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「ただいま」
「おかえり」
「あっ。なんでごはんの準備してるんだよ。俺が作るよ」
「わたしも料理そこそこできるんだぞ?」
「そこそこだろ。俺のほうがうまい」
「その通りですね。具材買い置きしてますから、どうぞご自由にお作りください」
「この、食材を切ってるときが。いちばん落ち着く」
「自分を切り刻んでるような錯覚を、味わえるから?」
「まあ、そうだな。自分の顔なんかは切り刻んでやりたい。切り刻んで。焼いて。この世から消し去ってしまいたい」
「そっか」
「おい」
「うん?」
「食材切ってるときに抱きついてくるのはやめろ。指を切る」
「切らないでしょ。料理うまいんだから」
「それとこれとは別だろ」
「なに作るの?」
「わからん」
「わかんないんだ」
「なんかわからんけど、自分を切り刻んでやりたい。焼いてしまいたい。消してしまいたい。そう思ってると、いつも何か料理ができあがる。そして、俺はなぜか死なないで生きてる」
「そっか」
「おまえの身体、暖かいな」
「リアル湯たんぽ」
「もう少し、こうしていてくれないか?」
「言われなくても、料理できあがるまで、いや、料理できてからも。あなたが眠るまで。ずっとくっついてるわよ」
「いやそれは困るな。風呂とか」
「お身体流しますよ旦那あ」
「なんだそれ」
「旦那あ」
「おう」
「旦那。旦那になってよ」
「あ?」
「ごめん。なんでもない」
「そうか」
「うん」
「料理できたぞ」
「うん」
「仕事がある。大きなやつがな。それが終わったら、指輪でも買いに行こうか」
「やだ」
「あ?」
「死亡フラグみたいでいやだ。いやです」
「そうか。そうだな」
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