第11話 デブ猫を抱いた大男と小梢の恋の駆け引き
だが……。
清麿は小梢から、つと目を逸らせると、にわかに不機嫌になり、
「で、おいらに何用だい。こちとら、忙しいんだ、手短かにな」
唾でも吐くように言い捨てて口を尖らせる。
言われた小梢は、少し慌てて言い繕う。
「用というわけではありませんが、近所に参ったついでに……」
何やら、この前とまったく同じ展開になって来た。
申しては何だが、かような娘ぶりに心を動かされぬ男はいなかった。
なのに、この冷えきった態度はどうだろう。どうにも腑に落ちない。
――もしや、照れておいでなのか。
見かけと違い、意外に初心なのかも知れぬ。
目の前の清麿の怪訝な冷淡ぶりを、都合よく解釈することにする。
――それなら、こちらから仕掛けて差し上げたほうがよいのではあるまいか。
恋の手管とかいうやつを……。
だが、あろうことか清麿は、小梢の前で、猫のような大欠伸までしてみせた。
――いくら何でも、どういうおつもりか?
あまりと言えばあんまりではないか。
誇り高い小梢の眉間が、怒りにぴくっと震える。
そのとき、デブ猫の寅を抱いた先刻の大男が、再び暖簾から顔をのぞかせた。
「おお、清麿。何をやってんだい。早くこっちへ来いよ」
恫喝しながら、じっとり粘つく視線を小梢に絡めて来る。
「すぐ行くよ。待たせた分だけ、ふふふ、たっぷり可愛がってもらうからよう」
答える清麿は、筋肉男の無礼をたしなめるどころか、これ幸いと言いたげだ。
「あんまり待たせると、容赦してやらねえからな」
デブ猫並みに喉を鳴らした大男は、勝ち誇った視線を投げると朱の暖簾に消えた。
口も利けないほど驚いている小梢に向かって、清麿は、
「な、そういう訳だからよ、わるく思わねえでくれよ。さあ、お嬢は帰った帰った」
いささか照れ臭げに告げると、筋肉男のあとを追って暖簾に消えた。
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