第3話 戦鬼と走鬼

「イッダイ!!イダダダダァ!!!グッハッァ!」

 いつまでも続くあまりの激痛に、人の呻き声とも思えない奇声が口から漏れる。



 地獄の責め苦がふっと消えた。

「あれっ?手が有る?」

 食べられたはずの脚を見た。

「脚も有る?」

 私の手足を喰らった餓鬼が2匹苦しそうに転げ回ってる。

「美少女の手足食らって置いて、毒でも食べた様な反応するな!傷付くだろう」

 呟いた言葉は異常だ。頭が痺れ正常な思考と言うより考えたく無いムーンだった。


 異音のする方を見た、私の腕を喰った餓鬼の両腕がメキメキ音を立てて盛り上がって行く。

 私の脚を喰らった餓鬼の両足がメキメキ音を立てて盛り上がってる。

 最後に2匹の餓鬼の顔が少年の顔に変わり、暴れて居た2匹は気絶したのか動かなくなった。


「さて…どうしたものか…今の内に逃げるのが正しいだろうが…私を喰った2匹がどうなったのか見届けないと」

 現実感の無い夢見心地、正常な思考を手離しその場に腰を下ろしボンヤリ眺めてた。

 異常な事が続き、疲れ果てたムーンは僅の間微睡まどろんだようだった。


 長かった夜が終わり、満月が西の天空に残って居るが朝日が昇って来た。

「有明の月だな」

 朝日と共に少しずつ記憶が戻って、正常な思考が出来る様になった。

「私は鬼の里って名の村に住むムーン、山菜取りで雨に降られ走って村に帰る途中足を滑らせ崖下に転落……脚の骨折が勝手に治り、餓鬼に手足を食べられ、食べられた手足が勝手に生えた…?」

 記憶が戻って思考するも、混乱が余計に酷くなるムーンだった。

「考えても分からん事は後回しだな、それより腹が減った!」



 空腹を感じたムーンは、食べ物を求め辺りを見渡した。

「あのつるは…」蔓を辿って見上げた。

「アケビがなってる!」蔓を引っ張っぱるとズルズル落ちて来た。

「よし5個採れた!」

 弾けて旨そうなアケビをむさぼった。

「昨日の朝食軽く食べてから飲まず食わず、甘さが身に染みる!!弾けたのは甘くて美味しい…しまった!弾けて無い2個を先に食うべきだった」


「「主様あるじさま僕達にも食わせて」」

「ん?主とは私の事か」

「僕は戦鬼!主様が誕生させて下さいました」

「僕は走鬼!主様が誕生させて下さいました」

 腕がぶっといのが戦鬼で脚がぶっといのが走鬼か、私が誕生させた?

(私を喰って、勝手に変貌したのに、私が誕生させた事になるの?)

 角はあるけど、二人共結構可愛い顔をしてる。

「戦鬼と走鬼は私の子分になったって事?」

「「はい主様!子分です!!」」


(子分が出来たって喜んで居られない、こいつら養ってやる余裕は無いぞ)

「お前達、あそこに見える鹿を狩れるか?」

「「お任せ下さい!!」」

 走鬼が戦鬼を背負い、目に止まらない走りで鹿に迫り、逃げようとした所に戦鬼が鹿の首を絞め絞め殺した。

「おーい!直ぐに血抜き処置しないと、獣臭い肉になるよ!」

 戦鬼は首を掻き切り、鹿の血を抜いてる。

 あの二人役に立つ…けど角がある、私も角有だった、村には帰れないかも……一応里長さとおさにお伺いして見るか?


 ……角は隠して会わないと、いきなり攻撃されちゃかなわん。

 草で帽子を編むか……簡単でボロいけど大丈夫。

 戦鬼と走鬼ボロボロの服は…今はどうしようも無い、帽子を被らせ3人で下山した。

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