第32話 亡兄の親友・陣内琢磨にも変身を覚られなかった!
帰路、涼馬は、薄刃の上を裸足で渡るような初稽古の一部始終を反芻していた。
もはや往路のように人が自分を如何様に思うかなど、気にかけている暇はない。
それよりご指南いただいた要点を忘れまいと、心と身体に何度も刻印していると、ふと視線を感じた。呆然と立ち竦んでいるのは、亡き兄の親友・陣内琢磨だった。
――陣内さま! お懐かしゅう存じます。
その節は、たいそうお世話になり……。
駆け寄りかけて、危うく留まった。
一方、陣内は、小梢こと涼馬にはまったく気づかぬ様子。
見かけぬ美武者につい見惚れているの図、であるらしい。
呆気に取られている陣内の前を、さりげなく腰の大小をちらつかせながら素知らぬ顔で通り過ぎた涼馬は、颯爽と歩を進めながら、内心の自信をいっそう深めていた。
――なに、大丈夫。
成りきってしまえば、だれも不審には思わぬ。
涼馬は、持ち前の楽天ぶりを大いに発揮することにした。
――
齢17にして人生の縮図を背負い込んだ娘は、早くも処世術を身に着けていた。
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