第7話:青年+少女

 地下2階にて出会った青年と少女。

2人は侵入してきている付喪神達の事を忘れてこの時間を楽しんでいる。


「──────」


青年は自分の生い立ちや学校での話、家族との思い出などと少女に語り聞かせる。

少女はそれを興味深そうにうなずきながら耳を傾ける。

青年は思った。「(この少女の話が聞きたい)」と……。

そこで青年は少女に何度も話を振ってみる。

好きな食べ物のこととか、好きな場所とか、普段のこととか、名前のこととか。

しかし、少女は青年に対して一言もしゃべってはくれない。


「…………」


ただ黙って、青年の話を聞いているだけになってしまっている。

現在、青年は少女のことを何も知ることができていない。

けれど、それでも少女との時間は青年にとっては楽しい時間であり、少女が不満げな表情を浮かべることは決してなかった。




 一通り、青年が自分のことについて話し終わった後のことである。

青年はふと自分が付喪人を志望している理由について語り始めた。


「そういえば僕が付喪人になりたい理由を話していなかったね」


「…………」


「僕はね……。家族を亡くしているんだ。8年前の台風の日にね。

あの日、非現実を知った。

台風の目の中に『アレ』はいた。誰も敵わなくて、誰も逃げられなくて……。数十分の時間が地獄のように思えた」


青年は思い出す。8年前の台風の日の事を……。

あれは超大型の災害級の台風だとニュースでは言っていた。専門家も語っていた。

けれど、それは事実ではなかった。

台風が真ではない。アレが真なのだ。


「…………」


「そんな時に僕を助けてくれたのが、1人の付喪人のオジさんだったんだ。

オジさんも最後は死んじゃったけどね。最後まで僕を助けてくれて身を挺して庇ってくれたんだよ」


青年は思い出す。あの地獄から庇ってくれたオジさんの事を……。

あの台風は普通ではなかった。台風の目の中心にいたその化物。

その化物がたった1人で何世帯もの住民たちや家を破壊した。

その30分間の光景は今でも青年の記憶の中にクッキリと焼き付いている。

けれど、それが全て終わってみれば台風のせいにされた。

家族は化物の被害ではなく台風の被害によって殺されたことにされてしまったのだ。


「だから、僕は彼のような付喪人になる。そう決めた。そしてあの台風の真相を確かめるのさ」


青年は天井を見ながら、決意をしなおすように語る。

その青年の決意に満ちた表情を観察していた少女は瞬きを数回したのち、青年へと問いかける。


「…………仇討ち?」


ようやく青年の話に少女が興味を反応で示してくれた。

青年はその事に喜びを感じ、心が熱くなっていく。


「そう。そうだよ。真相を確かめてオジさんの仇を取るのさ。それが僕が生かされた意味だと考えているんだ」


「…………生かされた意味……?」


「ああ、そして僕が成し遂げなければいけない目標だね。僕はその目標を遂行できるまで頑張って強くなるよ。

皆を守れるような立派な戦士に僕はなるって……今の僕じゃまだまだなんだけどねアハハハ」


青年は自分のこれまでの発言が急に恥ずかしく感じ始めて思わず、笑いかけながら自身の過去を少女に語り終った。


「…………」


少女は無反応でも青年の話を聞き逃すことなく聞いてあげていた。

聞き終わってから少女は青年に少し心を許してあげようという気分になったのかもしれない。

青年の過去と目標を聞き、彼の仇討ちを応援したくなったのかもしれない。

少女は少しの時間、何かを考えるように黙りこんだ後、再び青年の顔を見直して告げる。


「あなたならきっと…………」


それは少女から青年へのエールのつもりであった。

なので、少女は青年を信じきったような笑顔で彼にエールを送ろうと思ったのであろう。

青年に向けたとびきりのエールを少女は言葉で発しようとしたのだ。

────しかし、その時は来てしまった。

少女が彼にエールを送ろうとした瞬間である。

内側から鍵を閉めていたはずの扉が爆音と共に吹き飛んできたのだ。




 突如、大きな爆音と黒い煙によって吹き飛ばされてきたこの部屋の扉。


「危ない!!」


青年は少女に押し倒す。

仰向けに押し倒された少女と、彼女に覆いかぶさるようにして庇う青年。

吹き飛ばされてきた扉は青年の背中に激突。


「グッ……!!」


青年は痛みを感じたが、ふと気づいたように顔を彼女に向ける。そして普段通りの表情で彼女の無事を確認した。


「怪我はありませんか?

よかった……無事ですね」


青年は少女の無事を確認すると、背中に激突してきた扉を退かす。

そして、床に押し倒された少女を背中に庇うようにして立ち上がった。


「何者だ!!」


黒煙の中にいるモノへと青年は問いかける。

黒煙に紛れたモノはゆっくりと室内へと入って来て、その全貌を露にした。


「回収せよ。回収せよ」


そのモノは全身が金属でできていた。頭はプテラノドンのような形をしているが羽はなく。二足歩行で全身が銀色のロボットのような姿をしていた。

「(そんな奴が意思の疎通は出来ないだろう)」と青年は判断し、戦闘体勢にはいる。


「動いたら攻撃する。会話ができなければ攻撃する。いいか、僕は本気だぞ?」


だが、青年が今手に持っている物は室内にあった1本の鉄パイプ。

武器にはなるが、武器として役に立つかは分からない。敵を倒せるかも不明だ。

そんな彼を気遣うこともなく敵は青年に向かって襲いかかってくる。


「ギシャァァァァァ!!」


青年を威嚇しながらも、襲いかかってくる敵。


「(くそ、やっぱり逃げなくては……)」


青年は向かってくる敵に恐れをなして、方向転換し逃げようと考えたのだが……。

すぐ後ろに少女がいることを思い出す。

青年の背後には守るべき大切な友がいる。

青年は覚悟を決めた。


「こいつは僕が何とかします。

だから、これが終わったら僕とデート…………いや、後で名前教えてくださいね」


青年は鉄パイプを握りしめて向かってくる敵と闘いきる決意を固めたのである。





──────────

 エビルを捜しながら基地内部をさ迷っていた長与は地下2階にたどり着いた。

ここまで侵入してきたとされている敵と出会ってはいない。

長与はエビルの無事を願いながらも、彼女の名前を呼び続けていた。


「エビルー。どこだー!!」


手錠は鎖の方が切れていた。途中ですれ違った男が切ってくれたのだ。

手には細河からの差し入れであるガソリン入りの瓶を握りしめていた。


「どこだーー!!」


そして、地下1階で彼女を捜していた最中に下の階から聞こえてきた爆音。

彼はそれを聞き付けて地下2階へと降りてきたのである。


「エビルー!!

いるのか?

大丈夫なのかー?」


長与は爆音が聞こえてきた方へと走る。

その場所に危険があるのは百も承知。

けれど、長与はその場所に向かって走った。

彼の視線の先には1つだけ扉がない部屋が……。


「エビルー!!

いるか?

大丈夫か!?」


長与はエビルの無事を願いながらも、その部屋の前へとたどり着いたのである。

その部屋の先の光景に長与は言葉を失うことになるとも知らずに……。

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