第113話 いなくなった晴南
7月6日に朝になった。
九木礼中学校の3年1組の教室ではいつも通り麻衣子達が登校していたが晴南の姿はどこにもなかった。
教室内にいた麻衣子が美咲に尋ねた。
「ねえ晴南は今日休みかな??」
美咲が麻衣子に言った。
「あの元気な晴南が休みとか珍しいわね。」
麻衣子が美咲に言った。
「そうね。それに晃太君や優斗君まで休みだなんて。」
麻衣子の言う通り教室内には晴南と晃太と優斗の姿はどこにもなかったのだ。
だが美咲は大して気にしていない様子で麻衣子にこう言った。
「たまたまでしょ。晴南や晃太君が休む日だってたまにはあるでしょう。」
麻衣子が美咲に言った。
「そうなのかな??」
美咲が麻衣子に言った。
「そうよ、それよりも今日は晴南がいないから静かに校長先生の授業を受けれるわね。」
だが授業開始の時間になっても校長先生はなかなか3年1組の教室に来なかった。
麻衣子が冬湖に言った。
「あれ校長先生遅いね??まさか今日も休みかな?」
冬湖が麻衣子に言った。
「本当ですね。もしかして体調でも崩されたんでしょうか??」
麻衣子達は校長先生がやって来るのを待っていたが結局昼休みになっても晴南も晃太も優斗も校長先生も現れる事はなかった。
そしてそのまま部活動の時間になったがいつも部活動を引っ張ている晴南がいない事もあり、特に部活動をしようという流れにはならずそのまま家に帰る事になった。
帰り道で美咲が麻衣子に言った。
「晴南がいないから変な思いつきもされないし、運動もしなくて良かったから今日はとっても平和だったわね。」
美咲が麻衣子に言った。
「それじゃあね、麻衣子。」
麻衣子が美咲に言った。
「ええまた明日ね。」
麻衣子は美咲が遠くに行くのを見守っていた。
そして美咲が見えなくなる確認してから麻衣子が他のメンバーに言ったのだった。
「ねえみんな??この後付きあってくれないかな?」
拓也が麻衣子に言った。
「ああ分かってる。晴南達の事だろう。」
麻衣子が拓也に言った。
「うん、美咲には悪いけど、美咲の前だとオバケの話できないからさあ。」
拓也が麻衣子に言った。
「それなら二実さんか三緒さんに晴南達の事を聞いたらどうだ??」
麻衣子が拓也に言った。
「それがさあ、私もそう考えて二実さんや三緒さんにメッセージを送ったんだけど、全然返ってこないの。電話しても留守電になってて繋がらないのよ。」
拓也が麻衣子に言った。
「そうなのか?まさか二実さん達にも何かあったって事なのか??」
麻衣子が拓也に言った。
「全然分からないの、それも確認したくて封木神社に行こうかなって思ったんだ。」
拓也が麻衣子に言った。
「だが封木神社はここからだいぶ離れてるから徒歩や自転車でいくとなるとかなり大変だぞ。」
麻衣子が拓也に言った。
「そうなんだよね。」
すると七緒が麻衣子に言った。
「だったらとりあえず家に来る??」
麻衣子達は七緒の言葉に甘えて、七緒の家である九良平(くらひら)神社へとやってきたのだった。
そして九良平神社の社務所の中にある大広間に集まるのだった。
麻衣子が七緒に言った。
「七緒が自分から誘うなんて珍しいわね。」
七緒が麻衣子に言った。
「たまにはそういう時もあるよ。」
冬湖が麻衣子に言った。
「晴南さん達どうされたんでしょうか??」
亜美が冬湖に言った。
「心配ですね。」
麻衣子が冬湖に言った。
「予定通りなら二実さん達と一緒にいたはずなんだけど。」
拓也が麻衣子に言った。
「そうだな、昨日は晃太達が当番だったからな。」
由香が心配そうな顔で言った。
「何かあったんでしょうか??」
麻衣子が由香に言った。
「たぶんね。なにがあったかまでは分からないけど。」
麻衣子が七緒に尋ねた。
「七緒??三緒さんはいないの??」
七緒が麻衣子に言った。
「お姉ちゃんは昨日の夕方晴南達を封木神社に送っていったきり戻って来てないよ。」
麻衣子が七緒に言った。
「それじゃあ、やっぱり二実さんも三緒さんも行方不明って事なのかな。」
長孝が麻衣子に言った。
「でも堀川先輩??二実さん達は封木神社の方に行ってるだけかもしれないっすよ。」
麻衣子が長孝に言った。
「そうだね、後で封木神社に行ってみようか??」
すると麻衣子の後ろから声が聞こえてきたのだった。
「封木神社には誰もいなかったですよ。」
「えっ??」
麻衣子が振り返るとそこには健太と柚羽の姿があった。
「堀川先輩、こんにちは。」
「こんにちは、麻衣子。」
麻衣子が二人に尋ねた。
「健太君、それに柚羽??二人ともどうしたの??」
柚羽が麻衣子に言った。
「みんなにこの前のお礼を言おうと思って、封木神社に行ったんだけど誰もいなかったのよ。」
麻衣子が柚羽に聞き返した。
「誰もって?封木神社には二実さんも三緒さんも晴南もいなかったって事??」
柚羽が麻衣子に言った。
「うん、それに黒輪(こくりん)さん達もいなかったわよ。気配もなかったし、拝殿に上がって呼びかけてみたんだけどやっぱり誰もいなかったわ。」
柚羽が麻衣子に言った。
「それでこっちの九良平神社の方にいると思ってここに来たんだけど??」
柚羽はみんなの顔を見渡した後で尋ねた。
「みんなどうしたの??深刻そうな顔をしてるけど??」
「実はさ」
麻衣子は健太と柚羽に今までの経緯を説明した。
「ええっ??水元先輩が行方不明なんですか??」
「なるほどね。九木礼トンネルに封じられていたオバケを復活させようとしていたのね。」
麻衣子が二人に言った。
「うん、それで昨日は晴南と晃太と優斗が二実さん達と一緒に行っていたはずなんだよね。」
柚羽が麻衣子に尋ねた。
「それで二実さん達とは連絡は取れないの??」
麻衣子が柚羽に言った。
「うん、朝から二実さんや三緒さんとも連絡が取れないのよね。」
柚羽が麻衣子に言った。
「そうなると二実さん達も晴南達と同じトラブルに巻き込まれている可能性が高いわね。」
すると拓也がみんなに言った。
「みんなその事で一つ話したい事があるんだが??」
麻衣子が拓也に尋ねた。
「なに拓也君??」
拓也が麻衣子に言った。
「実は親父と昨日から連絡が取れないんだ。」
麻衣子が拓也に言った。
「ええっ??勇雄さんもなの??」
拓也が麻衣子に言った。
「ああ、親父と一緒にいたはずの警察官三人とも連絡が取れなくなっているらしい。」
麻衣子が拓也に尋ねた。
「勇雄さんどうしちゃったの??」
拓也が麻衣子に言った。
「分からない。九木礼署の人の話じゃトンネルを通行止めにする為に同じ九木礼署の3人と一緒に、昨日の午前6時頃に九木礼トンネルに向かったらしいんだが、それっきり連絡が取れないらしいんだ。」
亜美が拓也に言った。
「お兄ちゃん??お父さん、行方不明になってるの??」
拓也が亜美に言った。
「ああ、そうらしい。」
亜美は目に涙を浮かべて拓也に言った。
「そんな!!晴南さんや二実さんお父さんまで!!!」
拓也が亜美に言った。
「大丈夫だ、親父も晴南もみんなも助けてみせる。だから安心してくれ。」
すると亜美は安心した様子で拓也に言った。
「うん。」
麻衣子が七緒に尋ねた。
「そうだ七緒??三緒さん、出かける時に何か言ってなかったか??」
七緒が麻衣子に言った。
「私がいないからって家でグータラしてちゃダメよって言ってた。」
麻衣子が七緒に言った。
「それはいいわ。そうじゃなくて今回の事に関して何か言ってなかった??」
七緒が麻衣子に言った。
「特に何も言ってなかったと思う。」
九良平神社の大広間にいた麻衣子達はこの後どうするかを話し合いを始めた。
麻衣子がみんなに言った。
「晴南達だけじゃなくて二実さんや勇雄さんさらには黒輪(こくりん)さんまで行方不明になってて事態は想像以上に悪くなってるわ。」
長孝が麻衣子に言った。
「九木礼トンネルで何かあったのは間違いないっす。」
拓也が長孝に言った。
「そうだな。二実さんや晴南達は九木礼トンネルのオバケを解き放って協力を仰ごうとしていた。ならば九木礼トンネルで何かあったと考えるのが一番可能性が高い。ましてや親父達まで九木礼トンネルに行って行方不明になってるわけだしな。」
冬湖が拓也に言った。
「そうですよね、晴南さん達もたぶん昨日九木礼トンネルに行ってるはずですよね。」
すると慎吾がみんなに言った。
「三象(さんしょう)がやった可能性はなかとですか?」
拓也が慎吾に言った。
「そうだ、その可能性もあるな。」
由香が拓也に言った。
「うーん??どっちなんでしょうか??」
拓也が由香に言った。
「それが分からないと動きようがないな。」
どちらの仕業か判断に困っていると、柚羽がみんなに言った。
「少なくとも今回のは三象(さんしょう)じゃないと思うわよ。」
麻衣子が柚羽に尋ねた。
「なんで三象じゃないって言えるの?」
柚羽が麻衣子に言った。
「感じるから、九木礼トンネルの方から大きな霊力拡散をね。」
「それじゃあ。」
「たぶんその起こそうとしていたオバケが起きてきて悪さをしてるんだと思う。三象なら禍々しい気配を出したりはしないから。」
「なるほどね。」
「あそこに封じられているオバケの名前は確か千亡(せんもう)だったかな。黒輪(こくりん)さんにそのオバケの話を聞いた事があるの。」
「ありがとう、柚羽、とても参考になったわ。」
拓也が柚羽に言った。
「ああおかげで方針が立てられる。」
柚羽が拓也に言った。
「別にいいよ。私や健太のほうこそ助けてもらってるからね。ねえ健太??」
健太が頷いた。
「はい。」
柚羽が麻衣子に言った。
「まあ私の場合はすでに死んでるから助けてもらったって表現で正しいかは分からないけど。」
すると健太が柚羽に言った。
「姉さん、僕たちも手伝いませんか??」
柚羽が健太に言った。
「ええもちろんそのつもりよ。晴南のピンチをほおっておけなから。」
麻衣子が柚羽に言った。
「いろいろとありがとう。柚羽。」
拓也が柚羽に言った。
「恩にきる。」
すると柚羽が麻衣子に尋ねた。
「なんで七緒に聞かなかったの??」
麻衣子が柚羽に言った。
「聞いたよ、三緒さんから何か聞いてないかって。」
柚羽が麻衣子に言った。
「いやそうじゃなくて七緒に直接聞けばいいじゃない??今回の事どう思うって??七緒にも霊感があるんだし。」
麻衣子が柚羽に聞き返した。
「えっ??そうなの??」
柚羽が麻衣子に言った。
「知らなかったの??」
麻衣子は気持ちよさそうに眠っている七緒を起こして尋ねたのだった。
「ちょっと七緒???」
七緒は眠そうにしながら起きてきた。
「うーん??なに??」
麻衣子が七緒に尋ねた。
「七緒にも霊感があるって本当なの?」
七緒が麻衣子に言った。
「うん、本当だよ。」
拓也が七緒に尋ねた。
「それじゃあ何か異変が起こってるって気づいてたのか。」
七緒が拓也に言った。
「うん、今も北東の方からすごく嫌な気配を感じてるよ。たぶんオバケの気配だと思うけど。」
拓也が七緒に言った。
「ここから北東というと九木礼トンネルのある方角だな。」
麻衣子が七緒に言った。
「ちょっとそれを早く教えてよ。私達さっきからずっと考えてたのに。」
七緒が麻衣子に言った。
「教えたら助けに行かなきゃいけないからその前に家でたくさん寝ておこうと思って。」
麻衣子がため息をついた。
「はあー。」
七緒がみんなに言った。
「まあ私はお姉ちゃんみたいに幽霊を見たり聞いたりする事はできないけど。ただ気配を感じる事ができるだけだよ。」
冬湖が麻衣子に尋ねた。
「麻衣子さんこれからどうしますか??」
麻衣子が冬湖に言った。
「その復活させたオバケを何とかするしかないんだけど、その何とかする方法が現状分からないからねえ。」
柚羽が麻衣子に言った。
「とりあえず九木礼トンネルの近くに行ってみたらどうかな?何か手がかりになる物が残ってるかもしれないし。」
麻衣子が柚羽に言った。
「そうだねそうしよっか。」
すると柚羽が麻衣子に尋ねた。
「ねえそう言えば美咲の姿の見えないんだけど?美咲も晴南達と一緒にいたの??」
「ううん??美咲は大丈夫よ。ただ今美咲とは別行動が多いのよ。」
「そうなんだ?美咲と喧嘩でもしてるの?」
「喧嘩って言えばそうなるのかな。みんなでリグロさん達に協力しようってなったんだけど美咲だけ反対してるの。ほら美咲ってオバケ苦手でしょう。それで今美咲とは距離を取ってるんだよね。学校ではちゃんと話したりはしてるんだけど。」
「そうなんだ、なんかごめんね。」
「こっちこそごめん。」
「大丈夫、気にしないで。」
「それじゃあ九木礼トンネルに行きましょうか。」
「ええ。」
そして麻衣子達は一旦自宅に戻って、LEDライトなどの準備を済まてから自転車で九木礼トンネルへと向かったのだった。
麻衣子達が九木礼トンネルの前にやってきた時はすでに空は暗くなっていた。
麻衣子達は九木礼トンネルの前にやってきて早々に異様な光景を目撃するのだった。
その異様な光景に全員が困惑するのだった。
麻衣子がみんなに言った。
「なにこれ??」
冬湖が麻衣子に言った。
「この停車している車はなんなのでしょうか?」
九木礼トンネルの前には十台以上の乗用車がライトも消されずに放置されていたのだった。
最前列にはパトカーが2台止まっており、赤色灯を回しながら停車していた。
九木礼トンネルの前は乗用車のヘッドライトに照らされて異様に明るくなっていたのだった。
麻衣子は不気味さを感じながらみんなに尋ねた。
「ねえ??なんでこんなにトンネルの前に車が何台も止まってるんだろう??」
拓也も不思議そうな様子で麻衣子に言った。
「さあなあ??全部で12台の車が止まってるみたいだ。」
亜美が怖そうな声で麻衣子に言った。
「でも私達以外は誰もいませんよ。」
車がヘッドライトをつけっぱなしで放置されているが、当然この置かれている車を運転してきた人々がいるはずであった。だが人の姿は麻衣子達以外は誰一人としていなかったのだ。
麻衣子達は念のために周囲に人がいないか探したが誰も見つける事はできなかった。
麻衣子がみんなに言った。
「みんながライトをつけっぱなしで車を乗り捨てていったとはとても思えないし、きっと何かあったんだろうね。」
すると拓也がみんなを呼んだ。
「おーい、みんな来てくれ。」
すぐに拓也のもとに全員が集まった。
拓也はパトカーの中をLEDライトで照らしながら言った。
「親父のスマホがパトカーの中に置いてある。親父もここに来たって事だ。」
麻衣子が七緒に尋ねた。
「ねえ七緒??嫌な気配は感じるの??」
七緒が麻衣子に言った。
「うん、この周辺はすごく嫌な感じがする。トンネルの中とかは特に。」
柚羽がみんなに言った。
「九木礼トンネルの中で強力な霊力拡散が行われているわ。たぶんこのオバケの仕業で間違いないと思う。」
麻衣子がみんなに言った。
「でもどうしよう??ここで異変が起こっているのは確認できたけど、肝心の対策が分からないわね。」
冬湖が麻衣子に言った。
「そうですねえ。」
健太がみんなに言った。
「二実さん達もこのトンネルの中に入っていったって事ですよね。」
麻衣子が健太に言った。
「たぶんね。」
健太が麻衣子に尋ねた。
「二実さんは何をしようとしていたんですかね??」
「うーん??」
みんな考え込んでしまった。
すると柚羽が呟いた。
「もしかして。」
そしてみんなにこう言ったのだった。
「ねえ??トンネルの中に入ってみない??」
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