第3話 蠅島
「かたじけない。君のような子供に助太刀いただき情けない限りですが命拾いしました」
「おっさんの腰にあるソレ、飾り?」
「おっさんか。僕もまだ若いつもりでいたんですけどね。面目ない。僕の名は
「釈摩殿、僕もこの様ではありますが武の道に身をおく者。役に立つかは自信ありませんが、帝都までの旅先、今しばし同行させてはもらえないでしょうか」
「やだよ」
「直球! 待ってくださーーい釈摩殿ーー! 置いてかないでええ!」
邏陽より遥か南へ進んだ海の向こうに、地図上には小さな点で記された島がある。その周囲は外からの侵入を拒むようにして岩礁が環状に取り巻いていた。
さらに数日が経ち、男は声を聞く。不安は増すばかりだったが男は声のする方を目指して島の奥地へと進んだ。やがて島の地下へと通ずるような洞穴を発見する。声はこの奥より聞こえてきた。男は固唾を飲み、その向こうに歩を進める。男には何故かようやく死ねるという期待があった。洞穴の中には小さな祭壇があった。島民が作ったものだろうか。祭壇の中から声がする。
「死を望むか」
男は懇願した。人間でありたいと願った。
「王となれ」
声の真意は理解しかねた。しかし今にも狂いそうな男はそれが死であるならば受け入れようと思った。祭壇の中から一匹の蠅が現れ、男の額に留まった。すると男の身体は急に発熱し始め、先ず臓器が溶かされひどい痛みを放った。更には皮膚も剥がれ落ち、男は一瞬にして骨と化した。それでも男の意識はそこにあり続けた。男は絶望し憤怒した。約束が違うではないか。掌を見る。もはや人ならず。流す涙もなかった。男は祭壇を力いっぱいに殴りつけ破壊した。
「死は叶った」
蝿が男に語りかけると男は不思議と落ち着きを取り戻した。そして自らの名を口にする。それが彼本来の名であるかなど些末なことだった。蠅島の王は皆その名を冠する。
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