第10話 浮気していいと言われた

 休暇明けに私が両腕に包帯で復帰すると侍女長や同僚にフィリス様も驚いていた。全員


「何があった!!?」

 と聞いてきた。


「夫の実家の兄夫婦の双子の子供達に齧られましたー」

 と言うと何人かは


「ああ…子供って制御効かないからね…注意した方がいいわよ?ジュリエット」

 と同僚のダリアがアドバイスしてくれたがやはり捕食者の目だ。

 説得力ねえ。


「それより怪我したとは言え蜜月はどうだった?うふふふ?私も早く結婚したーい」

 とダリアが洗い物をしながら話を振る。


「クレイグさんって普段は優しいけどミスしたりするとかなり怖いじゃない?ベッドでは優しいの?それとも怖いの?うふふ」

 とピンクなことを聞かれるが何もねえ。


「いや…別に…?怪我してたしずっと寝てたわ。看病は少ししてもらったかな」


「えっ…そ、そうなんだ!?」

 とダリアの目が点になった。


「元々私達王子命令で無理矢理結婚だったし…別にお互い恋愛感情無いというか…」

 するとダリアは


「うーん、そうかもだけど…普通はお嫁さんなら旦那さんに何か労いくらいはするものよ?愛が無いってのも寂しくない?そりゃ事情があるのも判るけどさ…クレイグ侍従長てほんとに仕事人間で近寄りがたいからさ、あまり人に優しくされたことないんじゃない?」


「そうなの…」

 そう言えば私のことはいろいろと気遣ってくれる。(ペット的立場として?)私特に何もしてねぇ。ううむ。労い…。菓子でも作るか!

 そういえば村のバザーでは私のお菓子評判だったんだから!!

 ポーリーナには売り上げ負けたけどな!!チックショー!ポーリーナめえええ!!


 まぁいいやと何も考えずに私はクッキーを焼き、メッセージを添えて夫の部屋の机の上にポイと置いて仕事に戻ったのだった。


 *

 それから…フィリス様がご懐妊なさり、結婚式を挙げる準備で使用人達は浮かれ準備も忙しくなりそうだった。その前に結婚報告の貴族達を招待した夜会が開かれるそうだ。その準備もある。


 やれやれと今日の仕事が終わるとクレイグが私の部屋の前にいた。

 あれ珍しい。


「お疲れ様ですー。ちょっといいですか??」


「うん。立ち話もなんだしどうぞ」

 と私の部屋に入れた。

 彼は備え付けのソファーに座ると


「この前、お菓子ありがとうございました!とても甘くて美味しかったですよ!」

 とにこりと言ったから私は鼻高で自慢トークをした。


「そうなのよ!私!菓子づくりも中々上手いでしょう??ふふふ!村でも2番目に評判だったわ!竜族肉ばかり食っててあんなスレンダーとか許せないわよねぇ?いつか皆にも食わせてやりたいけど…皆太るの気にしてるのか断るし!!」

 と言うとクスリとクレイグが笑う。そして懐から箱を出して置いた。


「何?お礼?」


「まぁそうです。あげてなかったなーって。急でしたから」

 と開けてみると…結婚指輪だった。

 おおお!!まぁ普通の飾り気のないヤツだけどいいか。婚約指輪とかすっ飛ばされたけどまぁいいか。嵌めてみるとガボガボだ。


「ちょっとおおお!サイズううう!」

 青くなりクレイグさんは


「わぁ…すみません…適当に想像してたんですがやはりダメですねー。今度お店に直しにいきましょー」


「よろしく頼むわ。話はそれだけ?」


「ええと、もう一つ…」

 と改まる。


「何?」


「今度の夜会では王子達のご結婚のお祝いに沢山の金持ちイケメン独身男性やらがわらわらと来ます」


「そりゃ、王子達の結婚報告だもんね、方々から来るし大変よね。私達使用人は」


「まぁそうなんですけど…ええと…誰か良い人がいたらジュリエットさん浮気してもいいですよ?」

 と言われた。

 ん?

 今浮気してもいいとか言われた??

 はあああんんんんーー!!??


「な…」


「王子に怒られましてね。私とは2週間何も無かったので休暇の意味が無いって。普通は夫婦は子作りする期間らしいし。…でも私達無理矢理結婚でしたしジュリエットさんも金持ちでイケメンな男性を望んでいましたので…もし良い方がいたら堂々と浮気なさってもいいんですよ?あ、ちゃんと餌として見てないかの確認はした方がいいですよ?」

 と付け加えられた。

 ええ…ちょっと…どこの世界に浮気しても良いとか言う夫がおるのか!!?そりゃ愛のない結婚だが堂々としていいとかお前…。


 何かイライラしてきたなぁー。


 それすなわち離婚を前提にしとるってことかーーー!?何なの??指輪出してきたと思ったら!サイズは違うし!!浮気はしていいとか。おま、いい加減にしろや!!

 そりゃ私だってイケメンで金持ちがいいとは散々言ったような気がする!だが!結婚したら妻は誠実で献身的でなければならんじゃろ!?常識だろうが!!


「ジュリエットさん?何か顔怖いんですが…」


「そりゃーねぇ?浮気していいとか堂々と言うとか信じられなくねえ!人間の私には!!」


「でも、念願のイケメン金持ち男と出会えるチャンスでして、私なんかよりいい男はたくさんいますよ!頑張ればジュリエットさんもいけますよ!!」

 頑張ればって何だよ?ふざけんなよ??


「そんなに浮気してほしいのか!!こらっ!!てめっ!!」

 とクレイグさんのシャツの襟を掴みブンブン揺すった。


「ひえっ!ええと…だ、だって!!だって!!私じゃジュリエットさんを幸せにできないと思って!!恋愛音痴ですし!それに!!…今年中に貴方と子作り行為とかしないと竜族が滅ぶんです!!」


「何でよ!!結婚したじゃないのよっ!!」

 とブンブン揺らし続ける私。


「ぴええ、違うんですぅ。東の伯爵領の娘に虫歯発症者が現れました!もちろん間違いなく呪いのです!!王子が言うにはお前らに愛情がないからだ!とか、過去の前例では子作りした夫婦では呪いの発症はゼロでして!今回のようなことは初めてだそうです!!」

 と揺すられながらもクレイグは言う。

 何だと?発症者出たの??


 涙目になり


「だから今年中に…なんです…。私なんてジュリエットさんタイプじゃないでしょう?私だって仕事一筋であまり構えないし…不甲斐ないですが恋愛経験も無い私とより他のイケメンで恋愛経験も豊富な方の方をお勧めしたのです!」

 と言うから私は譲るのをやめてゴチンと頭突きをした。

 

「痛っ!!」


「なら指輪なんて要らないでしょうが!!勿体ない!!」


「それは…」

 と黙った。今度は黙りか!


「私ね、ここの竜族が貴方や王子にフィリス様以外は皆私のこと餌として見てるの知ってるよ?大人は我慢は出来るみたいだけど子供は出来ないみたいね!!この傷を見たら判るでしょ?


 いいわよ?もし夜会でイケメンがいても私のこと餌として見てるか見てないかなんて一発で判るんだからね!!」

 大体初めて会ったヤツは皆んな爬虫類の目になり私を餌認定しやがるのだ!!

 そんなヤツイケメンだろうとお断りである!!もう齧られたくないわ!!


「だからもし夜会に餌としか見てない男ばかりだったら……その時は諦めて貴方と子作りするしかないんだからね!!いいわねっ!?」

 と怒り狂って私は詰め寄る。

 彼は目を細め


「判りました。そういうことにします。…でもいるといいですね」

 と少しだけ寂しそうに笑った。

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