弦真の答え
「どういう存在か、なんて答えを出す必要あるのか?」
舞雪が言葉を口にするのと同じタイミングで弦真が答える。
それを聞いて、鈴音がは?とでも言いたげな表情を浮かべた。
それとは対照的に弦真の次の言葉を待っている舞雪と奏太。
「俺は舞雪の騎士で、それはもう事実だ。それと同時に俺は舞雪の進む道についていくと決めた。だからこそ、舞雪がこの先、俺の手に負えなくなってもついていくし、そうしたいと望んだ。だから舞雪がどんな存在だろうとか変わらず俺はついていく。それが俺の答えだ。」
舞雪は顔を手で覆いながら鈴音に小さい声で言った。
「ほら思った通りだったでしょ?
でも目の前で堂々と言われると恥ずかしいというか・・・」
鈴音は納得したような表情を浮かべた後、舞雪を肘で突いた。
「弦真君の様子が見たいって言ったのユキでしょ?」
鈴音はとても意地悪い顔を浮かべてそう言った。
「弦真、いい心がけだ。その心意気忘れるんじゃないぞ」
奏太は満足そうに言って、弦真の左肩を軽く叩いた。
「それと、遥華様から言伝だ。
『これから先君は迷うこともあるだろう。迷ったら行動しろ。行動しなければ何も始まらないのだから』だそうだ。
迷ったら己の信念を思い出せ、弦真。それが自ずと正しい道になるだろうからな」
「あと、これは僕からだが。自分の音を見失うなよ」
不穏な言葉を言い残して、奏太は歩き去って行った。
「へい!」
突然隣の木陰から勢いよく鈴音が飛び出した。
「うわぁ!」
突然のことに驚いた弦真が尻餅をついた。
「ごめんね弦真くん。つい盗み聞きしてました」
舞雪も姿を表すと、そう謝罪した。
「それはそうと、どうしてここに?」
弦真が、奏太との会話を聞かれていたことに羞恥を覚え、頰を軽く赤らめながらそう尋ねた。
「いやあ、榊原に弦真君のメンタルズタボロにされるんじゃないかな?と思って見てたんだけど大丈夫そうね」
鈴音は舞雪に手を組みながら言った。
「え、前例があったってこと?」
「まあ、そんなとこ」
舞雪は苦笑した。
「・・・あ、それ何?」
鈴音は弦真の学制服の右ポケットを指差しながら言った。
「・・・封筒?」
弦真は封筒を取り出しながら言う。
先ほど、奏太が帰る間際に封筒をポケットに忍ばせていたらしい。
封筒の表には大きく『Q,Q』と書かれていた。
「・・・中を見るぞ?」
弦真は封を切って中身を出した。
中には一枚の紙が入っていた。
「・・・ちょっと貸して」
舞雪は弦真から封筒を受け取ると中に入っていた文章を目で追っていく。
「どういう要件?」
鈴音が神妙な面持ち尋ねた。
「かいつまんでいうと、八日後の土曜日。
音楽館AOIでコンサートを行うから来て欲しい、ってことらしい。
私と弦真くんはそこでピアノを演奏してくれって。
要するに弦真くんと私の演奏を一回聞いておきたいって感じかな」
舞雪が疑問形で言うと、鈴音は不思議そうな表情を浮かべた。
「でも、私の時はそんなのなかったわよね?どうして・・・あ」
鈴音には思い当たる節が一つあった。
「そういえば前回、アカデミーの前に顔合わせを行うって言ってたわね」
「それって行かなきゃダメなやつだよね?」
弦真がダメ元で尋ねるも、鈴音に、もち、と笑顔で返されてしまった。
「じゃあ、てなわけで練習がんばろおぅ!」
舞雪が笑顔で言った。
「展開早すぎでしょ!?」
弦真の悲痛な叫びは虚しくも空に消えて行った。
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