第132話 またしても「困ったときのご家老恃み」
他人目を憚り、門外の物陰に清麿を追い立てた涼馬は、小声で迷惑行為を諌める。
「いったい如何なる仕儀でござりますか。かような状況、拙者は聞いておりませぬよ。かく申す拙者とて、つい数日前に到着したばかりの新米居候の身にございます。かように勝手な振る舞いをされては、お屋敷のみなさまに肩身が狭うござります」
だが、清麿は涼馬の怒りに納得がいかぬ様子で、
「さような剣幕で、ぎゅうぎゅうと難じずともよいではないか。何はともあれ、こうして無事に会えたわけだし。国許におったときのごとく、ふたりで仲良くやろうではないか。な、涼馬殿」甘えたような目付きと仕草で、涼馬の意を得ようとする。
――けっ、かようなときに色目が通用すると思うてか。
こっちは、それどころではないわい。
悲壮な覚悟までして、何のために江戸へ出て来たと思うておるのか。
怒り心頭に発しながらも、かっかする頭の半分で、涼馬は冷静に思案していた。
――思いもよらぬ突発事態を如何に処理したものであろうか。
まさか、厚かましく同居するわけには参らぬ。
かと言って、無下に国許へ追い返すのも忍びない。
堂々巡りを繰り返したあげく、ついに覚悟を決めた。
――困ったときのご家老恃み。これしかなかろう。
「よろしいですか、清麿殿。ご家老さまにご相談して参りますゆえ、深川の下屋敷でおとなしくなさっていてくださりませ。いいですね、一歩でも外出はなりませぬよ」
年端の行かぬ弟を諭すように懇々と申し含めておいて、深川への道順を説明する。
気乗りせぬ様子で清麿が歩き出したのを見届けた涼馬は、七三郎の部屋を訪ねた。
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