3

「ただいま」


「おかえり」


「あっ。なんでごはんの準備してるんだよ。俺が作るよ」


「わたしも料理そこそこできるんだぞ?」


「そこそこだろ。俺のほうがうまい」


「その通りですね。具材買い置きしてますから、どうぞご自由にお作りください」


「この、食材を切ってるときが。いちばん落ち着く」


「自分を切り刻んでるような錯覚を、味わえるから?」


「まあ、そうだな。自分の顔なんかは切り刻んでやりたい。切り刻んで。焼いて。この世から消し去ってしまいたい」


「そっか」


「おい」


「うん?」


「食材切ってるときに抱きついてくるのはやめろ。指を切る」


「切らないでしょ。料理うまいんだから」


「それとこれとは別だろ」


「なに作るの?」


「わからん」


「わかんないんだ」


「なんかわからんけど、自分を切り刻んでやりたい。焼いてしまいたい。消してしまいたい。そう思ってると、いつも何か料理ができあがる。そして、俺はなぜか死なないで生きてる」


「そっか」


「おまえの身体、暖かいな」


「リアル湯たんぽ」


「もう少し、こうしていてくれないか?」


「言われなくても、料理できあがるまで、いや、料理できてからも。あなたが眠るまで。ずっとくっついてるわよ」


「いやそれは困るな。風呂とか」


「お身体流しますよ旦那あ」


「なんだそれ」


「旦那あ」


「おう」


「旦那。旦那になってよ」


「あ?」


「ごめん。なんでもない」


「そうか」


「うん」


「料理できたぞ」


「うん」


「仕事がある。大きなやつがな。それが終わったら、指輪でも買いに行こうか」


「やだ」


「あ?」


「死亡フラグみたいでいやだ。いやです」


「そうか。そうだな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る