あるいは改造エアガンか。いずれにせよ、弾丸が複数回、しゅんちゃんと呼ばれていた少年へと着弾する。

 

「……」


 場所は夕方の商店街。皆が一瞬しんと静まり返る。そして、倒れる少年と逃げる何者かを見て理解する。


「お、おい。これって」


「やば! ガチの殺人じゃん!」


「早く行こ!」


「うわぁあ」


 興奮する奴、足早に立ち去る奴、スマホで撮影する奴、ぼーっと倒れた少年を眺める奴。……俺は想定外の事態に固まってしまっていた。

 

「結城君は救急車と警察呼んで!」


 この場の誰よりも早く動き出していた解理さんが、走りながら叫ぶ。


「ウチはあのを追うっす!」


 行っちゃった。


 ……。

 

「っ! まずい!」


 ここで漸く俺は自分がすべきことを認識できた。我に返ることができた。

 見ると、倒れた少年の魂と霊体が消えかかっている。

 慌てて記憶を覗こうとするも……。


「……ミスった」


 後一歩遅かった。記憶は覗けなかった。


 こう見えて俺は自分の霊能力に自信がある。残留思念を読み取ることをミスるわけがないと思ってた。

 確かに霊能力は正確だったと思う。でもさ。それをどう解釈するかは、霊能力無しの俺の精神なんだよね。そこでは当然間違いが起きちゃうこともある。

 今回の場合だと、俺が勝手に「犯人は1人だし、他の事件に巻き込まれることも普通はないだろうし、少年が殺害される可能性はない」って思い込んでたせいで油断していた。中学校に向かう途中にそれらしき子を見つけて、ツイてるぅとか暢気に構えてたのもよくなかった。


 記憶を見るには対象の魂が必要だ。


 しかし、少年の魂と霊体は死亡とほとんど同時に消えてしまった。俺がフリーズしてたせいで間に合わなかった。


 だが、分かったこともある。事態は当初の予想よりめんどくさそうということだ。


 というのも感情は少ーしだけ流れ込んできたんだよね。

 

 死にたい! 死にたくない! と死ななきゃいけない! てね。


 凄く集団自殺っぽい。

 

 集団自殺だとしたらかなーりやりにくい。だってこれ、多分明暗中学校の生徒が多数絡んでる系に思えるんだもん。

 となると霊能力的には中学校に乗り込めばすぐ真相は分かる。

 だけど、もしも殺人を演出したい犯人たちが「自分たちが疑われてる」て思って、さっさと皆で自殺してしまったら事件解決したって言えない気がするんだよなぁ。

 そんなんじゃ解理さん、俺の事情聴取短くしてくれないっしょ。寧ろおこじゃない? めんどくさいわぁ。でもなぁ、中途半端は何か気持ち悪い。


「はぁ」


 とりあえず警察とか呼ぶか。そんでもうちょいやってみるかな。

 一応、俺ってば名探偵らしいし。


 













 後日、明暗中学校の教室に俺は居た。

 

「今日からお世話になります。教育実習生の結城幽日ゆうきゆうひです」


 学校内を自由に動き回るには実習生って立場が便利そうだったから、学長にだけ話を通してもらって潜入することにしたんだ。

 うん、すげー無理があると思うけど強行した。凄く恥ずかしい。

 なんか生徒の目が痛い。何でこんな時期に? とか思ってそうだ。


 ま、まぁいいよ。どうせすぐ居なくなるしな。ちなみに名前は本名だ。


 てか、解理さんあの後、犯人を取り逃がしたらしい。解理さん曰く、絶対協力者が居るってさ。逃走の仕方が1人でがむしゃらに逃げてる感じじゃなかったんだって。よー分からん。

 そんで現場に居たってことで、解理さんは捜査本部に缶詰めだってさ。銃撃犯の主担当としてすげー忙しいってRINEで言ってた。いい年して女子中学生みたいな文でちょっと引いたよ。


「それでは結城先生、早速授業をお手伝いしてもらいますね」


 俺の指導を担当するアラサーの男性教諭──進藤裕太しんどうゆうたさんが無茶ぶりしてきた。

 できるわけないだろ! 何を隠そう俺は何処に出しても恥ずかしいニートだぞ!?

 しかも、担当教科数学ってなんだよ! せめて公民とか現代文にしてくれよ! 解○さん──クソビッチの陰謀だぁ!
















 謎は全て解けた! ……解けたんだけどなぁ。


「はぁ」


 場所は屋上。普通に鍵が掛かってたけど、職員室から拝借してサクッと侵入した。誰も居ないから快適だぜ。それはいんだけどなぁ。


 真相は、進藤さんによる性被害を受けている生徒たちのデモンストレーション的自殺劇だ。進藤さんは様々な変態行為を強要し、それを撮影。その動画を使い、生徒たちに泣き寝入りさせ続けている。

 多少嫌でも警察に助けを求めればいいじゃん! て俺は思うんだけど、生徒たちはそれをしない。何でかっていうと、簡単に言うと校風……か? いや、育ち……?

 ここに来る子の親って勝ち組上流階級なんだよね。エリートにはたまにあることだけど、生徒たちもその例に漏れず、小さな失敗、人生の汚点、そういったものを受け入れられないという強迫観念に縛られてるっぽい。結果、バレたら終わりだって思い込んで、性被害を誰かに打ち明けることができなくなる。

 失敗は無いように見える優秀な親の下で育ち、似たような家庭の子の居る学校に通えば、その感覚はエスカレートしちゃうよな。なんとなくは分かる。

 そして、進藤さんはその強迫観念が強い子、つまりメンヘラ気質の子を見分ける嗅覚が鋭い。そういう子をターゲットにしてきたらしい。

 

 でも、1人だけその強迫観念に逆らった子が居た。最初に死んだ少女──矢川華やかわはなさんだ。

 華さんは勇気を出して、この学校のスクールカウンセラーに相談した。で、当然のように揉み消された。で、絶望した。で、キレた。それはもうブッチギレよ。

 そこで華さんは、今回の殺人劇を計画した。社会に強いインパクトを与える形で殺人に見せかけた実質的集団自殺を行う。そうやって社会の注目をかっさらい、最後の1人が進藤さん、スクールカウンセラー、学校の対応を暴露する。マスメディア各社に生徒たちの声を録音したボイスレコーダーを送るつもりらしい。

 

 情報を集める為に華さんは進藤さんに媚を売り、上手くお気に入りになった。そして、他の被害者についての情報をゲットした。

 あとは、被害者の生徒を1人、また1人と説得して、最終的に8人全員を引き込むことに成功。皆もう疲れきっていたんだ。死ぬきっかけを探していたんだろう、華さんの話は渡りに舟だった。


 と、まぁこんな感じなんだけど、これを上手く解決ってどーすりゃいんだ? 

 生徒たちをほとんど時間差なく逮捕しないと自殺される可能性が高い。それに、納得してないと逮捕後も自殺の可能性がある。それはアウトでしょ。ギリギリ及第点と言い張る為にも、せめて半分以上の生徒は生きてる状態で逮捕して、適正に法手続を受けさせたい。


「でも、どうすっかなぁ」


 バカみたいな力技使うか? でも、それやっちゃうと生徒たちが廃人になる可能性があるんだよなぁ。俺は別にいいけど、解理さんめんどいこと言い出さないか不安だわぁ。


『はぁ』


 出るのはため息ばかり……、て、おい! 俺はため息ついてねぇ。だいたい俺の声じゃない。

 横を見る。

 俺はニタァと笑うのを抑えられなかった。見つけたんだ。使えるネタを。


『ひぃ!』


 ガシッと少女の肩を掴む。絶対に逃がさん。


「お前後悔してるよな!?」


『え、何で見え? え? え、触ってる……』


「こ・う・か・いしてるよな!?」


 俺の霊圧を少女の霊体が消えないギリギリまで高める。少女が面白いくらい分かりやすく震え出した。目尻には涙を浮かべている。

 ガクガク震えてばかりで返事がない。イラっ。俺を巻き込みやがって、数学の授業やらせやがって、マジ腹立つわぁ。


『……っ!?』


 おっと、霊圧をすこーし上げすぎてしまった。てへ☆

 そんなことより返事だ。答えないと生まれたことと死んだことを後悔することになるぜ。ゲヘヘ。

 

「へ・ん・じ!」


『ひ、ひゃい! ひひひてまひゅ!』


 始めからそう言えばいいんだよ。全くやんちゃしやがって!


「じゃあ俺に協力しろ。YESか、はいで答えろ」


『ひゃ、ひゃい。わわわかりまひた!』


 よーしよしよしよし! これで霊的ロボトミーをしなくて済むかもしれない。クソみたいな力技に変わりはないけどな!

 少女の霊──矢川華やかわはなさんはまるで勇者一行に袋叩きに合った魔王のようにしくしく泣いているが、まぁどうでもいい。

 謎(?)は全て解けた! 名探偵()は伊達じゃねぇぜ!


















「君達に集まってもらったのは他でもない」


 生徒指導室では犯人グループの生徒達たちが布を噛ませられ、椅子に縛り付けられている。うん、俺のせいやね。

 サクッと幽体離脱して霊体になった俺は、生徒たちに取り憑き身体を操作。この部屋に来たら憑依を解き、戸惑ってる内に拘束。それを6人分繰り返す。これじゃどっちが犯人か分からんね。


「君たちのことは全て知っている」


 記憶見たからね。それにしても進藤さん、変態すぎて笑うわ。なかなかあそこまでの変態は居ない。


「今回の殺人、進藤先生のこと」


 皆に動揺が広がる。


「どうして知ってるのか? て顔をしてるな」


 雰囲気を出すために窓のブラインドを少しずらし、外を見る。

 眩し! ヤメヤメ! 

 なんか偉い人ってよくこんなことするよね。マジ意味不明。目がやられてしまったぜ。


 たっぷりと溜めを作ってからジャケットの内ポケットへと手を入れる。

 そして取り出す。


「この中に全てがある」


 俺が取り出したのはボイスレコーダー。


「事件の真相、進藤先生の悪行。この中でそれらについて華さんが述べているよ」


 今度は先程よりも大きな動揺。

 お、何人か物申したそうにしてる。じゃ、サクサク行きますか。


「聴いてみないことには信じられないよな。じゃあ流すぞ」


 ポチっとな。


「これを聞いているということは私はもう死んでいるのかな」


 間違いなく矢川華さんの声だと思ったのだろう。生徒たちが息を飲む。


「今回の事件は──」


 と、まず真相が述べられる。


「このボイスレコーダーを聞いた方にお願いがあります。私たちの中にまだ生きている人が居たら、この音声を聴かせてあげてほしいです。そして一度だけ聞いたら、焼却炉で燃やしてほしいです」


 一旦止める。


「ここからは華さんの君たちへのメッセージになる」


 再生を再開。

 

りょう君、ごめんね。2人でヨーロッパを回ろうって約束守れなかったね」


 これは良君──真柴良平ましばりょうへいさんと矢川華さんの2人しか知らない約束だ。つまり、これが述べられている時点で本人である可能性が高くなる。実際は完全無欠な証明ではないけど、俺的にはこの子らが信じてくれたらそれでいい。

 良平さんが静かに泣き始める。

 はい! オッケー。次!


「──」


 と、こんな具合に皆への謝罪にかっこつけて、各々華さんと本人、2人しか知らないはずの思い出とかを挟む。

 まぁそれなりに信じてくれたっぽいからオッケーっすね。


「皆には悪いことをしたと思ってる。だからごめんなさい。私が死んだだけで十分。勝手なことを言ってごめんなさい。でもやっぱり私は皆に死んでほしくない。もう皆には自殺なんてやめてほしい」


 ここで音声が終わる。

 生徒たちが顔を見合わせる。迷ってるな。


「俺はこれを学校の中庭で見つけた。華さんも迷っていたんだろう。しかし、やめるべきとの思いを捨てきることも、今回の集団自殺を諦めきることもできなかった。それがすぐに見つかるような場所にボイスレコーダーを捨てるという中途半端な行動に繋がったと俺は見ている」


 生徒たちは静かに聞いているが、中には涙を流す子も居る。


「はっきり言って、君たちの犯行はすぐにバレる。おそらく計画の完遂を待たずして逮捕されるだろう」


 皆うすうす分かっていたんだろうね。犯行計画の荒らさは自覚してた。だから今も難しい顔はしているけど、取り乱すまではいってない。


「でもさ」


 雰囲気を作る為に少し間を開ける。まったく! 気を使うぜ。


「華さんは君たちに自分の意思で踏みとどまってほしいと言っている。俺にはそう聞こえた。だから俺はこのボイスレコーダーを警察に提出とか、真相を告発とかはしないつもりだ」


 ぶっちゃけ提出したらいろいろまずいのは俺だもん。提出できるわけないじゃん。


「華さんの言う通り、後で焼却炉にでも突っ込むよ。君たちにとって残したくない事実がたくさん含まれているから、華さんはそう願ったんじゃないか? 華さんは君たちの将来を少しでもマシにしたいと思ってるんじゃないか?」


 ぶっちゃけこじつけ甚だしいよな。とんだコントだせ!


 でも、生徒たちの口には布を噛ませてあるからキレのあるツッコミはない。もごもご言ってるけどよー分からん。


「……つまり、心から君たちに生きていてほしいと思ってるんだろ」


 疲れた。演技の才能皆無なんだよなぁ。


「……俺が言いたいことは以上だ。これから君たちを解放する。どうするかは君たちの自由だけど、俺は信じてる」


 ホントに頼むぞ! 自首! 自首しろよ!? フリじゃねぇからな!















 この日、生徒たちは皆で揃って警察署を訪れた。事件発生から解決までたったの1週間。

 でも解理さんはやや不満顔だ。解決に自分があまり関与できなかったからだとよ。警察官のクズである。AV女優への転職を勧めてあげよう。


 え? ボイスレコーダーはどうやって調達したか?


 デパートで買ったよ。そんで華さんの霊を憑依させ、声を完全に再現して俺が吹き込みました。

 何か問題でも?


『うぅー。納得いかない!』


 華さんが唸ってる。鬱陶しいなぁ。

 やっと沙也さんの霊が居なくなったのに、今度は華さんに憑かれてしまった。

 俺も納得いかないよ。


 ま、いっけどね。人なんてそんなもんよ。


「差出人不明じゃん」


 臨時に用意された俺のロッカーに張り付けられていたメモを眺め、そう呟く。


──結城先生、ありがとうございました。


 すまん。先生じゃないんだ。でも一応受け取っておくよ。


「……どういたしまして」


 腹減ったな。ファミレスでも行くか。



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