第23話 よくわかる遺跡攻略②

「えーい!」

「そこっ!」


 一匹、また一匹と、魔物が地面に落ちてゆく。


 情報通り、遺跡内にはほぼケーブバットとオオガネムシしかおらず、飛んでくる魔物をエトが叩き落とし、リーシャが魔法でトドメを刺すという連携で、それらはみるみる討伐されていった。


「う~ん、見事なもんだな。」

「キューィー。」


 コゲた魔物から手際よく魔石を回収しながら、二人の後を追う。

 シロはそんなロルフの肩に止まっていた。


 普段はエトにくっついているのだが、今回は邪魔にならないよう、配慮しているのだろう。これで意外と、頭が良いのかもしれない。


 ……単に安全なところに避難しているだけかもしれないが。



 そうして進んでいると、通路の先に、下へと伸びる階段が見つかった。

 次の階層への入口だ。


「攻撃も止みましたし、この階層はこれで終わりですねっ。」

「拍子抜けするくらい弱いわね~。これで本当にBランクなの?」


 エトもリーシャも、まだまだ余裕があるといった様子だ。

 まったく、末恐ろしい二人組である。


「おいおい、普通はこう簡単にはいかないぞ。この狭さじゃ三人以上のパーティーはまともに連携できないし、こんな薄暗い通路で正確な魔法が撃てる魔導士なんて、滅多にいないからな。」


 ロルフはそう言って笑った。

 念のため補足しておくが、このクエストは簡単なものではない。


 当たり前のことだが、暗く狭い場所というのは、後衛職と極めて相性が悪い。前衛だけのパーティーなど存在しないので、この手のクエストは、そもそもパーティーと相性が悪いと言える。

 さらに言うと、ケーブバットは飛行しており、近接職では捉えにくく、オオガネムシの体は刃を通しにくいので、できれば魔法で仕留めたい相手だ。


 近接職が苦手な魔物が、遠距離の苦手な場所に、やたらと数がいる。

 そんな困ったクエストが、この二つのBランククエストなのだ。


「さすが、リーシャちゃん、ですね♪」

「そ、そんなことないわよ。私は落っこちたのを撃ってるだけなんだから、エトのほうが……」

「えへへ。ありがとう、でも倒してるのは全部リーシャちゃんだもん。すごいよ~。」

「う、うう……。」


 さて、その点、この微笑ましいパーティーはどうか。


 まずそもそも、エトが閉所に異様に強い。壁蹴りや跳躍を交えて攻撃するエトの攻撃は、飛行する敵をもたやすく捉えることができる。

 エトの攻撃は致命打には至らないが、そこをリーシャの魔法が追撃する。射線を塞ぎにくいエトの立体的な立ち回りと、正確なリーシャの高速魔法が可能にする、極めて特殊な連携だ。


 ようするに、二人の相性が良い上に、二人とこのクエストの相性も抜群というわけなのだ。



「だが、本番はここからだぞ。二階層目は一階層目よりも広くなるからな。魔物の数も増えるはずだ。」

「そ、そうですよね。頑張ります……っ!」

「ふん。こんなのが増えたって、楽勝よ。」


 二人の顔に少し緊張の色が戻る。


 あまりガチガチになるのは良くないが、油断も禁物だ。

 褒めちぎるのは、後にとっておくとしよう。


「それにしても……地下のほうが広いなんて、不思議な造りの建物ね。」

「確かに……普通、逆だもんね。不便じゃなかったのかなぁ。」

「ん? それは違うぞ。」


 え、と声を漏らしながら、エトもリーシャもこちらを向いた。


「まず、遺跡っていうのは、そもそも地下に造られたわけじゃないんだ。」

「ええ? じゃあどうして今、地下にあるんですか?」

「こんな大きいのが、地面に沈んだってこと……?」

「この辺はまだ仮説なんだが、大昔にすさまじい大洪水があって、当時の文明が丸ごと土砂に埋まったと言われている。それを掘り出したのが、今の遺跡ってわけだな。」


 この辺りは、歴史マニアだったアインという男の受け売りだ。

 聞いてもいないのにペラペラと喋るから、遂には覚えてしまった。


「それと、地下のほうが広いのが、どう関係あるのよ?」

「うん、じゃあ質問だ。俺たちはこの建物に、どこから入ってきたと思う?」

「どこって……そりゃ入口から……」


 そこまで言って、リーシャははっと顔を上げた。


「そっか……! ここが最上階なのね!」

「その通り。サボン第七遺跡は二階層遺跡だから、今いるのが建物の二階部分。この下にあるのが一階部分ってわけだ。」


 これは、ほぼすべての遺跡に同じことが言える。

 下層が崩れて小さくなっているパターンもあるが、大抵の場合は一階層降りるたび、二倍程度の広さになる。

 三階層遺跡や四階層遺跡の最下層は、とんでもない広さになるのだ。


「な、なるほどぉ……だからあの入口も、あんまり入口っぽくなかったんですね。」

「ああ。掘り出した最上階の壁に、穴をあけただけだからな。」

「キュゥキュゥ。」


 なぜかシロも頷いているが、ともかくみんな納得してくれたようだ。

 遺跡の攻略に必要な情報……というわけではないが、こういった知識は思わぬ形で役に立ったりするものだ。知っておいて損はないだろう。


「よし。じゃあ、仕組みもわかったところで、二階層に向かうとするか。」

「あ。待ってください、ロルフさん!」


 階段に向かうロルフを、エトが呼び止める。

 見ると、リーシャも少し、不安げな顔をしていた。


「この階は若干光が入ってましたけど……この下って、光が届きませんよね。」

「そうよ、どうやって進むのよ。ランタンとかあるんじゃないの?」

「ああ、それは――」


 その問いに答えようとして、ロルフはふと、口を止めた。

 もちろん、方法はある。あるのだが――


 ロルフはその答えの代わりに、にやりと笑って見せた。


「ふふふ、それは……見てのお楽しみだな。」


 エトとリーシャは、不思議そうに顔を見合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る