第22話 最期
「ば……馬鹿な! 人間風情に我が倒されるというのか?」
魔王カミラは、なぜ敗北したのか理解できないでいた。
聖女の力は理解している。
万全を期すために、コリンを操りその力を奪わせようとした。
しかし、その目論見は失敗。
だが、聖女の力が残っていたところで、さしたる障害ではなかった。
今までは。
所詮聖女は戦うことができないほど脆弱だ。
どんな護衛を付けたところで、たかが人間に守り切れるわけがない。
今までは先に聖女を殺し、絶望した護衛を倒すだけで良かった。
しかし——この騎士は何だ?
聖女を守りながら、我をギリギリまで追い詰め、それでも余力を残している。
この騎士が、戦いの主役になっている。
「お前は……ま……まさか……勇……」
魔王カミラの言葉は、そこで途切れた。
聖女の力を乗せた騎士の剣の切っ先が、魔王カミラの心臓に迫り、触れ、貫いたのだ。
ならばせめて道連れに……。
いつかまた、魔王が復活したときの障害にならないように。
魔王カミラは最後の力を振り絞り【次元放逐】の呪文を完成させた。
憎き、聖女と騎士にそれらをぶつける。
これで……奴らは……。
その思いを最後に、魔王カミラは消滅したのだった。
赤い空に、稲妻の筋が幾つも走っている。
地面は、赤く粉々になって焼けた砂ばかり。
白く骨のように枯れた木が、不気味に姿を曝し、荒涼とした光景が永遠に続いている。
騎士と聖女は、そんな世界に転移させられてしまった。
「ここはどこだ?」
「——多分……私たちの世界の過去か、未来ではありませんか?」
ミーナが言うことに、根拠は無い。
だが、クラウディオは否定するだけの材料がなかった。
生きている者の姿は見えず、不毛な土地が永久に続いているようだった。
太陽らしきものは無いが、猛烈な熱気を放つ空が地面を容赦なく加熱している。
しかし、二人が暑さを感じないでいられるのは、クラウディオの周囲を保護するような光の膜が覆っていたからだ。
ミーナもその恩恵を受けている。
「怖いか?」
「いいえ、あなたと一緒ですから」
そういってミーナはにっこりとする。
クラウディオは、そんな彼女を抱きよせ唇を重ねる。
自分たちの運命が、命がどうというより、大切なこと。
共にあること。それさえ、叶えられるなら……あとは、何も要らない。
「こんな状況なのに……どうなるのか分からないのに……不思議だな」
「不思議ですか?」
「いや、よく考えたら不思議じゃなかったかな」
笑うミーナを見て、クラウディオもぽりぽりと頭をかきながら、つられて笑う。
「ん? その宝石、少し光ってないか?」
「あら……そういえば」
ミーナの首元の宝石が、仄かに輝いていることに気付く。
「どういうことでしょう? そもそも、この碧い宝石は何なのですか?」
「それは……王国庫から
「御守り?」
「宝石の名前だ。ペンダントに加工されているが、元々は古代の魔法都市で作られた魔道具という話だ。使い方は誰にも分からないが」
「今なら……なんとなく分かるような気がします」
ミーナは、首の後ろに両手をやり、ペンダントをはずそうとした。
しかし、チェーンと金具の部分が歪に引っかかっているらしく、上手く外せない。
「あの、クラウディオさま、外して頂けませんか?」
「あ、ああ」
少しだけ苦戦して、クラウディオは外すことに成功した。
ミーナは、彼の手が震えていないことを感じ、初めて会ったときのことを思い出す。
「これでいいか?」
「はい」
ミーナが碧い宝石を受け取った。
「私は……あなたにずっと、見守られていたんですね……。あの夜、全てを諦めていたらと思うとゾッとします。なぜだか、この宝石が傷付けられかけると、すごく怒ってしまって。でも、結果よかったって思います」
「そうなのか……その宝石は……何かしてあげたい、償いをしたいと思ってそれにしたのだけど……不思議な縁だな」
クラウディオは、ミーナの宝石を掴む手のひらを握った。
「温かい……この温もり、ずっと……」
宝石が放つ仄かだった光が、激しくなっていく。
その光は二人を包み、世界を照らしていく——。
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