第四ヒント

 一週間後、第四ヒントの投稿日になった。


 そういえば俺はこの一週間で関東近郊連続失踪者事件について軽く調べるなどしていた。俺の就職先が関東近郊だからだ。何か危ないことが起きているなら都会になんて行かない方がいい、と両親に控えめに釘を刺されたのだった。


 両親は、俺が県外に行くことをあまり好ましく思っていない。しかし俺はこんな田舎で一生を終えたくはない。できることなら都会で働きたいし、都会で遊びたい。


 関東近郊連続失踪者事件の『連続性』とは、被害者の行動歴にあった。

 まず、被害者は必ずしも関東近郊の住人ではなかった。なのに失踪したのは関東近郊。家族や同居人もなぜ被害者がそこにいたのかわからないらしい。


 次に、被害者は必ず秋葉原で目撃されている。かといって被害者全員がオタクかというとそうでもない。目的も意味も不明だ。


 さらに重要なことに、被害者には同じような背格好の同伴者がいたらしい。なんらかの口実で被害者を呼び出し、誘拐している人物がいるということだ。しかし被害者たちに共通の知り合いはおらず、捜査は難航しているのだとか。


「お、更新きてる」


 俺はニュースについて調べる手を止め、ブログの第四ヒントを読むことにした。


『第四のヒントだ。そろそろ正解者が出てもおかしくないと思うが、現状、いない。そのため、このヒントでは少々趣味の核心に迫ろうと思う。』


 俺は内心でガッツポーズをしていた。

 キャンプでもジム通いでもない、ご飯が美味しくて、頻繁には行えず、しかし達成感のある趣味。俺は脳内に浮かんでくる選択肢を吟味しながらブログ内小説を読んだ。


『この趣味は、小説として記録しておいてなんだが、大っぴらに人に言える趣味ではない。』


「……ん?」


 大っぴらに人に言える趣味ではない?

 俺は脳内に浮かんでいた選択肢のほとんどを捨てた。


 ブログ主の趣味とはいわゆる『アンダーグラウンド』系ではないかと俺は踏んだ。たとえば、先の話題の秋葉原ではないが地下アイドルの応援なんかそうではないだろうか? アイドルのライブがどの程度の頻度で行われているのか俺にはわからないが、週に何回もやるものではないはずだ。それに、ライブ応援の場合はブログ主ではなく応援しているアイドルの都合による。


 いや待て、方向性を変えて『危ないクスリ』などはどうだろうか? こんな趣味、たしかに人には言えないし、そもそも法律に触れている。それでも発表したいのが人間の承認欲求だ。俺はクスリには手を出したことはないが(もちろん当たり前だが)ハイな気分になるしご飯も美味しい? のかもしれない。


 俺は、どちらを回答すべきか迷ったあと、後者にしてみた。ブログ主に対して失礼極まりない回答と言えたが、どうせ相手からの返信はないのだ。礼を欠いても抵抗感はなかった。

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