第39話 涼馬の首尾上々に彌栄と梅の喜ぶまいことか
その日の星野家の夕餉は、ささやかながら喜びに満ちあふれていた。
梅が土手で摘んで来た
つい弾みがちな涼馬の報告とともに、諏訪湖産の
「ほほほ。さようでござりますか、高遠一の剣のご師範が、うちの涼馬坊ちゃまに、さようなお言葉を、ねえ。ふふふ、さようにござりますか。何ではございませぬか、世間広しといえど、かような天才剣士は、後にも先にもお出にならぬのではございませんでしょうか。ほ~ほほほ、さようでござりますか、高遠一のご師範がねえ……」
給仕に控えている女中の梅は、何度でも飽きずに同じ報告を聞きたがった。
得意満面だった涼馬もさすがにうんざりし、いつもの嘆息を漏らさずにいられぬ。
「剣の話はもうよい。それより、問題は明日からの槍術じゃ。弓は多少なりとも経験があったが、槍となると如何様に投げたらよいやら、かいもく見当がつかぬ。かような事態に至ると分かっておれば、兄上のお稽古を真剣に拝見しておけばよかったが」
それを聞いた彌栄は、涼馬によく似た漆黒の目に持ち前の茶目っ気を滲ませた。
「おやおや、涼馬らしからぬ謙遜ぶりじゃなあ。そなた、しおらしく予防線を張っておるが、その実、槍術にも相当の自信があるのではないか。な、図星であろう?」
涼馬は、勇ましげに両端が吊り上がった男眉(持ち主の自覚に伴い、涼やかな目の周辺が次第に凛々しくなって来たのは摩訶不思議である(笑))をキッと持ち上げ、「またまたさような
障子の向こうに差す日差しの明るさが、明らかに真冬とは異なって来ている。
寒気に閉ざされた山国の住人が、一刻も早くと春の訪れを待ち侘びる切実な気持ちは、冬籠りの心細さを知らぬ南国や都人には、真には理解してもらえぬやも知れぬ。
無口な老爺が丹誠した庭に、雀や
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