第137話 新郎新婦逆転の仮祝言はドタバタつづき



 7月8日午の刻。

 清麿と涼馬は上屋敷の七三郎の部屋で仮祝言を挙げた。


 銀杏髷に羽織袴の新郎は涼馬。

 文金高島田に白無垢姿は清麿。


「いやあ、まことにもって祝着至極じゃ。かように目出度い席も滅多にあるまい」

 狙い撃ちしたように己が策略が功を奏した七三郎は、上機嫌で杯を重ねている。


 三三九度のお取り持ちを仰せつかったお園は、ご家老から下賜された単衣を優雅に着こなし、世にも不思議なものを見るように清麿を見、涼馬を見、また清麿を見た。


 重ねる杯に目もとを薄赤く染めた七三郎は、渋い美声で「高砂」を唸り始める。



 ♪ 高砂や この浦舟に帆を上げて 

   月もろともに出で潮の 波の淡路の島影や 

   遠く鳴尾の沖過ぎて はや住吉すみのえに着きにけり……



 一方、温燗酒ぬるかんざけせた清麿は、盛大なくしゃみでお膳のご馳走を台無しにし、

「まったく清麿殿は粗忽者なんですから。そう慌てずとも酒は逃げて参りませぬよ」

 新婦ならぬ新郎の涼馬にたしなめられ、「拙者はほれ、好物に目がなくてな。げんに、そなたにも……」言わずもがなの冗談であやまって、再びこっぴどく叱られた。

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