第12話 困ったときの家老頼みといきますか?


 

 想像もしなかったびっくり仰天な展開に、小梢は打ちのめされていた。


 ――せめて、女性の恋人を理由に断られたのなら、どんなによかっただろう。


 詮無い繰り言が、脳裏を終わりのない追いかけっこのように駆けまわっている。

 城下の外れにある質素な郷士屋敷では、病気の母と、忠義者の女中の梅のふたりがふたりとも、いまや遅しと小梢の吉報を待ち詫びているにちがいない。

 それを思えば思うほど、手ぶらで帰る安易は、許されないように思われて来る。


 ――さりとて他に婿の当てはなし。

   きらいな男と添いたくもない。


 さんざんに思いあぐねた小梢は思いきって、地蔵菩薩のような温容から「人誑ひとたらし」の異名を取る家老の星野縫殿助に相談してみようかしらと思い立った。


 兄の野辺送りのあと、母との会話を立ち聞きした非礼は、素直にあやまればよい。

 日頃から縫殿助は、数多の配下や民衆に個人的に頼りにされていると聞いている。

 人情の機微に通じた縫殿助ならば、奇想天外な方策を考えてくれそうな気がした。


 ――藁にも縋れというではないか。


 いままで気に掛けたこともなかった古い格言に、いまこそ拠ってみたくなった。

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