第72話 待宵草が咲き乱れる三峰川河畔での逢瀬
その日の夕刻。
帰路を急ぐ涼馬は、城下の中ほどの問屋門の傍らにふたたび清麿の姿を認めたが、鬼面人を嚇す大柄な羽織が目に入ったとたん、あからさまに、さっと踵を返した。
そんな涼馬の行動が意に解せなかったのか、清麿は大慌てで追いかけて来る。
「拙者じゃ、涼馬殿、清麿じゃよ。いま来た道をもどって、何処へ行かれるのじゃ」
面を伏せた涼馬は、聞こえぬ振りをして走り去ろうとした。
なれど、清麿も意外な俊足で、何処までも追いかけて来る。
ふと気づくと
背後は大河、足許は石ころだらけの絶体絶命。
難なく追いついた清麿は涼馬の双肩をつかみ、怒りに任せて激しく揺すぶった。
「いったい如何なる仕儀じゃ。よもや拙者を忘れたわけではあるまい。え、涼馬殿」
清麿の哀切な慟哭が涼馬の乙女心を突き動かし、思わず清麿にしがみついていた。
これ以上の逢瀬はやめよう。
ひそかに決めていたはずなのに、呆気なくかような事態に至った自分が情けない。
傾き始めた西日に照らされる三峰川の随所に、待宵草が可憐な黄色を点している。
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