第22話 よくわかる遺跡攻略①

「ありがとう、ここまで運んでくれて助かったよ。」

「なんの、農具を完璧に手入れしてくれたお礼さ。帰りも送ってやるから、あとで村にもよってくれよ!」


 村人はそう言って豪快に笑うと、馬車を走らせて去っていった。


 さて、と、ロルフは大きな鞄を背負い、軽く屈伸した。

 今回は泊りがけになる予定なので、少し荷物が多めだ。


「いい人で良かったですね、ロルフさん。」

「うう……でもちょっと、豪快すぎよ……揺れすぎて気持ち悪い……」


 エトとリーシャも、その両脇に並ぶ。


「はは、王都周辺以外の道は、大して整備されてないからな。」

「でも、こういうガタガタボコボコも、旅の醍醐味ですよね。」

「お。わかってるじゃないか、エト。」

「えへへ。実はちょっと、楽しかったです。」

「うっそでしょ……絶対おかしいわよ、あんたたち……」


 そんなこんなで談笑しながら森を歩いていると、目的の場所が見えてきた。

 土から生えるように突き出た、風化した建物だ。


 その入り口付近で、三人は足を止めた。


「うん、ここが『サボン第七遺跡』で、間違いないな。」


 受注書に目を通し、建造物の特徴などを確認する。

 この遺跡は、サボン地方で七番目に発見された遺跡だ。


「これが……遺跡の入口なんですね。私、遺跡に入るのは初めてです……。」

「私もよ。遺跡のクエストって、すごく人気があるんでしょ?」

「ああ、それは『探索クエスト』の場合だな。今回は、ただの遺跡でのクエストだから、そんなに人気はないんだ。」


 その言葉を聞いて、エトとリーシャの二人は、同時に首をかしげた。


「……どう違うのよ?」

「どっちも、遺跡のクエストじゃないんですか?」


 ……なるほど。近頃はあまり遺跡が発見されないから、最近冒険者になった二人は、探索クエストを見たことが無いんだな。

 道すがら、軽く説明をしておこうか。


「遺跡のクエストは、見つけたものを持ち帰って、買い取ってもらうことができる。一部はギルド協会を通して遺跡の発見者に支払われるんだが、ほとんどは見つけた冒険者のものだ。これは知ってるよな?」

「もちろんですよ、だからお宝を見つけたら、一攫千金! なんですよね!」

「まさに冒険者、って感じよね。」


 エトは目をキラキラと輝かせ、リーシャはうんうんと頷いている。


「そうだ。当然それを狙う冒険者も多いから、取り合いでトラブルにならないよう、新しく発見された遺跡には『探索クエスト』が発行されるんだ。これは基本報酬が無いクエストで、ようは持って帰ったお宝が報酬になるわけだな。」

「ってことは……遺跡の発掘権、みたいなクエストなんですね。それの人気が高かったのかぁ……」

「でも、そんなの無視してお宝取りに来る冒険者がいたらどうするのよ?」


 リーシャは腑に落ちないといった顔をした。


「いないと断言はできないが、クエストで受けないとギルド協会で換金できないからな。遺跡からの出土品の、しかも盗品なんて、そうそう売りさばけないだろう?」

「う……それは、確かに……」


 しかし、その指摘はなかなか鋭い。

 実は、最初期はギルド協会での買取をしておらず、リーシャのいうような問題が多発していた。

 それを解決するため、国はギルド協会と古物商会を連携させ、クエストを通じて換金できる仕組みを作ったのだ。


 これにより、古物商会は信頼できるルートで出土品を買い取れるようになり、ギルド協会は怪しい売買を監視することができるようになった。

 お互いの利益の合致が、この仕組みを確かなものにしたと言える。


「さて、話を戻すぞ。この探索クエストは、報酬がほぼゼロになるまで何度か発行される。すると最終的には罠も魔物も居なくなって安全になるから、最後に考古学者たちが調査に入って、その遺跡は探索済みになるわけだ。」

「ははあ、国はお金をかけずに、遺跡を安全にできるわけね。」

「その通りだ。なかなか面白い仕組みだろう?」


 実際、この仕組みのおかげで、大きないざこざもなく、大量にあった遺跡のほぼ全てが探索済みになったのだ。


「ってことは……この遺跡は探索済みだから、もうお宝は無いんですね。ちょっと、残念です……」


 エトがしゅんと肩を落とす。

 そう、この遺跡はいわば、冒険者にとって用済みの場所なのだ。


 しかし――それ故に、今回のクエストが発生したとも言える。


 今回のクエストは、この遺跡に住みついて繁殖した魔物、『ケーブバット』と『オオガネムシ』の討伐依頼だ。

 ケーブバットは通常洞窟に住むコウモリ型の魔物で、夜になると遺跡から出て、家畜に被害を与えているようだ。

 オオガネムシは一抱えもある甲虫型の魔物で、こちらも夜になると遺跡を這い出て、農作物を食い荒らしているらしい。


 どちらも単体ではCランク相当の魔物だが、遺跡の中という悪条件とその数により、Bランククエストとして発行されているわけだ。

 そして重要なのが、今回これらのクエストは、別々の依頼として発行されているという点である。

 つまり、一気にBランククエストを二つ達成できるチャンスなのだ。


 お宝を期待していた二人には、少々申し訳ないが――


「何しょげてんのよ。普通のクエストだけど、十分すぎるほど報酬が出るでしょ? ちゃっちゃと片づけて帰るわよ、エト。」

「うん……そうだね、リーシャちゃん。やっちゃおっか!」


 ――その心配も、無かったか。


 意気込む二人をみて、くすりと微笑む。

 気合は十分のようだ。


 ロルフは背負っていた荷物を下ろすと、その口を緩めた。


「よし、じゃあ今回の武器を渡すぞ。まずは――」

「キュ!」

「……『キュ』?」


 突然白い何かが飛び出し、宙を一回転する。

 それはそのままエトの肩に止まると、嬉しそうに一鳴きした。


「あっ! シロちゃん?!」

「ええーっ! こいつ、荷物に紛れ込んでたの?!」


 ロルフも最初は驚いて固まっていたものの、すぐに諦めたように肩を落とし、大きくため息をついた。


「あー……もう、ここまで来たら、戻るわけにもいかないな……。大人しくしてろよ、シロ。」

「キューーイ!!」



 三人と一匹の、遺跡攻略が始まった。

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