終章 地図に記された場所
エルジオンに戻ったアルドは考古学マニアに連絡を取り、先日の青年を呼び出してもらう。
「急にどうしたでござるか」
「地図のことよね?まだ情報集められてないのに」
「いや、もう充分わかったよ」
「どういうこと?」
そんな会話をしながら待っていると、すぐに青年がやってきた。
「お待たせしました」
「いや、大丈夫だよ。早速だけどこの地図」
言いながらアルドは紙を机の上に広げる。
「古代アトランティカへの行き方を描いた地図だったんだ」
「ええっ!」
驚いたのは青年だけではなかった。
「あっ」
「そうでござったか!」
「理解しまシタ」
アルドの言葉に納得の表情を浮かべる三人。
「ああー。だから誰に聞いても情報がなかったのね」
「ナルホド。地図部分のこの筆圧痕はアルドさんのモノでしたカ」
「いつ気づいたでござるか」
「みんなで出来上がった地図を覗き込んだ時にもしかして…と思ったんだ。でも」
アルドは地図を裏返す。
「確信したのはこれがあったからだよ」
古ぼけた紙の裏側を照明に翳すと、真ん中あたりにきらきらとした透明の薄いものが張り付いているのが見えた。
長い時を経て尚輝きの褪せないそれは。
「鱗、のようでござるが」
「ああ、ミーナの鱗だ」
「えっ、いつのまに?」
「鬼竜を降りる時にこっそり準備したみたいで、俺にだけ教えてくれたんだ」
「あの…すみません。話がよくわからないのですが」
置いてけぼりになった青年に、アクトゥールであった出来事をかいつまんで説明する。
迷子の人魚のこと。ミナとミーナのこと。二人の別れと約束。
そして古い地図の上に紙を重ね、覚えている限りを再現して青年に渡した。もちろんメッセージも。
「そうでしたか…」
話を聴き終えた青年はすっかり感激してしまっている。
「ご先祖さまにそんなことがあったんですね。それでこの地図が我が家に伝わっていたと」
青年は地図を大事そうに受け取って、新しくアルドが書き起こした地図と見比べている。
「でも、地図と言い伝えが残っていたということは、ミナはアトランティカへは行けなかったってことみたいね…」
エイミが目を伏せた。
「…僕の名前、ルドミナというんです」
青年が地図から目をあげて、突然自分の名前を名乗った。
「我が家では、本家に生まれた子供には男女関係なく全員名前に『ミナ』のふた文字を入れる習わしがあって」
青年は遥か過去の血の繋がりに思いを馳せる。
「そういう理由だったんですね。理解しました」
「約束を果たせなかったミナが、子や孫に願いを託したでござるか」
しみじみとサイラスが言う。
「それが今のこの時代マデ、途切れズ続いていることガ素晴らしいデス」
「ああ、本当にそうだな」
「アルドさん、皆さん。本当にありがとうございます。お話を聞いて僕が必ず…いや、もし無理だったとしても、子孫にこの地図と話を伝え、技術を高めてきっとアトランティカに行ってみせます。二人の約束を果たすために」
「君ならきっと大丈夫だよ。その時は…ミーナによろしく」
「ははは。さっきから思っていたんですが、皆さん昨日今日のことみたいに話されるんですね。まるでミーナって人魚に本当に会ったことがあるみたいだ」
(君のご先祖さまにもね)
アルドは二人の笑顔を思い浮かべた。
「ああそうだ。一つだけおせっかい、いいかな」
「なんでしょう?」
(この時代のアトランティカがどうなっているのかわからないけれど)
「水陸両用だけでなく、空を飛べる機能もつけておいた方がいいと思う。とびきり高性能なやつを、ね」
約束 望月遥 @moti-haruka
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