第8話   行きつく所

アイからの情報だと、二人はウグナシア星系に向かっているらしいとの返事が返ってきたので、老師に伝えると

「ウグナシア星系か・・・・これは、心中する気だな、うむ、困ったものじゃのう。」

「ええ、心中て、ウグナシア星系には、何があるんですか?」

「巨大ブラックホールじゃよ。そこにみを投げるつもりの様じゃ。まあ、銀河の中心で大爆発されるよりましかもしれないがのう。」

「そこまで、思い詰めちゃったのは、どうしてですか?」

「ふむ。」と言って老師は、映像を見せた。

「もともと、ボゾン生命体と言うのは、マスター波動と言うものを持っていての。」と言いながら示した映像には、綺麗な波形が示されていた。

「彼らの、波形がこれじゃよ。波形にノイズが有るじゃろう。」と示したものには、無数の棘のようなスパイクノイズが乗っていた。

「このノイズのせいで、本来、マスター波動を元に生成されるボゾン粒子にエラーが出てな、体の一部が崩壊しかかっているのじゃよ。」

「このノイズを除去できないんですか?」

「うんむ、色々試したんじゃがのう。今の所効果的な治療法が無いのう。」二人の暫くの沈黙の後

「その二人がブラックホールに身投げしたらどうなっちゃいますか?」

「ウム、これも前代未聞の事じゃが、ピコ(医療AI)を通して、統合次元体のAIに影響を推測してもらっておるがの。最悪、ウグナシア星系に巨大な穴が開くじゃろうて。その穴がどんな影響を及ぼすかまだわからんのう。」

ぼくは、老師から二人のカルテデータを貰い、これまでの治療の経緯を見ていた。

「このデジタル治療とは、どう言うモノですか?」

「まあ、ノイズ除去の一つでの、波形を一度デジタル情報に変換して、メイン波形とノイズを分離するものじゃが、波形の情報量が巨大すぎて、今ある量子結晶では処理出来なかっタンじゃ。」

「何かの治療の手段が見つかれば、心中を考え直してもらえますかね?」

「そうじゃなのう。何か当てがあるのかな。」

「ええ、試してみないと分かりませんが、要はノイズ除去ですよね。老師の治療は、一種のデジタルフィルターでノイズを除去するやり方だと思いますが、それはある意味ハイテクなやり方なので、僕のやり方は逆にローテクなやり方です。」と言って、基本的な電子回路の映像を出してから

「起源惑星の大昔の技術ですが、惑星中を電波で覆い、その電波に必要な情報を載せて伝えていた時代がありました。その情報を得るためには、受信機が必要で一種のローパスフィルタ、つまり高周波の電波から音声信号を取り出すやりかたですが、それに使っていたのがダイオードと言うある種の鉱石なんですが、電波がこの鉱石を通ると高周波成分を除去できるんです。つまり、高周波に対しては、無限大の抵抗となるためですが、特にスパイクノイズの様なものにはかなり有効でした。」

「ふむ。じゃが、その大昔のダイオードとやらは手に入るのかな。ある意味古代技術の様にも思えるのじゃが。」

「はい、ダイオードは無いですね、作ろうと思えば作れますが、要はそれと同じ性質をもつ物を使えばいいかと、ダイオードは本質的には鉱石ですので、ここにはドロドロに溶けた鉱石が沢山ありますし、電気情報を通しそうな川もありますので。」

「ふむ、火山と温泉の川を使うというのじゃな。なるほど、面白そうじゃな。早速ためしてみようではないか。」

ぼくらは、ピコに頼んで、川の成分と電気特性、火山の溶岩の鉱物特性を調査してもらった。老師の治療法では、電力換算で1.2ギガワット(これは、小型原子炉並みの出力)ほどのエネルギーが流れるとの事だったので、ピコにシュミレーションをしてもらい、この谷にどれ程ダメージがでるか確認したが、ほとんど問題の無い範囲だったが、川の周りの患者には念のため一時退去してもらう事にした。

「さて、駆け落ちカップルを連れ戻しにいかねばならないのう。」と老師が言ったので

「今、アイが説得中です。」と僕が答えると、

「ほうー、なかなか手回しが良いのう。」と老師が嬉しそうに答えた。

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