第2話 オーコッツの砂鯨

小型のタイヤの無い車に、ペキと乗り込むと、フワリと車体は浮かび上がります。


「オーコッツショッピングモール」


ペキが行き先を、車体に指示します。

小型車は音も無く、振動も全く無く滑るように進みます。

(何か噴射してる様子が無い、辺りにガスも見えず埃も立って無い、どんな構造の車なんだ?)



白亜の美しい、高層建築の前に停車。

「堀川様着きました、ここからは歩きです」

「綺麗な建物ですね」

「そうでしょう!!私、ここで買い物するの大好きです」

ペキは嬉しそうに、私と腕を組み歩き始めます。

「えっ?あのぅ·····」


私も嬉しいが歩き辛い、美女と腕を組むなんて、36年間一度も経験が無い、緊張して動きがギクシャクします。

並んで歩くと、私の目線はペキの喉の辺りです、10センチ位ペキの方が身長高い。



堀川は、全く気付いて居ない事ですが、ロビーでのペキとの関節話法の挨拶の時、股関節を鳴らさず背骨を鳴らしたのは、求婚の申し出、しかも小さく2度背骨を鳴らしたのは、切実に貴女を求めますと言う意味なのです。


ペキは、求婚に対する了解の意思表示をして居るのですが、女性に好意を寄せられた事が全く無い堀川さんです、何とも、かんとも、どうなる事やらです。



ペキに案内された所は、家電売場のようです。

「此をプレゼントしたかったのです」

「スマホ?ですか?」

渡された物は、スマホを少し大きくしたような物でした。

画面には、○の頭に針金の様な人体が、現れて居ます。


「スマホが何か分かりませんがAI搭載、言語障害者用翻訳機です」

「翻訳機?」

「画面を相手に向け、音声話法で話すと、関節話法に翻訳されます」

「はぁ·····」

これ必要かな?


「お父様と会話する時便利です」

「はぁ·····」

ペキのお父様って、国王様だよね、話したく無い。

「堀川様の所有者登録を始めます」

「画面の頭の部分を、親指と人指し指で挟むようにして、堀川様のフルネームを言って下さい、その後AIに名前をつければ終了です」


「え~と、挟んで、堀川 迅」

「御主人、堀川 迅様登録しました、AIに命名願います」

·····ホンヤクキだよね·····

「ホヤと命名!」

「私はホヤ、良い名前を有り難う御座います、懸命にお仕え致します」



「堀川様、機能するか試されては?」

面白そうなので、画面を見ながら声を掛けて見ます。

「初めまして、私は堀川 迅です」

画面の針金細工の人体、鳴らしている関節の部位に矢印標示され、パキパキ、ポキポキ鳴って居ます。

読むと「初めてお目にかかる、姓は堀川、名は迅と申す」と翻訳された。


(日本語をオーコッツ風に微妙に替えて翻訳してる、凄いな!!)

現在堀川さんは、日本語で無くオーコッツ語を話して居ます、ホヤのちょっと違う微妙な翻訳に、気付いて居ません。

「ペキ、良くできた翻訳機だね!!有り難う」

「堀川様の、お役にたてて嬉しいわ」




小型車に乗り、かなりの距離を進んでいます。

「良い感じに間に合ったわ!!」

着いた所は、街外れ、見渡す限り一面の砂漠でした。

「ここからの夕日はとっても素敵で、堀川様と是非一緒に見たかったの!!!」

惑星オーコッツの巨大さが解る、丸い地平線の無い何処までも続いて見える砂漠でした。



「砂漠の砂は、全てオーハルコン鉱石なのよ!!」

「只の砂に見えるけど、オーハルコン鉱石って何?」

「オーハルコンは精製すると、透明で頑丈な結晶板が出来るし、熱した白銅の触媒に触れさせると、熱や光、移動エナジー転移エナジー等にエネルギー返還させる事ができる大切な資源なの」


「移動エナジー?」

「普通、蹴飛ばしと呼ばれてる、この移動車が進むのも、置いた蹴飛ばしエナジーに車体が蹴飛ばされ、浮かんで進む」

「ん?ぬぅ?蹴飛ばしエネルギー?」



「見て!!夕日が砂漠に沈むわ!!!」

「夕日は綺麗だけど·····あれは何?」

「えっ?あれって?」

「そこに居る、巨大な奴」

「·····キャーーッ!!!砂クジラ·····」

悲鳴をあげ、ペキは気絶したようです。

「砂鯨って?ペキ!!こっちに来る!!!ペキ!シッカリして!!!」


「ゴォォォォォォォォォォォォォオン」

砂鯨は辺りが揺れる様な、恐ろしい吼え声を響かせます。



知らず落としてしまった、翻訳機AIホヤが緊急起動します。

「砂クジラの吼え声、御主人様の声、推察!!御主人様の遺言の可能性大、一言一句逃す事無く翻訳記録すべし」



体長20メートル以上ある、巨大な砂鯨に襲い掛かられ、パニック状態の堀川さん、子供の頃の方言丸出しの日本語で、絶叫してます。

パニクリながらも無意識に、ペキから少しでも砂鯨を離す為、ジリジリと誘導する堀川さんです。


「ペキィ!!、こりゃぁオエン、コッチャクナァ!!キョウテェ!!!ヒェ~~ッ」

(ペキィ!!、これは駄目だ、此方に来るな!!恐いよ!!!ヒェ~~ッ)


ヒェ~~と悲鳴をあげながら、伸ばした両手は砂鯨の頭蓋骨を突き抜けました。

両手を脳に突き入れられた砂鯨、ヒクヒク痙攣し動かなくなりました。



AIホヤ「翻訳記録終了、スリープモードに入ります」

優秀なAIホヤは少し後悔しました。

(翻訳不能な言語、御主人様の最後の言葉を、正確に残す事が出来なかった·····ま、良いか、可能な限り格好良く翻訳した、御主人様の名誉は守れたはず·····だよね)




気絶から覚醒したペキが見た物は、巨大な砂クジラを素手で討伐した、凛々しい堀川様の夕日に映える姿でした。

しばし、姿に見惚れていたペキは、落ちた翻訳機に気付きました。


手に取って再生してみます。


「ペキを脅かす不届き者!!成敗!!!トゥッ!!」

(翻訳不能な言語の為、誤訳の可能性あり)

と、小さく書かれた捕捉説明には、感動したペキは気付いて居ません。



「·····堀川様ぁ!!!」

凛々しい姿の堀川

(実態は恐怖に意識が飛び、無意識に両手を前に出した姿、突き刺さった両腕が抜けない為、砂鯨にぶら下がっている)

に、抱き付きました。



巨大惑星オーコッツ、未だに夕日は沈みません。

駆け付けた衛兵、報道記者達が感動した情景。



夕日に映える巨大砂クジラに、両腕を深く突き入れた堀川伯爵、彼に抱き付くマリーペキ王女の情景写真は、大々的に翌日報道される事になりました、勿論AIホヤの誤訳と供に。


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