第112話 残された車

7月5日の夕刻、封木神社に晴南達の姿があった。


晴南と優斗と晃太は三緒の車で再び封木神社に連れて来てもらったのだった。


そして三緒の車から降りてきた晴南達を二実が出迎えたのだった。


「晴南ちゃん、いらっしゃい。」


晴南が二実に言った。


「二実さん、こんにちは。」


二実が晴南に言った。


「毎日付き合ってもらってごめんね。」


晴南が二実に言った。


「そんなの全然いいです。」


晃太が二実に言った。


「二実さん、今日からは交代で参加しますね。」


二実が晃太に言った。


「うんその方がいいと思うわ。さすがに連日徹夜はキツイだろうから。」


晴南が晃太に言った。


「今日は私達しかいないからしっかり頼むわよ。」


晃太が晴南に言った。


「ああもちろんだ。」


すると優斗が晴南に尋ねた。


「ねえ晴南??本当に毎日参加するつもりなの??」


晴南が優斗に言った。


「ええ当然でしょう。これは私達の問題でもあるんだから。」


優斗が晴南に言った。


「それはそうなんだけど。」


すると二実が三緒に尋ねた。


「三緒??眠そうね。」


三緒が少し眠そうにしながら二実に言った。


「そりゃ徹夜明けだから眠いに決まってるでしょ。夜が得意が二実はいいだろうけどさ。」


二実が三緒に言った。


「ぼやかないでよ。今日はトンネルまでの行き帰りは私が運転していくからさ。三緒はその間寝てていいわよ。」


「いいの?」


「もちろん。」


「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えてそうさせて貰うね。」


二実がみんなに言った。


「それじゃあそろそろ暗くなってきたし九木礼トンネルに行きましょうか。」


晴南達は二実の車で九木礼トンネルに向かったのだった。


晴南達が封木神社を出た時すでに周囲は暗くなっており、九木礼トンネルに向かっている最中に外は真っ暗になったのだった。


窓から外の様子を見ていた晴南が九木礼トンネルの近くまでやって来るとトンネルの方角から赤い光が出ている事に気がついた。


晴南が二実に尋ねた。


「あの赤い光なんですか??」


二実が晴南に言った。


「本当だ、なんだろうね??」


優斗が二実に言った。


「パトカーのランプじゃないですか??」


二実が優斗に言った。


「そいうえば警察の人に九木礼トンネルを通行止めにしてもらってるんだったわね。」


二実達は九木礼トンネルの近くに車を止めると九木礼トンネルの前に止まっているパトカーへと歩いていった。


すると晴南がとある事に気がついたのだった。


「あれっ??お巡りさん達がいないわよ??」


晴南の言葉で他のメンバーもLEDライトを照らしながら周囲を見渡してみた。


すると晴南のいう通り警察官の姿はどこにも見当たらなかった。


二実が晴南に言った。


「本当だ??お巡りさん達どこに行ったんだろう??」


九木礼トンネルの前には二台のパトカーが止まっていた。


だが二台のパトカーはどちらとも非常時を知らせる赤色灯(せきしょくとう)を点灯させていたが、警察官の姿はパトカーの中にはなかった。


晴南達はパトカーの周囲を見渡してみたが、警察官の姿はどこにも見つける事ができなかったのだった。


晴南が不思議そうに言った。


「えっ??どういう事??なんでパトカーがあるのに、お巡りさんがいないの??」


二実が晴南に言った。


「さあ??どうしてかしらね。」


晴南がみんなに尋ねた。


「もしかしてお巡りさん帰っちゃったのかしら??」


晃太が晴南に言った。


「なんでこんな山奥に赤色灯(せきしょくとう)をつけた状態でパトカーを放置して帰らなきゃならないんだ??帰るのならパトカーに乗って帰ってるはずだろう。」


晴南が晃太に尋ねた。


「それじゃあどうしてお巡りさんが一人もいないの??」


晃太が晴南に言った。


「もしかしたらここにきたお巡りさん達に何かあったのかもしれない。」


晴南が晃太に聞き返した。


「ええっ??何かって何があったの??」


晃太が晴南に言った。


「そこまでは分からない。」


すると優斗が大きな声でみんなに言った。


「ねえ??みんな、あれを見て!!」


晴南が優斗に聞き返した。


「どうかしたの優斗??」


優斗が晴南に言った。


「ねえパトカーの横に別の車が止まってない??」


「えっ??」


晴南はそう言うと優斗が指さした場所をLEDライトで照らしたのだった。


すると確かにパトカーの横にもう一台の白い乗用車が止まっていた。


晴南が優斗に言った。


「本当だ。別の車が止まってる。」


晴南が優斗に言った。


「パトカーに気を取られてて気づかなかったわね。でもこの車がどうかしたの??」


すると優斗の代わりに晃太が晴南に言った。


「これは校長先生の車だ。」


晴南が晃太に言った。


「あっ!!確かに校長先生の車ね。えっ??でもなんでこんな所に校長先生の車があるの。」


優斗が晴南に言った。


「今日は校長先生休みだったでしょ。」


晃太が晴南に言った。


「お巡りさん同様に校長先生にも何かあったのかもしれない。」


晴南が驚いた様子で言った。


「ええっ??」


すると二実がみんなに言った。


「さっきからずっと禍々しい気配を感じるし、これは無色さんに話を聞いた方が良さそうね。」


三緒が二実に言った。


「そういえば無色(むしき)さんがここを見張ってくれてるんだったわね。」


無色は九木礼トンネルから少し離れた高台からトンネルの様子を観測していたのだった。


晴南達がその高台までやって来ると、大きな蛇の姿をした無色(むしき)が姿を現すのだった。


晴南が無色に言った。


「無色さん、こんばんは。」


無色が晴南達に言った。


「ああ巫女殿、それに勇者殿よくいらしゃった。」


二実が無色に尋ねた。


「すいません無色(むしき)さん、早速なんですが状況を教えてもらえませんか?」


無色がみんなに言った。


「うむ、実は千亡(せんもう)が復活したのだが。」


晴南が聞き返した。


「千亡(せんもう)??」


無色が晴南に言った。


「ここに封じられていたオバケの名だ。」


晴南が無色に言った。


「そうなんですね。」


無色がみんなに言った。


「ああ、彼らが起きてきた事で問題が発生している。」


晃太が無色に尋ねた。


「問題というのは?」


無色が晃太に言った。


「千亡(せんもう)が復活したことでここにやってきた5人が行方不明になっている。」


みんなが驚いた様子で言った。


「ええっ??」


二実が無色に聞き返した。


「行方不明ってどういう事ですか??」


無色が二実に言った。


「言葉通りだ。このトンネルにやってきた5人がトンネルに入ったきり出てきていない。」


晃太が無色に尋ねた。


「誰がトンネルに入っていったかって分かりますか??」


無色が晃太に言った。


「すまないがトンネルに入っていった者の名までは存じない。」


二実が無色に尋ねた。


「それっていつ頃の事ですか?」


無色が二実に言った。


「今日の午前6時半くらいだ。」


晴南が晃太に尋ねた。


「あれでもここ通行止めにするように勇雄さんにお願するって拓也が言ってなかった?」


晃太が晴南に言った。


「どうやらその通行止めにするために来たお巡りさん達が巻き込まれてしまったみたいだな。」


優斗が無色に尋ねた。


「校長先生がどうなったかって分かりますか?」


無色が優斗に言った。


「すまないが分からない。五人が九木礼トンネルの中に入ってから12時間以上外に出て来ていないという事以外はすまないが分からない。」


二実がみんなに言った。


「うーん、これはまずい事になっちゃったわね。」


黒輪がみんなに言った。


「まさか目覚めて早々に人を飲み込んでしまうとはな。」


二実が黒輪に尋ねた。


「ここに来てからずっと禍々しい大きな気配を感じます。この大きな気配が千亡(せんもう)なんですね?」


黒輪が二実に言った。


「ああその通りだ。起きたばかりだというのにここまで強力とはな。封印が二つ必要だったというのも頷ける。」


黒輪がみんなに言った。


「うーむ、しかし難儀な事になったな。」


三緒が黒輪に言った。


「こうなったらまた封印するしかないんじゃないですか?」


黒輪が三緒に言った。


「そうだな、何とか協力を仰ぎたかったが起きて早々に何人も飲み込んでしまうとはな。再封印するしかあるまいな。」


無色が黒輪に言った。


「とわいえ千亡を封印するとなると、膨大な霊力拡散が必要だ。お主の霊力拡散だけではとても足りぬぞ。」


黒輪が無色に言った。


「言われずとも分かっておる。」


黒輪がリグロに尋ねた。


「リグロ殿すまぬがまたお力を貸して頂けますかな?」


リグロが黒輪に言った。


「無論です。」


すると二実が黒輪に言った。


「あ!!黒輪さん待ってください。」


黒輪が二実に聞き返した。


「巫女殿、どうかされたか?」


二実が黒輪に言った。


「やってみたい事があります。うまくいけば黒輪さん達の力を使わなくて済むかもしれません。」


黒輪が二実に言った。


「ほう巫女殿には何か考えがあるようですな。ならば巫女殿、お頼みして宜しいか。」


二実が黒輪に言った。


「はい、任せてください。」


すると三緒が二実に言った。


「ちょっと二実??どうやって封印するつもり??正直とてもじゃないけど封印できるような相手には思えないんだけど??」


二実が三緒に言った。


「そうね邪気だけなら黒輪さんよりもすごいかもしれないわ。」


黒輪が二実に言った。


「千亡は強大な霊力を有している。霊力だけなら千亡の方が遥かに上だろう。」


二実が三緒に言った。


「でも大丈夫よ、任せて。」


三緒が二実に言った。


「まあいいわ。二実がそこまで言うなら任せるけど。」


二実が三緒に尋ねた。


「それでこれからどうするの?」


二実が三緒に言った。


「トンネルの中に入るの。」


「ええっ??こっちからトンネルの中に入ろうっていうの?」


「ええそうよ。」


「なんで??」


「虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うでしょう。」


「答えになってないでしょ。」


「まあいいわ何か考えがあるみたいだし。」


すると晴南が二実に話しかけてきた。


「二実さん、私達も連れてってください。」


優斗も二実に言った。


「僕たちも行きたいです。校長先生は赤の他人じゃないですし。」


二実が優斗と晴南に言った。


「ええ分かってるわ、みんなにも来てもらうつもり。そのかわり私達の側から離れないでね。」


晴南が二実に言った。


「はい、分かりました。」


黒輪が二実に言った。


「巫女殿、我々も同行して宜しいか?」


二実が黒輪に言った。


「はい、もちろんです。宜しくお願いします。」


それから晴南達は真っ暗な九木礼トンネルの中に入っていくのだった。


だが晴南達は夜が明けても戻って来なかったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る