華の騎士
「ったく、パーマのロザリオ持った謎な奴だなんているわけ・・・。あ、普通にいたわ」
弦真は、二人の指示が割と的確だったことに苦笑を浮かべるしかなかった。
その少年は講堂前の階段に腰掛け、文庫本を読んでいた。
黒髪のパーマが特徴的な少年の首元には、銀色の十字架、ロザリオがかかっていた。
修道服を着ていたらまるで宣教師だ。
「お、君が弓波弦真かい?」
少年は、文庫本を閉じて手で持ち、弦真を一瞥すると立ち上がって言った。
「ああ、そうだが」
弦真は彼にゆっくりと近づきながら言う。
「そんなに怪しがらないでくれよ。僕は怪しいものではないよ」
ロザリオパーマのどこがだよ!と心の中でツッコミを入れ、弦真は少年に尋ねた。
「もう知ってると思うが、俺は弓波弦真。『雪姫』の『騎士』だ。お前は?」
「僕は
どこか芝居掛かったような態度で奏太は弦真に右手を差し出した。
「・・・華姫の騎士か」
弦真は奏太に右手を差し出して握手を交わしながら小さく呟いた。
「遥華様を知ってるのかい?それなら話が早い」
奏太は弦真から手を離すと、ロザリオを右手の親指と人差し指で掴みながらいった。
「お前は、いや。奏太は桜庭さんのことを様付けで呼ぶのか?」
弦真が不思議そうに尋ねると、奏太はさも不思議そうに首を傾げた。
「弦真はそうじゃないのかい?姫に使える騎士として当然のことだと思うけれど」
弦真は顎に手を置いて思案した。
「舞雪と俺は、主従の関係っていうより、まだ友達関係みたいなものでさ。知ってるかはわかんないけど、俺が騎士になったのってたかが半日前のことだし」
弦真の答えに、奏太はそんなこと考えられない、といった表情を浮かべた。
「弦真が騎士になって日が浅いのは事実だ。でも、その程度の理由で姫を敬わなくていい、ということにはならないだろ?」
奏太は大仰に手を広げながら言うと、弦真に人差し指を向けた。
「君は、今日から神様を信じることになったけど、まだよくわかんないから明日から敬おう。とか言っちゃう部類なのかい?」
「いや、俺無宗教だからそういうのわかんないんだけど」
「そうだろうそうだろう。そんなことしないよな、って! ノリツッコミとかしちゃったよ。もう古いでしょこれ」
弦真から見当違いな答えが返ってきたことで、話の腰を折られた奏太だったが、すぐに立ち直ると、弦真に向かいなおした。
「・・・じゃ、じゃあ。神道見たく、何か物に対して敬ったりはするだろ?」
「いや、まあそうでも。基本そういうことしないし」
「そうだよな、そのくらいはするよな、って!これもしないんかい!」
ノリツッコミをして肩で息をする奏太。
「初詣とかは行くよな・・・?」
「まあその程度なら」
「そうだよな、うん。え!?初詣は行くわけ!?」
弦真は彼の会話のテンポについていけず、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「ともかく」
奏太は一呼吸置いて息を整える。
「君は神に祈りを捧げるとき、何か理由を考えるのかい?違うよな?
だって神は唯一であって絶対だ。そこに理由なんて生まれない」
奏太は弦真を指差しながら言う。
「遥華様は僕が世界でたった一人尊敬する方で、神だ。
君にとって、舞雪さんはどういう存在なんだ?」
((あ、これを言いにきたんだ))
講堂横の木陰でこそこそ奏太と弦真の会話を盗み聞きしていた鈴音と舞雪はそう思った。
「弦真君なんて言うと思う?ユキ」
鈴音が小さい声で舞雪にそう尋ねると、舞雪は顎に手を置いてこう言った。
「そんなの決まってるじゃない。――――」
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