第6話 困ったこと

 私は、公爵家のロクス・ヴァンデイン様と対面していた。

 なんでも、私に話があるらしいのだ。


「ロクス様、一体今日はどのようなご用件なのですか?」

「ええ、実は困ったことが起こっているのです」


 私の質問に、ロクス様はそのように言ってきた。

 どうやら、何か困ったことが起きているようだ。

 私の元に来たということは、それは私に関わることなのだろう。

 もしかして、私が公爵家の人間だと認めないなど言う人がいたのだろうか。貴族というのは、プライドが高い人達も多い。そういう人達が、私のことを認めないと思っていたりする可能性は充分ある。


「一体、どのようなことが起こったのですか?」

「あなたの元婚約者であるドルバル・オルデニアに関することです」

「ドルバル様?」


 しかし、私の予想は外れていた。

 困ったことは、ドルバル・オルデニア様に関することであるらしい。

 ドルバル様とは、既に婚約破棄したため、特に関係はないはずである。それなのに、何故ドルバル様に関わる困ったことが起こるのだろう。


「実は、ドルバル様があなたとの婚約を破棄していないと言い出したのです」

「え? どういうことですか?」

「言葉の通りの意味です。ドルバル様は、あなたとの婚約は続いていると主張してきたのです」


 ロクス様の言葉は、驚くべきものだった。

 ドルバル様は、私との婚約を破棄していないと主張しているらしいのだ。

 だが、それはあり得ないことである。私は、確かに婚約破棄したいと言われて、それを受け入れた。それは、確かなことなのだ。

 しかも、それだけではない。この婚約破棄は、私が経由することなく、国王様などに伝えられていた。つまり、ドルバル様から既に王城に伝えられているのだ。それなのに、今更覆すのは無理なはずだろう。


「そんなはずはありません。私は、確かに婚約破棄しました。ドルバル様から、王城にも伝えられていますよ?」

「ええ、そうですね。ですが、ドルバル様はそれすらも間違いだと主張しているのです」

「なっ……」


 どうやら、ドルバル様はかなりおかしな主張をしているようだ。

 私に伝えたのも間違い、王城に伝えたのも間違い。そんな主張が通る訳がないだろう。


「ど、どうして、そんな主張を……」

「あなたが、公爵家の人間だったからです」

「あっ……」


 ロクス様の言葉で、私は気づいた。

 ドルバル様は、私が公爵家の人間だとわかったから、婚約を破棄してはいけないと判断したのだ。

 なんとも、許せないことである。自分から言い出して、それを今更引っ込めようなど、勝手すぎるだろう。

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