第3話 堀川さんの演説

 夕日にシルエットとなった砂クジラ、砂鯨の頭蓋骨を両腕で貫いた堀川伯爵、彼に抱き付くマリーペキ王女のシルエット、美しい絵画のような報道写真が、AIホヤの誤訳と供に全てのメディアのトップを飾りました。


 報道は遠く、コーコッツ星ツーコッツ星にも流されました。

 話題の乏しかったオーコッツです、堀川とマリーペキに関する報道は修まる事を知りません。



 堀川さんは、あの翌日朝一番の号外を、ぼ~~っと眺めて居ます。

 この写真修正がかかってる? 綺麗過ぎるよ、砂鯨にぶら下がってるのでペキより長身に見える、砂鯨の巨大さを強調する為、情けない私の下半身が写って無い、だから綺麗なのか? それに何だ? この大見出し「ペキを脅かす不届き者!! 成敗!!!」って? そんな格好いい事あの時言ったっけ?



 話題の主堀川さんですが、今途方に暮れています。

 ペキが手配してくれた、郊外にある邸宅に完全引きこもり状態で頭を抱えています。



 終る事を知らない堀川報道、沸き立つ国民に応える為、貴族院議会満場一致で異世界から来たクジラ殺しの英雄、堀川伯爵を侯爵に推薦、国王が承認し晴れて堀川さんは侯爵になります。


 が、侯爵昇爵式に置いて、関節話法による3分スピーチが義務付けられて居ます。

 明日に差し迫った昇爵式、何度試しても鳴らない関節、またため息が出ます。



 窓の外を眺めると、無言のカカシの様な人々が辺りを埋め尽くし一斉にこちらを見ています。

 無害そうですが少し恐怖を感じます。



 突然人の波が割れ、何事かと見るとペキが優雅にやって来ました。

「堀川様、凄い人気ですね!!」

「ペキ、明日翻訳機使っちゃ駄目なの?」

「公式スピーチ、それも侯爵のスピーチです、関節話法で、わずか一言でも良いのです」


「じゃ~~ん! そこでこのお薬です!!」

 ペキが持って来てくれた薬は、身体を脱力させ柔らかく関節を鳴らすって優れ物。

 スピーチ原案は出来上がって居ます。


 内容は

「異世界地球からやって来た、堀川 迅です、平和を愛する国王様並びに緒国民の皆様方の、御期待にそえるような侯爵になる事を誓います」


「この内容で良いわ、そろそろ薬の効果が出るころ、この内容で練習して見て」

 薬は服用して30分位で効果が現れ、効果は1時間ほど続くそうです。



 順調にポキポキペキペキ関節が鳴る。

 3度スピーチを繰り返し、完璧な出来です。

「堀川様! 素敵です!!」


 関節話法の難しい所、一ヶ所鳴らせないだけで、全く違う言葉になってしまう、バカとか愚か者等、誹謗の言葉は簡単に鳴らせる、例えば左手首を鳴らすとバカと言う意味になる、因みに右手首は言葉の強調、右足首はもっと強く強調です、しかし左足首は死んじまえになります。


 大丈夫だよな? スピーチ本番で間違う事の無いよう、注意しよう。



 宮殿の大広間、下級貴族大貴族、報道関係者の見守る中、オーコッツ国王が重々しく、勿論関節話法で。

「堀川 迅、汝に侯爵位を授ける」

 見る事も関節話法には大切、膝をついても頭は下げません。

「慎んでお受けします」

 薬の効果で、スラスラと言うかポキポキ話せます。



 国王に代り、壇上では貴族院議会、議長が私について説明を行って居ます。

 報道関係者、下級貴族の為に、音声話法での紹介です。



 護衛達との大立回り、その直後の王女に対する熱烈プロポーズ、マリーペキ王女の了承、無断でのやり取りに対し、国王の怒り。


(一寸待って!! ペキにプロポーズなんていつした? して無いぞ!!)

(あのファーストコンタクトの時、関節が鳴らず……あれ? 背骨が2度なった? ……やってた!!! プロポーズになってた!!!)


「砂クジラを素手で討伐した、英雄堀川に対し、国王様は二人の婚約を認められ……」

(許すんかい!!! 長い!! 薬の効果が切れそう)

「それでは、堀川侯爵閣下のスピーチをお願いします」



 課長職、朝礼での訓辞、関連会社に招待され、品質管理品質保証について抗議など、スピーチはなれて居ます、緊張する事も無く壇上に立ちました。

 ポキボキッペキポキ、グキクキポキポキペキ。

「異世界、地球からやって来た、堀川 迅です」

 よっし!! 順調!!


 ギクペキポキ……ヤバイ!!

 訂正の手振り、ぎゃー強調の右手首が勝手になったよ

「国王はロリコンだ!!」になってしまった……。



 怒りからか、静かな開場に、地獄の底を吹くかの如く「ヒョーーッフゴーッ」と国王様からの声が響きました。

(私は処刑されるかも……)



 ポキボキ、ポキボキ……又々重要な所で無音ベキギクポキボキ……。


(重要な所の無音、結局何て話に成ってる? 鳴らない関節を使わず、違う言い回しにした為に訳が分からん事になってしまった、「良い侯爵になる事を誓う」強制終了で誤魔化そう)


 飛び上がり両股関節をならし……げっ!! 右が無音おまけに両足首捻挫、グキュ!!!

(終わった……異世界転移……わずか5日で処刑なんて……最悪)

 激痛で意識が飛んで、そのまま壇上で気絶してしまいました。







「知らない天井だ!!」

(むふっ! 憧れの名台詞が言えたぁ!!)

(病院だよね? 監獄じゃ無いよね?)


 病室で目が覚めたようです。

 牢獄で無いことに、安堵する私。

「堀川様!! 気が付かれました!!!」

 珍しく大声でペキが医者を呼んで居ます。


 ここはオーコッツ中央病院、診断は全治1ヶ月、全身関節の炎症並びに両足首の捻挫と診断され、入院生活を強いられる事になりました。


 夕方の報道が始まりました。

 ペキがベッドの側に腰掛けています。

「堀川様!! 始まりますよ!!」


「見たく無い……」

「なぜ? 凄いスピーチで大反響なのに」

「へっ?」

 ニュースキャスターの声が聞こえて来ます。



 今噂のクジラ殺し、英雄堀川侯爵閣下の、昇爵スピーチの様子をお知らせします。

 壇上に立たれた、堀川侯爵閣下は堂々とスピーチされました。



「異世界地球からやって来た堀川 迅です」と、柔らかくスピーチがはじまり、途中から強調するかの如く、強い口調に変わりました。

(薬の効果が切れて、無茶苦茶言ったよな)

 しかし巧みなユーモアも適時交えられ、あの国王様が、思わず笑い声を漏らされる場面も有りました。


(あの不気味な威圧音が、笑い声?)

 最後に力強く「私は、オーコッツ全土の平和の為に、命を捧げます」と絶叫するかの如く、力強く宣言されました。

(あんな内容になる?? 最後は私もロリコンだ!!! って絶叫になったはず……)




「なお堀川侯爵閣下のスピーチ全文は、明日の朝刊をお楽しみ下さい」

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