第8話
個展開催までちょうど一ヶ月となった。湯川は知人や母親に案内ハガキを書き送った。登偉にはハガキを出すと同時にLINEでも連絡をとった。登偉は毎日郵便受けをのぞき、ハガキが届くと湯川に連絡し、しばらく湯川の字を眺めていた。ハガキはキーボードの上に飾った。登偉はシフト表とにらめっこし、ギャラリーに訪れる日を決めて湯川に連絡した。それまではバイトとレッスンをがんばろう。登偉はキーボードに向かった。
「トーイ、仕事ラクになったの?」
ピアノのレッスンが終わり、教師のモーリスは登偉にコーヒーを淹れながら尋ねた。
「いいや、忙しいよ。相変わらず」
「でも、またレッスンやる気になったんだ」
モーリスは嬉しそうに言った。登偉はコーヒーをすすって答える。
「なれるかどうかわからないけど、プロを目指そうかなって」
「ボクはてっきり、前からプロを目指しているものだと思ってた」
「今までは……単にピアノ弾いて、バンドでセッションしたかっただけって感じかな」
「プロを目指すなら視野を広げた方がいい。技術的なことはもちろんだけど。アメリカの音楽学校に行くことは考えてる?」
「ネットで調べたことはあるけど……」
「絶対行った方がいい。……もちろん、金はかかるけど!」
モーリスはそう言いながら爆笑した。
「わかってるよー」
登偉は困惑しながら笑った。
「最初は短期留学を勧めるよ。長くても一ヶ月くらいで帰って来られる。下見にもいいだろ?」
モーリスはニッと笑った。
レッスンの帰りの電車の中で、登偉は留学について考えていた。留学するなら時間をおかず、すぐに行った方がいいだろう。当然ながら湯川とは会えなくなる。でも湯川はプロになることを勧めてくれている。前に進むことを彼は理解し、応援してくれるだろうと確信した。
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