第40話 風傳流槍術の師範・真壁羽衣の道場を訪ねる


 

 1月29日辰の刻。

 塚原卜伝流剣術の葉山岳遼師範が認めてくださった書状を、大切に携えた涼馬は、風傳流槍術ふうでんりゅうそうじゅつの師範、真壁羽衣まかべういの槍術稽古場を訪ねていた。


 初めて岳遼師の剣術稽古場を訪ねた朝から数えて、わずかに10日ほどしか経っていぬが、季節を確実にまたいだ証拠のように、高遠城下はすっかり春めいていた。


 繁縷はこべよもぎが若芽を出し、水仙の蕾が膨らみかけている。

 民家の垣根に枝垂れる連翹れんぎょうも、鮮やかに黄色い小花を咲かせ始めたようだ。


 吹く風が棘を含まぬので、行き交う武士や町人の表情も、和やかに弛んでいる。


 どこか遠くを見やりながら、道の真ん中に、茶色い犬が、ぼうっと佇んでいる。

 冬のうちは、ちらりとも姿を見せなかった猫たちも、のっそり出張って来ていて、郷士屋敷の板塀の上や、防火水槽の前の陽だまりで、うつらうつら舟を漕いでいる。


 春一色の城下を大股に闊歩する涼馬は、もはや他者の目を気にする小梢ではない。

 武士らしく、威風堂々と、肩で風をきって闊歩して行く。


 ――拙者の身体は、どうやら、武士にふさわしく生まれついておるようだ。


 岳遼師に押してもらった太鼓判が、涼馬の内部に若々しい灯りを点していた。


 ――剣術同様、槍術も、必ずやわがものにしてみせるぞ!


 ひそかに誓う涼馬は、武芸習熟への気概にあふれている。

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