第37話 食器
土曜日の午後4時になろうとしていた。
麻衣子達は第二社務所のキッチンでカレーを作っていた。
第二社務所は南北に長い建物になっていた。
このキッチンは食堂と一体化しており、手前におよそ四十席ほどある食堂の客席があり、その奥がキッチンになっていた。
キッチンと食堂の間には壁などはなくキッチンと食堂の境目がカウンター仕様になっていた。
すでにキッチンには色々な調理器具が運び込まれていた。
食堂の出入口は部屋の東側の中央付近にあり廊下と繋がっていた。
麻衣子と冬湖と長孝がカレーのルーを担当していた。
麻衣子と冬湖が玉ねぎと人参とじゃがいもを刻んでいた。
冬湖が麻衣子に尋ねた。
「25人分は少し多くないですか?」
麻衣子が冬湖に言った。
「男子もいるから、これぐらいで大丈夫じゃないかな?余ったら明日の朝に食べればいいし。」
冬湖が麻衣子に言った。
「分かりました。」
すると隣で豚肉を切っていた長孝が麻衣子に言った。
「堀川先輩、豚肉切り終わりました。」
麻衣子が長孝に言った。
「ありがとう、長孝君。」
冬湖が長孝に言った。
「ありがとうございます、羽部君。」
麻衣子が冬湖に言った。
「それじゃあ全部刻んだから、そろそろ炒めよっか?」
冬湖が麻衣子に言った。
「はい。麻衣子さん。」
麻衣子が亜美に尋ねた。
「コールスローサラダの方はどう?」
亜美が麻衣子に言った。
「キャベツとキュウリを切り終わった所です。」
コールスローサラダは亜美と由香と美咲が担当していた。
亜美が由香に言った。
「凄かったです!由香さんの包丁裁き!」
由香が照れながら亜美に言った。
「い、いえ、そんな事ないです。」
三緒がみんなに言った。
「みんな料理上手だね。これじゃあ手伝う事何も無さそう。」
冬湖が三緒に言った。
「ありがとうございます。」
麻衣子が三緒に言った。
「いつも家で手伝ってますから。」
麻衣子が三緒に言った。
「炊飯器の方はどう?」
炊飯器は晃太と長孝と優斗が担当していた。
晃太が麻衣子に言った。
「セッティングを終えて、炊飯のスイッチを入れた所だ。」
麻衣子が晃太に言った。
「ありがとう晃太君。」
晃太達は炊飯器のスイッチを入れた。
一方コールスローサラダを担当していた美咲がお酢とマヨネーズを加えようとしていた。
美咲が亜美に言った。
「それじゃあ入れちゃうわね?」
亜美が美咲に言った。
「美咲さん、まだ駄目ですよ?まだ塩をふってません?」
美咲が亜美に聞き返した。
「えっ?塩?」
麻衣子が美咲に言った。
「ちょっと美咲?ちゃんと塩をふってよ!先に塩を振って野菜の水分を出しとかないと、サラダが水っぽくなっちゃうでしょ?お酢とマヨネーズは塩で野菜の水分を抜いてから入れるのよ?」
美咲が麻衣子に言った。
「えっ?そうなの?」
麻衣子が美咲に言った。
「そうよ。美咲って以外と料理が苦手よね?スイーツとか自分で作らないの?」
美咲が麻衣子に言った。
「私は食べる専門よ!自分でスイーツを作った事は一度もないわ。」
麻衣子が美咲に言った。
「あっそう。」
すると三緒が大きい声で言った。
「ちょっと七緒?そんな所で寝てないで、みんなの手伝いをしなさい!!」
七緒は食堂のキッチンのカウンターに近いテーブルにうつ伏せになって気持ち良さそうに眠っていた。
七緒はいっこうに起きてくる気配が無かった。
七緒が呆れた様子で言った。
「もう、七緒ったら!!」
すると晃太が麻衣子に言った。
「麻衣子?俺達は手が空いたから、食器の準備をしてもいいか?」
麻衣子が晃太に言った。
「うん、晃太君お願い。」
晃太達は食器の準備をするためにキッチンの中にある食器棚を開けた。
だが晃太と優斗はその場に立ち尽くしてしまった。
そして晃太が三緒に言った。
「すいません三緒さん?棚の中に食器がありません。」
三緒がキッチンのステンレス製の食器棚を覗き込んだ。
晃太の言う通り食器棚には何も入っていなかった。
三緒が思い出したように晃太言った。
「あっ、そうだった。二実が食器はまだ倉庫の中から出してないって言ってたわ。」
晃太が三緒に尋ねた。
「倉庫って玄関前の部屋ですか?ロビーの所にいっぱい段ボールが積まれてましたけど?」
三緒が晃太に言った。
「うん、多分あそこが倉庫だと思う。」
晃太が三緒に言った。
「なら食器を取りに行きましょう。」
三緒と晃太と優斗は食器を探すために玄関前に向かった。
第二社務所の玄関は建物の一番南側にあり、玄関口の奥にカウンターが設けられており、さらにその奥に部屋が一つ設けられていた。
カウンターの奥にも段ボールがいくつも積まれていた。
三緒と優斗と晃太は手分けして荷物の中を探していった。
するとすぐに食器が見つける事が出来た。
優斗が大きな声で言った。
「ここにあるよ!」
優斗が三緒に言った。
「とりあえず人数分だけ持って行きましょうか?」
三緒達は分担して食器の入った段ボールを持ちあげた。
三緒が晃太と優斗に言った。
「優斗君、晃太君戻りましょうか?」
晃太と優斗は頷いた。
三人は食器の入った箱を抱えて食堂へと戻って行った。
だが食堂に戻った三人はその変な光景を見る事になった。
つい先ほどまで料理をしていた亜美と冬湖と長孝が食堂の席で眠りこけていた。
食堂に入った晃太が言った。
「あれ?なんでみんな寝てるんだ?」
三緒が言った。
「みんな疲れちゃったのかな?七緒はいつもこうだけど。」
晃太が食堂を見渡してから優斗に言った。
「麻衣子と由香がいないぞ?」
三緒が優斗に言った。
「美咲ちゃんも見当たらないわね?」
優斗が二人に言った。
「料理ができたから部屋に戻ったのかもしれないよ?」
三緒は食器の入った段ボール箱を床に置いて厨房に入っていった。
するとまだ料理はできていなかった。
カレーの材料を煮込んでいる鍋がコンロの上に置かれており、コンロの火もついていた。
カレーが作りかけの状態でコンロの火も消されずに、放置されていた。
コールスローサラダも作りかけの状態で放置されていた。
三緒が首をかしげて晃太と優斗に言った。
「いや?まだ出来てないよ?鍋の火もついてるよ?」
晃太と優斗が言った。
「えっ?」
晃太と優斗が少し驚いた様子でキッチンの中に入っていった。
そしてキッチンの中を確認した。
晃太が三緒に言った。
「本当ですね。」
優斗が晃太に言った。
「だったらすぐに戻ってくるんじゃないかな?」
晃太が優斗に言った。
「そうだな。」
三緒が優斗に言った。
「それなら麻衣子ちゃん達が戻ってくるまでカレーの鍋を見てるわ。」
優斗が三緒に言った。
「それじゃあ僕らはサラダを作りますね?」
晃太と優斗と三緒は麻衣子達が戻ってくるまで料理を見ている事にした。
だが麻衣子達はなかなか帰ってなかった。
少しの間だけ料理をするつもりがなかなか帰ってこなかったのでカレーとコールスローサラダが完成してしまった。
三緒が晃太に言った。
「麻衣子ちゃん達全然帰ってこないね?カレーができちゃった。」
優斗が三緒に言った。
「雑談で盛り上がってるのかも。」
すると三緒が晃太と優斗に言った。
「優斗君、晃太君、ちょっと部屋まで麻衣子ちゃん達を呼びに行ってくるね!」
優斗が三緒に言った。
「お願いします。」
三緒がそう言うと食堂から出ていった。
少しして三緒が慌てた様子で戻ってきた。
三緒が二人に言った。
「麻衣子ちゃん達部屋にいなかったよ?」
優斗が三緒に尋ねた。
「えっ?本当ですか?」
三緒が優斗に言った。
「うん、部屋の中には誰もいなかったよ。でも麻衣子ちゃん達の荷物はちゃんとあった。」
晃太が優斗に訝しげに言った。
「それなら麻衣子達はどこに行ったんだ?急用ができて家に帰ったって事はないよな?」
優斗が晃太に言った。
「うん、それはないと思う。それなら僕達に一言言っていくはずだし、自分の荷物をここに置いていくのは変だよね。」
三緒が晃太に尋ねた。
「ねえ晃太君?麻衣子ちゃんってしっかりしてるよね?」
晃太が三緒に言った。
「ええ、麻衣子はしっかり者です。責任感も強い。麻衣子が調理中の料理をほっぽり出してどっか行くなんて考えられません。」
優斗が三緒に言った。
「由香も同じだね。口下手でおとなしい性格だけど仕事を放り投げたりはしないと思う。」
晃太が三緒に言った。
「となると、まさか麻衣子達に何かあったのか?」
優斗が晃太に言った。
「とりあえずみんなを起こして、話を聞いてみたらどうかな。」
三緒も同意して言った。
「うん。そうだね。」
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