第6話:侵入+基地

 「回収せよ。回収せよ。回収せよ」


日本怪奇物討伐連盟Bブロック基地へと侵入した謎の付喪神たちは三手に別れて任務を遂行するつもりのようであった。

彼らの通る道にはたくさんの被害者が倒された状態で横たわっている。


「ぐぐっ…………まさか付喪人のいない時間帯に基地に乗り込んでくるなんて……」


そう言って気絶した彼は非戦闘員の1人。

闘うことのできないただの職員の者である。

謎の付喪神たちは戦闘員も非戦闘員も区別をつけずに、目の前に現れた人間を次々と攻撃しているのだ。


「回収せよ。回収せよ。回収せよ」


「いたぞみんな!!

こいつが敵だ!!」


このように謎の付喪神たちの行く手を阻んでくる戦闘員もいるのだ。

【付喪神と契約を結び超能力を手にいれた者……通称:付喪人】。

それがこの日本怪奇物討伐連盟の戦闘員である者たちの呼び名でもある。

その付喪人たちも謎の付喪神とは戦闘を行うのだが……。


「バカな。攻撃が効かないぞ」

「バカな。なんて防御力なんだ」

「くそっ。誰かもっと上の階級の人を呼ぶんだ」


駆けつけた付喪人たちの攻撃をものともせず、謎の付喪神は進軍を続ける。

邪魔者は戦闘不能になるまで攻撃し、謎の付喪神の後ろには無数の敗者たちが横たわっていた。




 『非戦闘員は直ちに第2ホールへ集まってください。付喪人は直ちに敵付喪神の討伐に向かってください。繰り返します。現在、敵付喪神の侵入が確認されました』


館内放送が鳴り響く中。

細河滝雄は館内で集団を捜すために走り回っていた。

彼は今日新人選抜の試験官を任されており、受験者5名を置き去りにしていたのを忘れていたのだ。

普段なら細河がサボるのも日常茶飯事の事で、遅刻を繰り返している。

しかし、今日は普段とは違う。

滅多にない基地内への敵付喪神の侵入。

そして、付喪人たち戦闘員はほとんどが任務中。

つまり、戦闘員の少ない日を謎の付喪神は狙ってきたのである。


「まったく、侵入者も日にちを考えてほしいなぁ」


細河は侵入してきた謎の付喪神に対して愚痴を呟きながらも、受験者5名を捜している。

第2ホールにまだ受験者の姿がない事は確認済み。

彼らがまだ被害の出ている場所にいる可能性が高いのである。


「あーあー、留守番も試験官も受けるんじゃなかった。帰ってきたらみんなに怒られちゃうなぁ」


細河はめんどくさそうに頭を掻きながら、走るのをやめて歩き始める。

細河が廊下を歩く最中でも、館内放送は鳴り止むことがない。

いまだに侵入してきた謎の付喪神たちは討伐されていないのである。

細河はそれを誰よりも理解していた。

彼が立ち寄った先は男子トイレ。

そこにいたのだ。


「回収せよ。回収せよ。か回収せよ」


金属の部品のような物でできた怪物。

ギシギシと機械音を奏でながら、大型犬くらいの大きさの銀色の物。

顔はプテラノドンのような形状で赤き瞳を持ち、二足歩行に両手もついた飛べない形。

敵意をむき出しにして奴は次の狙いを細河に定めていた。


「やあバレンタイン。君、面白い形態だね。初見だ。だけど、すまない。君を調べるつもりもない。徹底的に壊してあげるのだからね~」


細河と謎の付喪神は男子トイレで対面する。

細河は謎の付喪神に恐怖を感じることもなく、ただニヤリと笑みを浮かべていた。





 その頃、忘れ去られた長与は床を這って移動し、壁をうまく利用して立ち上がっていた。


「…………よいっしょ!!

手錠されてても立ち上がれるもんなんだなぁ」


両手は使えないが、長与はようやく二本足で立つことができている。

つまり、この部屋から脱け出すことが可能。

長与はすぐにこの謎の基地から逃げ出さないといけないのである。

逃げ出さないと解剖される。この体の神秘を無理やりこじ開けられる。

それは長与に死ねと言うような物。


(殺されてやるもんか!!)


長与は部屋を出て廊下を走る。

今、この状況で脱走しているのがバレれば危険だということを長与は理解している。

しかし、彼には自身の危険よりも最優先にするべき事があった。


「エビル、どこだ!!

返事をしろー!!」


自分と一緒に連れ去られたエビルを救出する。そして、無傷でこの基地から一緒に逃げ出す。

それが今長与が最も優先していることだ。






 地下2階。

館内放送が鳴り響く中、青年は必死に廊下を走っていた。上の階からの震動で、転倒しそうになりながらも彼は逃げるために走る。

同級生たちとはぐれてしまい、試験官もいない状況で彼はたった1人で生き延びていた。

先程まで、地下1階にて試験官とはぐれてしまい試験官を捜していた5人の集団。

しかし、侵入してきた謎の付喪神の1体が地下1階にやって来た。

その付喪神と付喪人による戦闘に巻き込まれて、みんなとはぐれてしまったのだ。


「……!!」


青年は廊下を走る。

だが、さすがに疲れてきたのだろう。

青年は息をきらしながら、休憩するためにとある部屋のドアを開く。


「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァァ~。ん?」


青年は部屋に倒れ込むように入ると、下を向いて荒くなった呼吸を静める。

そして、扉の鍵を閉めた。

だが、謎の視線を感じた青年はふと顔をあげる。


「…………誰?」


青年の目の前には1人の少女が座らされていた。椅子に拘束されてはいるが、怪我もない少女。白く美しく清らかな雰囲気の少女。

そして、青年はそんな少女を見惚れてしまった。青年にとっては初めて経験する一目惚れである。

しかし、青年はその心境を悟られまいと冷静な対応で少女に話しかけた。


「君こそ。こんな所で何をしているんだよ?」


「……お迎えを待ってるの」


「お迎え?

こんな危険な所で?」


「うん…………保護者が来る」


その青年は目の前にいる少女が口にする言葉を疑い始めていた。

こんな危険な所に保護者が迎えに来るとはどうしても思えなかったのだ。


(今、上の階が危険な状態なのにこの少女を迎えに来るだって……?

逃げた方がいいだろうに……)


「一緒に来ない?

きっと外に行けば保護者もいるよ」


そう言って青年は彼女の手を掴もうとする。

少女を置いては行けないと判断したのだ。

だが、その時。

激しい爆音が響き、上の階からの震動で少しだけ揺れる。


「「…………」」


揺れはすぐに収まったが、少女は一向にこの場から逃げ出そうとはしない。

手を掴んで連れ出そうとする。

けれど、彼女は椅子にしがみついたまま、青年の提案を断り続ける。


「ふむ……」


青年はとうとう彼女を連れ出すことを諦めた。

逃げたかったという本心を押し殺し、床に座る。

助けがやってくるその時まで彼女と一緒にいようと思ったのであろう。

ただ、その行動が少女には理解できなかったようだ。


「…………どうして逃げないの?」


純粋に疑問に思っている少女に青年は胸を張って自信満々に答える。


「それは……。君を1人にさせられないからね!!

僕はこれでも付喪人になることを目指している。凶悪な付喪神から皆を守るために闘う戦士になるんだ。だから、逃げない」


「…………そう」


青年からの返答に少女の表情は少しも変わらず、無表情のままではあった。

ただ、その無表情な顔も少しだけ安心感のある表情に変わっている。

青年にはそう思えたようだった。

青年にとっては束の間であっても幸せな時間である。

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