第8話 可愛らしい家ちゃうんかい

 結局私は2週間のほとんどをクレイグのベッドの上で過ごした。いや、足は怪我してねーから動けるだろって?無理無理怖くてもう足ガクガクだよ。


 だって包帯とったら肉ちょっと齧られてた。奴等は味見とか言ってたけどこっちは大怪我だよ!!


 出血とかお前…大変やぞ!!


 クレイグが昼間家探しとかに出てるうちは部屋に鍵をかけて震えている。トイレなんかオマルだわ!!部屋から出るかよ!!もう臭いとか汚いとか恥とか知らん!!

 私は命が1番大事だ!!

 可愛い顔したあの悪魔の双子はクレイグが尻尾でお尻を100回叩いたらしいが竜なので普通の人間とは違い頑丈でピンピンしておる!!


 もうやだ!誰も信じない!!

 皆ここの連中は私を餌としか見ていない!!


 扉の外から双子が


「ごめんねお姉ちゃん…もう齧ったりしないよ…人間て脆いんだね。痛かったよね?」


「クレイグ叔父さん凄い怒ってた。もう本当に何もしないよ。薬湯持ってきたよ。ここに置いておくね?」


「入らないから少しお話ししていい?」

 と聞こえたから


「なぁに?」

 と一応聞いた。美味しかったとかの感想だったらもうほんとぶっ飛ばすぞ!ぶっ飛ばせれないけどな。


「あのね?クレイグ叔父さんはね、変わってんだよ…。人間を餌として見れないって」


「へえ」

 お前らよりまともじゃねーか。


「昔ね?迷子の子犬を叔父さんが見つけてきてね?育ててたんだ」


「白い犬で可愛くてね…美味しそうで…」

 おいっ!美味しそうとか言うな!!


「その犬が立派に成長してね、叔父さんが投げた木も拾ってきて懐いてたの。私達も遊びたくなってね」

 おい、なんか雲行きが怪しい!!


「結局ワンチャン食べちゃったの」

 いぎゃあああああああ!!犬ーーーーー!!!!


「その時も叔父さんすっごく怒ってね…空中膝蹴りとか背骨折られたりしてもう恐ろしさ半端なかった」


 えっ!?何それ?膝蹴り?背骨折??

 えっ!?あの温和な夫が?嘘だろ??竜じゃなきゃ死んどる!!


「おまけに1ヶ月くらい口も聞いてくれないし無視されるし物凄い可愛がってたんだなーって反省したの」

 そりゃーそうでしょうよ!!可愛がって育ててたのをお前らにあっさり食われちゃうなんて!!絶望だよ!!


「だから今回は味見だけにしたけどやはり怒ってた」

 そりゃー怒るに決まってんだろうがあああ!!


「ごめんね」

「ごめんね」

 と2人が謝り去って行く音がした。

 許さんけどな。


 夕方、クレイグが戻ってきて家を探してきたから明日からそこに行くことになった。と言ってももうほとんど休暇は残ってない。明後日には仕事復帰だ。


「まだジュリエットさんは療養した方がいいのでは?その手じゃ!」


「いいえ、いいえ。2週間安静にしてたし足は動くし大丈夫です!!指だって動くし!フィリス様の顔見ないと癒されませんよ…」

 と指をわきわきさせながら言うとクレイグはため息一つと


「無理しないでくださいね?」

 と心配した。

 ……私ってあの昔飼ってた犬の代わりみたいなもんなのかな?クレイグにとって。

 ペット認識かもしれないと私は思った。


 *

 翌日クレイグは竜化せずに庭で踏ん張っていた。


「フギギギギギ!!」

 と歯を食い縛り何してんだこいつは?

 と思ってたら人間姿の背中からビリっと竜の翼だけが生えた!!後頭にも角が生えた!!


「わっ!!?な、何?」


「半竜化ですねぇ。竜化と人化の半分半分といった感じです。一応飛べます!」

 とクレイグが私を抱えた。


「腕を怪我しているから竜化して連れてくと捕まると痛むでしょ?だからこれで」

 とクレイグはそのまま飛んだ。

 ちょっと恥ずかしい。


 少し進むと森の中に可愛らしい家が見えてきた!!おお!私の理想に近くね??

 可愛い!庭も綺麗な花咲いてる!!

 と思ってたらスイーと通り過ぎた!


 ええええ!!


「ちょっ!あれじゃないの?まさにあれなんじゃないの?何で通り過ぎんの?」


「え?いやあれはもう他の人が住んでますんで…あ、あれあれ」

 とクレイグが言う方を見て固まりかけた!!

 庭確かにあるけど…草がボーボーで汚いし埃だらけのボロっちい煉瓦の家で確かにオレンジの屋根だが…正直さっき通り過ぎた家の方が良かったよ!!これじゃあ魔女か幽霊の家じゃん!確かにある意味でお伽話っぽいけど可愛い要素ないじゃん!!


「ほらほら!屋根のとこに!人形が!!可愛らしいですよ」

 と見ると風に飛ばされたのか誰かの人形が引っかかっている。ていうかその人形も雨風にさらされたのか恐ろしいモチーフと化していた。


「怖いわぁ!!」

 思わず頭突きかました。


「イテッ」

 と夫は言ったがアホか!!

 降りて呼び鈴を鳴らすとこれまた鎌を持った殺人鬼…いや中年のおじさんがヌッと出てきて私は


「きゃーーー!」

 とクレイグに抱きついた!!

 クレイグはおろおろしつつも


「あの管理人のマイルズさんですよ」

 と言うとマイルズはニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。


「どうも…これから庭の掃除しようと思いましてね。何年もここ誰も住んで無かったんでこれから掃除なんすわ。今よりかはまともになるんで。ああ、お部屋は先に掃除しておきやした」

 と言った。いや怖いよ笑顔!!


 というか部屋の中も見たけど掃除雑!!

 城で働いていた私を甘く見んな!!

 掃除やり直しだろこれえええ!!

 となり、私達はとりあえず掃除した。クレイグは私に休んでくれと言ったけどこの汚さに我慢できないからと手伝った。


 夕食はあの恐ろしい笑顔のマイルズさんと奥さんのアマンダさんと共にとった。アマンダさんはとりあえず普通な感じだった。良かったよ。

 クレイグが2人を採用したのは昔人間の子供を育てたことがあるらしいとのことだった。


「あの子は迷子になって記憶を失っててね。男の子だったんだけどさ。ロードリックと名付けてね。自分が竜族だって信じててね?でも大きくなると人間だって仲間に言われてさ…食われる前に…私らが人間の街へ送って別れたんだ」


「俺たちのこと父ちゃん母ちゃんて呼んでくれてさ…嬉しかったねえ…元気にしてたらいいな」

 とマイルズさんは私を見て言う。


 可愛らしい家でもないけど、ここなら一応襲われたり齧られたりする心配は減った。

 笑顔は怖いけど中身は優しそうだし。いいか。

 結局その後も雑草取り手伝って休暇は終わった。

 因みに屋根の人形は不気味過ぎるのでもちろん取ったわ!!くそー!次来たら花畑とか作って超メルヘンに改革してやるーー!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る