第6話 死神の決断
普段はのらりくらりとしているムエの必死の形相を見たグリムは驚きを隠せなかった。グリムは一人の人間の手助けをしようとするムエに問いかけていた。
「何故そこまでして手助しようとする?ある意味君の憎んでる人間と同種なのに」
そう聞かれムエは溜息を漏らした。そしてゆっくり話し始めた。
「俺はただ単に悪戯に命を奪う奴は嫌いだ。けど、必死に生きようとしてそれでも叶わなくて、一番会いたい人それも自分の愛した人やこれから愛を教えてくれる人を失うのがどれだけ辛いか。グリムにわかるか?」
問われたグリムは何と答えれば良いかわからなかった。それもそのはずグリムにとっての生前の記憶はだいぶ前に薄れていた。
「君はまだ生前の記憶がの残っているんだね?」
「ああ」
グリムの問いにムエはそう答えた。そしてムエはこう続けた。
「だからこそかもだけど、今この瞬間を彼女達に味わってもらいたい死んだら得ることの出来ない感情を。そうでないと俺は一生この先笑えないし後悔だけして生きると思う」
それを聞いたグリムは
「死神を辞めることになってもかい?」
「それでもだ!頼むグリム!」
即答だった。その答えを聞いたグリムが
「君の覚悟は分かった!やりなよ、僕も一緒に責任を取ろう!」
その言葉にムエは驚いた。
「何言ってんだよ!お前は関係ない!さっさと出って連絡すればお前は罰を受けずに済む!」
その言葉を聞いてグリムは鼻で笑った。
「君はホントに甘い奴だね。甘すぎて虫歯でも出来そうだよ」
「何それ?」
グリムの言葉にムエは困惑した。その顔を見てグリムは被りを振った
「僕の生前のジョークが通じないなんてとんだ天然だよ君は」
そう言って続けた。
「いいかい?僕らはチームだ!チームと言うのは連帯責任だ!どちらかがやった事の責任は二人で負うしかない!そもそも君を連れてこの病院に来るのに変な気を回してきちんと説明をしなかった僕にも落ち度はある!だから今回は君の意思を村長する、これが僕の決断だ!」
その言葉を聞いたムエは片頬に笑みを浮かべた。
「グリム・・・」
「ただし、今回だけだぞ!次はちゃんと僕の指示に従ってもらうからな!」
グリムは付け足した。
「わかってるよ!グリム、サンキューな」
ムエはそう言うと分娩台の女性に向けクロノスを回した。
『+5M0S』
女性や周りの医師達は周りのモニターや女性を見てまだ忙しなく動いている。
少し意識を回復した彼女を見て少しほっとした表情の看護師も中にいた。
『2M38S』
「オギャー!オギャー!」
分娩室に赤ちゃんの鳴き声が響いた。
「元気な女の子ですよ。」
医師がそう言って彼女に子供をそっと抱かせた。
「生まれたか!」
分娩室の前で祈っていた男が飛び込んできた。
「あぁ神様!感謝します!」
男は赤ちゃんと女性の手を握っていた。
『1M09S』
段々と女性の意識が遠のいていく。
「あなたこの子を大事に育てて。守ってあげて」
「何を言っているんだ!一緒に育てるんだ君と」
そう男が言うも女性は悟っているのか
「花、そうこの子には花の名前をつけて綺麗な花の名前」
「分かった。分かったからもう無理はしないでくれ」
男は涙で顔をめちゃくちゃにしながらも彼女の手を握り続けていた。
『30S』
「あなた、私のかわいい赤ちゃん愛してるわ・・・」
「あり・・(がとう)」
『0S』
彼女の最後の言葉は少し途切れていたが、しっかりと男には伝わっていた。
医師と看護師に囲まれ彼女の遺体はシーツを被され分娩室から運ばれて行った。
「終わったな」
ムエがグリムに話しかけた。
「ムエ!何故数分しか足さなかった?僕はてっきりもっと寿命を伸ばすのかと」
ムエはグリムを見てニヤリと笑った。
「そんなんグリムも責任とるって言うから何とかしないとってな。でもそれだけじゃないんだけどな」
「それだけじゃないって?」
グリムが困惑したように問いかけた。
「それは・・・」
「それは私からお答えしますよ」
ムエの言葉を誰かが遮った。
二人が振り返った先には先程まで分娩台に横たわっていた女性の魂が立っていた。
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