第五ヒント

 第五ヒントはもちろん前回から一週間後に更新されていた。


『正解者はまだいない。しかし、近しい回答者がいなかったわけではない。だが、違った。諸君の中から正解者が出なかった場合、近しい回答者の元に炊飯器は向かうかもしれない。今回のヒントをよく読んでみて欲しい。』


「なんだよ、近しい回答者って! クソッ! 俺か!? 違うか!?」


 部屋で一人叫んでいると、同居中の親がドアをノックしてきた。

 俺は部屋のドアを開けて適当に会話しながら、頭の中では第五ヒントについて考えていた。早く読みたい。炊飯器で炊いた米が恋しい。


 親の言葉によると、そろそろ引っ越し先の内見に行ったほうがいいだろうとのことだった。


「もうそんな時期だっけ?」


 俺の言葉に、親は「しっかりしろ、これから一人暮らしなんだろう」「なんなら、地元に留まってもいいんだぞ」と言い始め、説教の気配を感じた俺は内見の準備をするからとドアを閉めた。


 もちろん、準備など二の次だ。まずは第五ヒントを読まなければならない。



『私の趣味は、達成感があり、ご飯が美味しく、しかし手軽には行えず、人に言える趣味ではない。そしてこの趣味活動は、×××に住んでいるからこそ行える趣味でもある。』


「……?」


 ブログ内の小説は『×××(地名のようだ)』を舞台とした猫視点の街並み紹介小説だった。


 俺は即座に『×××』について調べて、ひゅ、と息を呑んだ。


 それは関東近郊の、交通アクセスが整った実在する地域の名前だった。


 俺の中で、今までブログ主の出したヒントがぐるぐると回る。

 終えるとご飯が美味しい。頻繁には行えない。達成感があるが、しかし人には言えない。関東近郊に住んでいるからできる趣味。


 俺の頭の中では『関東近郊連続失踪者事件』と、それら、ブログ主の趣味とが繋がって浮かび上がっていた。


 震える指で秘匿コメントを送った。

『関東近郊連続失踪者事件の犯人はあなたですか?』


 しばらくして、ありえないはずの返信があった。

『その通り、正解だ』

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