第136話 涼馬が新郎、清麿が新婦での祝言を提案



 7月6日巳の刻。

 涼馬は清麿を伴い、上屋敷の七三郎に吉報の報告に出向いた。


 相変わらず悠長に、派手な浮世絵模様の浴衣をのんしゃらんと着流している。

 そんな清麿を涼馬が気ぜわしげに促しているうちに、早くも上屋敷に着いた。


 男と男の祝言などは、古今東西、耳にした記憶がない。

 男色は公然たる秘事で、日の下にさらすべきではない。

 二人の当惑に構わず、七三郎はあっけらかんと告げる。


「でな、わしにいささか伝法でんぽうな考えがある。男と女が入れ替わるのじゃ」


 涼馬と清麿は、こぞって心の底から驚愕した。

 ということはつまり、いまは男になっているが元々は女だった涼馬が新郎となり、元々が男で、これまでは女をいやがり男色一辺倒だったが、つい先夜から両刀遣いに変容を遂げた清麿が新婦になると、かような次第だろうか。何とも複雑怪奇な……。


「如何した。二人とも同時に一本の棒を呑んだような、世にも奇妙な顔をしおって。なにも押し付けるつもりはない。遠慮は要らぬ。他に妙案があるなら、申してみよ」


 ――いえ、めっそうもござりませぬ。


 二人は同時に横に首を振った。

 他の選択肢があるはずがない。

 

「ならば決まりじゃ。涼馬が新郎、清麿が新婦で内輪の祝言を開こう。よいな」

 いくら清麿が女子っぽいとはいえ、男の骨格と女の体型では比較にもならぬ。


 だが、みごとに武士に化けおおせた涼馬の先例がある。

 まずは当人たちが本気で信じれば、うそも誠となろう。


「何から何までかたじけなく存じ上げます。仰せに従わさせていただきまする」

「拙者も良き女房になれるよう、せいぜい女の道に精進させていただきまする」


 涼馬と清麿は、夫婦打ち揃って七三郎の采配に感謝した。


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