第4話 出会いがありました。

「ふう、閃光に導かれ来てみたがここで会えるとは……遅くなったな、ヴァネッサ」

「いいえ、よくいらしてくれました。クラウディオ……様」


 ヴァネッサが、自分を救ってくれた男と親しげに話している。どういう関係なのだろう? ミーナは彼の姿を目で追った。

 彼が身につけている防具や服装から、叙勲を受けた騎士だというのが分かる。

 白い胸当ては、王家からもたらされたもので、高い地位にある者でしか身につけることが許されていない。


 クラウディオ様、か……。


 窮地を救ってくれたのもあって、とても堂々とし格好よく感じる。

 長剣を持つ腕はたくましく、シルバーアッシュの髪の毛が風になびいている。

 端正な顔は高貴な風格を漂わせていた。

 日に焼けた肌にいくつか残る傷が彼をより精悍に感じさせる。


 よっぽど武勲のある騎士なのだろう。それだけの迫力をミーナは感じていた。

 年齢はたいして違わないのに。

 とにかくお礼を、と彼に向き合う。


「危ないところを、ありがとうございます」

「気にしなくていい……ん?」


 ミーナは、クラウディオの視線が自分の首元を向いていることに気付いた。

 彼はミーナの首元に煌めく碧い宝石に釘付けになっている。


「そのペンダントは……ヴァネッサ? 彼女は?」

「はい。聖女の……ミーナ様です」


 その瞬間、クラウディオ「なんと」と小さくつぶやいた。

 彼の視線が、ミーナの顔に移る。


「とても綺麗に……なった……」

「えっ? あっ、綺麗ですよね、この宝石」

「い、いや……そうではなくて…………そうだな」


 日に焼けているのにも関わらず、はっきりと分かるほどクラウディオの顔が赤く染まった。初対面にもかかわらず、なぜかその様子に懐かしさを感じ、ミーナは頬を緩ませる。


「ふふっ……あっ、し、失礼しました」


 自然と出た笑いに、ミーナは失礼にあたると思い謝った。しかし、クラウディオもそんなミーナを見て笑いが伝染する。

 住んでいた聖堂を追放され、先が見えないのにも関わらず、ミーナは不思議と心が落ち着くのだった。

 周囲を見渡すと、悪魔は集結しつつある衛兵に倒されており、数を次第に減らしていた。


「私が来たからにはもう心配ない」

「はい、助かりました。街の方々を救援に来られたのですね」

「い……いや、私は」


 彼はもごもごと、悪魔を倒したときとは全然違う様子で口ごもった。

 先ほどからおぼつかない二人のやり取りを見かねた様子で、ヴァネッサが口を出す。


「やれやれ……ミーナ様、聖堂に行きたいのでしょう? 馬に一緒に乗せてもらったらいかがですか?」

「えっ……私が……? その、馬は二人乗っても平気なんでしょうか?」

「わたしと違って貴女は小柄ですし、問題無いでしょう」


 ブルッブルッ。クラウディオを乗せている馬がまるで「大丈夫だよ」とでも言うように鼻を鳴らす。

 じゃあ、と言って、クラウディオの後ろに乗せてもらうミーナ。だが、聖女の衣は跨ぐのに適しておらず、足を揃えて乗ることになった。


「こ、こんな感じでしょうか……きゃっ!」

「私にしっかり掴まって下さい」

「は……はい! ありがとうございます」


 不安定な状態に、ミーナはしっかりとクラウディオに掴まり体を預けた。その瞬間、彼の体がビクッと震えるのが伝わってきて、少しだけ遠慮する。

 クラウディオ様の匂い……清潔な中にも太陽を思わせる……懐かしい香りがする。

 遠慮しつつも、不思議な縁を感じたミーナは騎士に寄り添う。男性に積極的になっている自分に驚きつつ、少し恥じ入りながら。


「では、聖堂へ。私は後ろから追いかけます」


 ヴァネッサがそう言い、警戒しつつ後からついていく。

 そんな彼女を気遣いながら、クラウディオとミーナは共に聖堂に向かうのだった。

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