第15話 文章の読み方で変わる零戦論

 令和3年7月後半、産経新聞で日本の改革提唱で、“零戦は無理をして高性能を実現したが、それ故に発展性がなかった。”として、それが現在の日本の体質で、それを改めなければならないという趣旨の主張が掲載されました。

 これは異なった意味での「零戦神話」としてかなり一般に浸透しています。

 これは、太平洋戦争後半での零戦の凋落ともう一つ、開発当時の「格闘性能か速度・上昇・航続性能の要求のうち、どちらを優先すべきか?」

と三菱側の打診に、海軍側は両派が対立して譲らず、三菱側は、

「両方実現出来るよう努力する」

と言わざるを得ませんでしたというエビソードです。。

 ただ、これには前提があります。のちに零戦のエンジンとなり、この時点で期待されていた栄が耐久テストで失格となり、実用化に不安が深まっていました。そのため、既に実用化し、実績のある瑞星を採用した場合、できる限り努力はするが、要求性能を全て実現出来るかどうか分からないので優先順位をつけて欲しいというものでした。言い方を変えると、栄が実用化されれば問題なく、要求性能をクリア出来るという自信を示しているわけです。

 海軍当局も、「もっと速度が欲しい。翼をかなり小さくすれば、550㎞/時以上が見込まれるが、離着陸速度が速くなり、未熟なパイロットでは扱えない不安があるので、500㎞/時を要求」旨で格闘性能については、それ程言及されてません。

 この点、米軍が良好な離着陸性能とし、陸軍との比較で、2式単戦鍾馗より離着陸性能が良好と評価された雷電が、「殺人機」と嫌われた事実を見ると、理解出来ます。

 また、栄31型を搭載した隼3型は、 

「改良型のレベルではない、新型機だ。」

「軽戦にも重戦にも使える。」

と絶讃されました(初期は、初期不調で「こんなものどうして採用したのか分からない。」と評価されたとも)。

 零戦53型も、開発段階で実は好調で期待されたものの、配備されていた機体の不調対策で人員が取られ開発が中断されてしまったと云うのが実態だったと分かってきました。

 零戦54型、金星62型を装備した、はテストパイロットから絶讃されたといいます(その内容の全てが紹介されているのを見たことがありませんが)。

 もし、零戦53型、零戦54型が実用化、実戦に参加していれば、零戦は発展性がなかったりと云えたでしょうか。

 そうならなかったのは、防弾にしろ海軍当局は理解していたものの三菱側の作業が遅れて重ったるいとおり進まなかったことと、雷電、紫電、烈風と比較して、性能がぱっとしない、新型機の開発が上手く行けば無駄になる、効率的な生産計画を考えると…取りやめてしまった、53、64型を一時取りやめてしまったことが原因でした。しかし、結果は海軍の期待とはかけ離れたことになったわけです。

 ところで、64型は結局特攻機として開発されたと云う主張があります。確かに、海軍当局の要求ではそうなっていますが、当時は「特攻兵器」としないと認められない雰囲気があったので、特攻兵器ではないものも、特攻兵器と云うことにして開発を認めともらったという関係者の証言もあるので、その事を考慮して読むべきだっ思います。

 高速潜水艦ハー201型も特攻兵器という名目になっています。

 そのため、今日でも戦史関係本の中に、ハー201やなんと地対空ミサイルの奮竜も特攻兵器としているものもありますから。

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