もっと×××

腹の中にはバケモノが住んでいる。

得体の知れないバケモノは、

「健康」であれば悪さはしないが、時に腹を酷く掻き乱すことがある。それは人によって様々だ。


しかし


酷い時には本当に酷い。

そのバケモノを飼っている本人が気づかない間に大きく膨れている時もあるのだから、なお恐ろしい。











あたしの友だちがね。最近ダイエットを始めたんだ。

何がきっかけだったのか、それはわからないけど、シンデレラ体重が~とか言って食事制限を始めたんだ。

小麦粉禁止!とか、糖質制限!とか、雑誌に載ってる色んな方法を試してみたの。でも、どれも長続きしない。

その子はもともとぽっちゃり系なの。私もなんだけど。食べるのが大好き。

美味しいものを色々食べて、お腹いっぱい食べて、それで幸せだったんだ。月に1度、一緒に食べ放題に行くのが楽しみだったわ。

なのに、その子、急に制限を始めちゃった。


それでね。ある時 、ぱっとやめちゃったの。


それまでカロリーとか糖質とかのたっくさんの数字をメモ帳に書き込んで、今日はあと何キロカロリーしか食べないなんて言っていたその子がよ?

ころころ変えてはいたけど、半年以上も頑張って続けたダイエットをぱったりやめちゃった。


痩せたからだと思うでしょ?

確かに痩せたわ。

数ヵ月ぶりに会ったその子はガリッガリに痩せてた。


「久々にうちに来ない?宅飲みしようよ!」ってメールが着たときは、また一緒に食べ歩きができるんだって喜んだわ。

でもね。違ったの。


約束した日にその子のアパートへ行って、チャイムを鳴らして。で、出てきたのは変わり果てた彼女だった。心配になって聞いたけど、その子は「大丈夫」って答えるばかり。

部屋に入って買ってきた物をテーブルの上に広げて、その時変に思ったの。

やけに量が多くないかな?って。


そりゃ、私も以前の彼女もたくさん食べるわよ? でも、彼女が用意したのは私でも食べきれないくらいの食品たち。私が用意したのはサラダも含めてバランスはそこそこ取れていたと思う。でもその子、カップラーメン・スナック菓子・ピザ・菓子パン・コンビニケーキ・炭酸飲料・アイスクリーム…どう? 異様じゃない?

これを夜中の9時過ぎに食べるのよ? 1日で。

今までダイエットをしてきた人のやることじゃないわ。

カロリー計算どこ行った? よ。そもそも、こんなの食べ過ぎでしょ?食べきれないわ。


本当に急にダイエットをやめるって連絡が着たから、ああ、やけ食いなのかな?とも思って付き合うことにしたの。

私は別に体重は気にしていなかったから。

健康は気にするけどね。


で、食べ始めたの。


私ね。その子と一緒に食べるのが本当に楽しかったんだ。食べ物のこととか日常のこととかを話しながら、笑って、愚痴を言い合って、泣いて、でもやっぱり笑って。


その子は一心不乱にただ「食べて」いた。無表情で、無言で。口に物を詰め込む作業とでもいうかな。

その姿には楽しさは感じなかった。

悲しくなって、私の手は止まっていたわ。


しばらくして、「ごめん、ちょっとお手洗い」って言ってその子は席を立った。

私は急いでスマホでテーブルの上の写真を撮った。


彼女が戻ってきて、私はちょっと休憩しよう? って言い出した。

お酒も呑んでいたからわざとらしくはなかったわ。私と話をする彼女は以前と変わっていなかった。


そう、思いたい。


彼女は言ったわ。

「食べても食べても足りないの。

もっと、もっとって欲しくなっちゃう。

でも、前みたいにぶくぶく太るのは嫌。


だからね。」


ちょっとした抜け穴を見つけたんだと彼女は言った。


それから1週間後。

彼女から「食べに行こう!」とメールが届いた。

私はちょうど暇だったから「いーよー」と返事を返した。

行った先はケーキバイキングだった。


2週間後。彼女からメールが届いた。

行った先はラーメン屋だった。

私は大盛り、彼女は特盛りを注文した。


更に2週間後。彼女からメールが届いた。

もしかして、月2で誘ってくれてる?と聞いた。彼女はやっと気づいた?と笑って言った。

行った先は焼き肉食べ放題だった。


私たちは月に2回会って、飲食店の扉を一緒にくぐった。

それは、彼女がダイエットを始める前に自然と決まっていた約束だった。

毎回、私はお腹いっぱいで満足して帰った。

でも、きっと、彼女は

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る