第8話 婿取りの話がにわかに現実味を帯びて……
同日戌の刻。
小梢は彌栄の枕辺に座っている。
梅に支えられて上体を起こした母は、病人とは思えぬ凛然たる口調を発した。
「よいか、小梢。これから申すことは、わが家の一大事なるぞ。心して聞くがよい」
「はい。承知いたしました」
小梢も居住まいを正す。
「嫡男の徹之助が亡きいま、星野家はそなたが継がねばならぬ」
静まり返った寒い部屋に、ごくんと、小梢ののどが鳴った。
「ついては、早急に、そなたに婿取りをせねばならぬ」
――おやおや、早くもご家老に染まられて……。(´ω`*)
可笑しかったが、むろん、おくびにも出さない。
そんな小梢に、彌栄は重ねて畳みこんで来た。
「端的に訊ねるが、小梢、そなた、だれか婿の候補になる方は、おありか」
問われた小梢の胸に、
――清麿殿。
わたくしが祝言を挙げたい相手は、あの方しかいない。
幼馴染みの清麿殿なら、病気の母を抱えたわが家の事情もご存知だし、亡き兄上も喜んでくださるだろう……言い訳めいた文言を、小梢は内心で
あの凄惨な雪の夜以来、わが胸に封じこめていた思いが一気に膨れ上がって来た。
「母上。しばらくお待ちくださいませ。いささか心当たりがございますゆえ……」
「それはよかった。小梢、朗報を待っておるぞ」彌栄は病み疲れた顔を綻ばせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます