第43話 揚羽蝶のごとく艶やかな清磨が立っていた……


 

 1月29日、酉の刻。

 涼馬は心地よい疲労を清々しい浅春の気に晒しながら、帰路を急いでいた。

 未知の分野に果敢に分け入ってゆく、期待と興奮の刺激が面白くてならぬ。


 ――両師の世辞を真に受けるわけではないが、拙者は生来の武士と、客観的に判断してもよいのやも知れぬ。生まれ落ちたときのすがたかたちが、たまたま女子だったというだけで、本来ならば男子、それも極めて切れ味のいい技遣いの……。(*'▽')


 さような自信に裏付けられて、日常の所作まで伸び伸びと大胆になって来ている。

 自由闊達に振る舞えば、さらに意識が広やかに解放されてゆくことがしみじみ実感された。強い志さえあれば、成就できぬ懸案など何ひとつないような気がして来る。


       *


 日が傾き、急速に冷え始めた城下の何処かが、ぴかっと光ったような気がした。

 首を廻らせてみた涼馬は、自分をじっと見詰めて来る視線に驚きの声を呑んだ。


 ――あっ、清麿さま!( ゚Д゚) 


 狭い城下ゆえ、いずれはお会いする機会も訪れるはずとは思ってはいたが、まだ心の準備もできておらぬうちに、かようなところで、ばったりお会いするとは……。


 季節を先取りした桜花模様の如何にも玄人っぽい粋な羽織をまとっている清磨は、日中の陽気に眩惑され、うっかり巣へ帰る時宜を逸した揚羽蝶のようにも見えた。


 ――拙者が小梢である事実を、気取られたやも知れぬ。

   いや、あの鋭い視線は気づかれたに決まっておる。


 涼馬の全身の血が音を立てて引いて行き、両手の指先が氷のごとく冷たくなった。

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