一章 家宝の地図
「ただいまー」
「おう、帰ったか」
エルジオンの名物鍛冶屋イシャール堂。帰ってきた一人娘にザオルは普段と変わらない調子で返した。
「ちょうどよかった。昨日シータ区画の考古学マニアがお前らに会いたいって訪ねてきてたぞ」
「あのおじさんが?」
「いつ戻ってくるかわからねえって伝えといたが、いや、すごい偶然ってかちょうどいいタイミングだな」
「偶然ハ必然デス ノデ!」
リィカがなぜか得意げに髪パーツをくるくると回す。
「それで?なんの用だって言ってた?」
「なんか見てもらいたいものがあるとかなんとか言ってたな。依頼者がどうのって」
「ふぅん…?なら一応行く前に連絡しといたほうがいいかもしれないわね」
そうしてエイミが連絡を取り、数時間後考古学マニアの家を訪れる一行。
「よく来てくれたね。実は用があるのは僕ではなくこちらの彼なんだ」
考古学マニアが紹介したのは、色の白い細身の青年だった。
「こんにちは。僕はエルジオンで水陸両用ビーグルについて研究をしているものです。あなたたちが名高いブローカーさんですか」
「なんと、名高いとは」
サイラスが驚いて口をあける。
「我らはいつの間に有名になったでござるか」
「いやいや、オークションでの君たちの活躍ぶりは考古学界隈にも聞こえてきてたからね」
ひげを撫でて笑う考古学マニアはさて、と話を切り出す。
「君たちの腕を見込んで頼みがあるんだ」
そして懐から一枚の古ぼけた紙切れを取り出した。
「これの解読に協力してはもらえないだろうか」
アルド、エイミ、サイラス、リィカ。全員で額を突き合わせて紙を覗き込む。
「紙でござるな」
「隅に何か書いてあるみたいだけど…」
「ほとんど消えて読めないな。真ん中あたりには大きな絵…みたいなものが描いてあったのかな」
目を凝らす三人と、目を光らせるリィカ。
「スキャン完了。インクはホボ消えていますが、簡易的炭素年代測定の結果パルシファル王朝時代のものと推定サレマス」
「その機能で消えた文字は読めないのか?」
アルドの質問にリィカは首を振る。
「これだけ消えていてはワカリマセン。ただ、ワズカに残ったこの筆圧痕の形をドコカで見たことアルような気もシマス」
「そんなことまでわかるでござるか」
「でも」
エイミが腕を組んだ。
「逆に言えばそれしかわからないってことよね」
「そうなんだ。彼がこれを解読してほしいと私のところに持ち込んだのが今から半月ほど前。それ以降あらゆる手段で解読を試みたが全く歯が立たなくてね」
考古学マニアの視線を受け青年がこくりと頷く。
「これ…実は地図らしいんです。ただ、ご覧の通りほとんど消えてしまって残った文字も掠れて読めません。昔のものに詳しいマニアさんならなんとかなるかと思って、お願いしてみたのですか…」
「いやはや、なんともお手上げだよ。そこで思い出したのが君たちというわけなんだ」
「もう随分昔からこの状態らしくって、どこを表した地図だったのか家族にもわからないんです。ただ、家宝として我が家に代々伝わっているものなのでそれなりに歴史はあるもののはずです」
「へええ」
アルドは感心して首を捻った。
「家宝があるなんてすごいな。普通の家にはあまりないんじゃないか?」
「彼の家はエルジオンの名家でね。噂でははるか昔、人間がまだ地上で暮らしていた時代から連綿と続いている数少ない家系の一つらしいよ」
「はは、どこまで本当なのかわかりませんけれど。水の都と呼ばれる地域に住んでいたと伝わっています」
「水の都…アクトゥールでござるな」
「この地図がパルシファル王朝のものだってリィカの鑑定が出たんだから、あながち眉唾ではなさそうね」
「ワタシの簡易鑑定は80%以上の信憑性がアリマス」
得意げに胸を張るリィカに後押しされたように青年は言葉を続ける。
「ヒントになるかはわかりませんが、この地図と一緒に言い伝えめいた家訓も残されていて。『どれだけの時間がかかっても 海を往き この地図の場所へ行け』と」
「家訓に従い、我が家は工夫と発明を重ね海を歩く技術を代々試行錯誤してきたようです。長年蓄積された技術と経験は書物として残されていました」
「でも」
エイミが遮った。
「エルジオンに海はないわ」
「そうなんです」
青年は深くうなだれた。
「地上の汚染により人間が空に登ったことで、いつの頃からか先祖も諦めてしまったようで…。技術を書き記していた書物の在りかも、長い間不明になっていました」
「海がないのでは仕方ないでござるな」
サイラスはしんみりと呟いた。
「しかしですね!」
なぜか急に力をこめた青年。拳を握りしめ足を一歩踏み出し前のめりになって語り出した。
「数十年前に僕の祖父がそれを見つけ出したんですよ!先祖代々の知恵に今のエルジオンの技術を合わせれば絶対に実現可能だと祖父は言っていました!」
「いました、というコトはお祖父様はスデに」
「いえ、今も元気でピンピンしています」
「なんとご健在であられるか!」
サイラスが喉をぷくりと膨らませる。
「それは何よりでござる」
「僕も物心ついた頃から祖父と協力して開発を進めてたんです。そしていよいよ実現可能な段階まできたところで、はたと気づいたのです」
先ほどまでの威勢はどこへやら、しゅんとうなだれる青年。
「できたところでどこへ行けばいいのか。地図がこの状態では行き先がわからない…」
「なるほど」
アルドは腕を組んで深く頷いた。
「事情はわかったよ。俺たちでよかったら何かできないかちょっと考えてみる」
「本当ですか!ありがとうございます!」
感謝しきりの青年を残し考古学マニアの家を後にする。
「これからドウしまショウ?」
「とりあえずヒントを辿ってみるしかないわね」
二人の言葉を受けたアルドが腕を組んだ。
「しかしパルシファル時代といっても何十年もあるし、場所も結構広いぞ」
「先祖は水の都に住んでいたらしいから、アクトゥールに行ってみたらよいのではござらんか?」
「そうだな。サイラスの言うとおり、とりあえず行ってみるか」
アルドの言葉に全員が頷いた。
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