02
彼の心に死が取り憑いたのは、いつ頃からだろうか。
料理を作りながら、彼のことを考える。
彼は、完璧には程遠い人間だった。周りは、彼を素晴らしい人間だと言うし、彼を射止めた自分を幸運だったと口々に評価する。普通の人間に対して、著しく美形でなんでもできる彼。理想のような組み合わせ。
でも、現実は違うというか、もっとシビア。
わたしは、普通であることが取り柄で。何をやっても普通。特殊なものが何もない。そして彼は、その普通に惹かれている。
彼は、周りがいうほど完璧ではないし、美形であることは彼自身の複雑な悩みのひとつだった。
普通ではないその高い知能と器量が、常に彼を苦しめる。彼でなければならないつらく切ない仕事へと、彼自身を追い立てていく。
美形だと言われ同性からも異性からも普通に接してもらえず、いつも人の温もりを欲している。でも、自分から近付く術を持たない。
わたしは普通の上に普通を塗り固めたような人間だから、彼が美形だろうと、どんな仕事だろうと、普通に接する。それだけがわたしの唯一の武器であり、彼を包むことができる唯一の温かさになる。
彼を暖めてあげたいと、いつも思う。何かに紛れて、きっと彼は今もつらく切ない仕事を続けている。自分を切り刻んでやりたいという衝動を抑えながら、彼は笑っている。
「早く帰っておいで」
身体を暖めて待ってるから。
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