誰育ち?

 我が家の子供のほとんどは、『紅茶』を『紅茶』、『本』を『本』と言う。


 誰に教わったんだろう?


 私でないのは明らかだ。こんな丁寧に話すことはない。


 我が家で丁寧語を話しているのは、光命と月命。ということは、二人のどちらかなのだろうか?


 聞いてきてみよう!

 よし、今から瞬間移動だ。光命は留守だから、せめて月命に聞こう。


 相手がいる場所を目指して、瞬間移動は飛ぶから、思いもよらない場所へとやってくることが多い。


 私は肉体をパソコンの前に置きながら、魂は廊下の端のホールへとやってきていた。ということは、月命は自室にいるということだ。子供たちは昼寝の時間で、手が空いている時分。縁側ではなく、部屋にいる。珍しい。


 ドアをノックすると、返事がすぐに返ってきた。ドアを開けずに中へ瞬間移動する。


 夜に訪れたことはあったが、昼間は初めてくる。庭の緑が半円を描く部屋の薄暗さに映える。幻想的な空間。デッキチェアに寝そべって、絵本を読んでいたようだ。月命は顔を上げた。


「どうかしたんですか?」

「あの、子供たちの言葉遣いについて、誰が教えてるのかと思いまして」

「僕です。教師ですからね」

「やったー! 一発でたどり着いた」


 私は飛び上がらんばかりに喜んだ。対照的に落ち着き払っている、月命はあきれた顔をする。


「君はおかしな人ですね」

「いや〜、丁寧だから誰が教えてるのかと思ってたんです」

「言葉遣いは大切ですからね。僕が責任を持って教えているんです」

「ありがとうございます」


 なんの脈略もないが、彼のカーキ色の長い髪が綺麗で、思わず手を伸ばし触ると、程よくしっとりとしているのに、さらさらと手の中から落ちた。魅惑の肌触り。


 2021年7月11日、日曜日

 

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