第9話 高遠小町・小梢の美々しき娘ぶり


 

 翌1月6日未の刻。

 兄・徹之助はどちらかと言えば慎重居士しんちょうこじのほうだったが、反対に思い立ったら躊躇ちゅうちょせぬ性質たちの小梢は、さっそく婿候補の清麿に会いに出かけて行った。

 

 今日の小梢は余所行よそゆきの晴れ着の内でもとっておきの美々しい逸品をまとっている。

 大胆な花柄の着物に合わせて大ぶりな太鼓に結った帯にも、色糸の縫取りがある。


 自慢の黒髪は「小梢さま命」の忠義者の女中・梅が、念入りに結い上げてくれた。


「お嬢さま、くどいようでございますが、本当に大丈夫でございましょうか、年頃の娘さんがおひとりで出歩いたりなさって。この梅がお伴をして差し上げても……」


「なにを阿呆らしいことを、いつまでも子どもじゃあるまいし……。万一、わたくしをおそおうとする者があれば、むしろ、この剛腕を試す絶好の機会というものじゃ」


 星野家は代々が弓衆を拝命している。

 如何なる事態にも即座にお役に立てるよう、男子はむろん、女子も幼い頃から舞踊や武芸の基礎を習い、とりわけ体幹部の鍛練に励むのが、譜代の家訓になっていた。


 梅のお節介をやり過ごして、小梢は何度も身をよじって全身をつぶさに点検した。

 われながら「ほう!」と目を見張るような、みごとな娘ぶりに仕上がっている。👘


 ――大丈夫! これならきっと気に入っていただけるわ。


 高遠小町と言われる自分を思い出した小梢は、自信満々で出かけて来たのだった。

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