第8話:金属鳥オバケ+森阿長与
長与がエビルちゃんを探すために入り込んだ部屋には1匹のモノ。
「回収せよ。回収せよ」
プテラノドンみたいな姿の銀色のロボット感ある怪物は二足歩行で部屋の奥へと足を進めている。
「なんだ……お前。てッ!?」
床には血が散乱しており、穴だらけになった死体が転がっている。その側には折れ曲がった鉄パイプ。
顔は確認できない。長与はその死体を確認したくもなかった。
先ほどまで生きていた者が怪物に惨殺されている姿である。
いや、惨殺されていると決まったわけではないが長与にはそう見えた。
「ヒュッ……ゥ……ゥ」
今もかろうじて虫の息ではあったが、そのうち死体も死ぬだろう。
今さら助けても無駄である。それに長与は一刻も早くエビルちゃんを捜しにいかなければいけない。
けれど、長与はその場から逃げ出すことができなかった。
「あんた」
普通ならば、長与にとってはエビルちゃんの身柄を探す方が優先だ。
関わって長与もあのロボットみたいな怪物に惨殺されては元も子もない。
「そうだよな。あの怪物はまだ俺には気づいていない。今ゆっくりと外に出れば」
外に出ればエビルちゃんを捜しに行ける。
エビルちゃんは長与にとって最後の家族だ。『白巳(しろみ)桐子(とうこ)』が殺されてから孤独になった長与に与えられた最後の家族だ。大切な家族だ。
その家族が今だ見つかっていない状況で命を危険にさらす理由はない。
目の前のモノに立ち向かう理由はないはずである。
普通なら逃げる。家族を見つけるためにこの場を後にする。こんな時に逃げないのは馬鹿げていることだろう。
「そうだな。逃げ」
そうだ。馬鹿げている。
「……逃げるわけがねぇよなぁ!!」
長与は叫びながら、目の前のモノに向かって殴りかかっていく。
彼は暴力的で無知で力のないただの平凡な一般市民である。だが、優しいのだ。
生きたいと生きようとするあの死体も同然の人間を捨てて家族を捜しに行くなど出来ない男なのである。
長与はモノを渾身の殴った。
「ギッ?……ッ!?」
モノの顔らしき部分に長与の渾身の一撃が当たる。
けれど、モノの体は鉄のように固い。
逆に長与の腕に痛みが走ってしまうのだ。
「超絶痛ッてぇ!!
折れたわ。腕折れたわぁ!!」
長与が勢いをつけすぎた状態で殴ったので自分自身でも折れたかと思ってしまう。
「痛いィ。折れたァ。痛いィ。もう動か……あれま?」
しかし、グーパーグーパーと手を動かしても動くので折れてはいなかったようだ。
その事に安堵する長与。
しかし、敵は長与に安堵する暇も与えてくれなかった。
「ァ!?」
モノはその鋭い口を使って長与の首筋に牙を突き刺そうと飛びかかって来たのだ。
飛びかかって来たモノを回避するために長与は逃げようとするのだが。
彼はバランスを崩して背中から転んでしまう。
こうして形成された馬乗り状態。
長与の上にモノが乗っており、モノは今も長与の首を狙っているのだ。
「ギシャァァァァ!!」
モノは鋭い爪の備え付けられた両手で長与の顔と右手を押さえつける。
手のひらを押さえつけられた顔は手によって密着させられていて呼吸も助けを呼ぶこともできない。
「んん……ん!?」
その手を退かそうと長与は顔を動かそうとするがピタリとも動かない。
同様に押さえつけられている右手もピタリとも動かせない。
「(何とかしなきゃ本当に呼吸もできず首を噛み千切られ)ん?」
ズボンの側に入れていた瓶に左手が当たる。
「(この瓶って確か。あのバレンタイン野郎からの)」
そして長与は思い付いた。この状況を打破できる対処方法を長与はギリギリになって思い付いた。
この瓶に入っているのはガソリン。
「(そうだ。このガソリンをこの金属鳥オバケにかけりゃぁ。ツルッとなるかもだし、うまくいけばこいつを焼き殺す方向で倒せるのでは?)」
この方法を確かめたことはないし、できるという確証もない。
だが、長与にはこれしかなかった。
この絶体絶命のピンチを乗り越えるためにはそれしかなかった。
だからこそ、長与は行動に移したのである。
───パリンッ!!となることに期待したのである。
しかし!!
───ガシッ!!
「あ…………れ?」
長与がぶつけようとした瓶はモノによって事前に掴まれてしまった。
モノはそのまま長与の手からガソリンの入った瓶を奪い取る。
「ギシャァシャシャシャ」
そして鉄が錆びたような笑い声のような声をあげる。
そのついでにモノは長与の頭から手を離した。
長与にとっては久々の呼吸。
このチャンスを逃すまいとすぐに息を整える長与であったが、彼が警戒していたのは他の点であった。
「(ヤベッッ)」
振り下ろされる瓶。
モノはそれをおもいっきり長与の頭に向けて叩きつけたのだ。
────バッリン
ガラスが割れる。額に突き刺さる。ガソリンがかかる。
「( )」
頭が痛い。訳がわからなくなる。長与の意識がそこで途切れた。
────────────
「生命意識反応。消失。敵対者完遂。回収優先。引き続き回収命令続行。回収せよ。回収せよ」
モノは目の前の人間が意識を消失したことを確認すると、ゆっくりと彼から離れはじめた。
モノには目の前の敵を惨殺するよりも先にすべきことがある。それは回収作業。
主人からの命令を遂行することが今回の重要任務だったのである。
モノはゆっくりと長与への馬乗りをやめて立ち上がると、部屋を見渡す。
気絶した人間。死にかけの人間。そして壁にかけられた吹き飛んだ扉の裏に隠れている人間。
この部屋にはその3人しかいない。
「……生命反応感知」
だから、モノはこの状況を疑問に思うのだ。
この部屋の生命反応は2つ。
それはモノのすぐ側から発せられていた。
「…………そこにいたのか。よかったぁァ。帰ろうエビルちゃん」
その声にモノは背後を振り向く。
だが、モノがその後行動に移行することはできなかった。
速すぎたのだ。相手のスピードが!!
「ギシャァァ………ア?」
モノは気づくと自分の頭を部屋の壁に押し付けられていた。
壁に穴が空くほど打ち付けられてしまっている。
モノは見る。攻撃を行ってきた自身の敵対者をその目で確認する。
「その前に!!
金属鳥オバケ。さぁて調理の時間だぜ!!」
モノの目の前に現れたのは1体の怪人。
────その怪人は人間の大きさ。
頭は青いヘルメットを被ったようになっていて、手や足にはタイヤが1本ずつ埋められている。
そして、左手は人間のままだが、右手は青色に塗装された機械で出来た腕と手。
その指が鋭くナイフのように尖っていた。
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