第7話 齧られる嫁

 離れの部屋に荷物を置いた。流石侯爵家。実家自体は金持ちだからベッドも広かった。


「ベッド使っていいですよ。私はソファーがあるので」

 と気を使われるから


「いや、交代でソファーとベッドを日替わりで使いましょうよ。毎日ソファーだと疲れるでしょ?私だけなんて罪悪感だし!」

 と言うと申し訳なさそうに謝った。


「そう言えばどんな家がいいです?希望とかあります?管理人は雇おうと思います」


「そうねー…何でもいいけど…可愛らしくて庭付きで野菜や花が植えられて屋根の色は太陽のオレンジかしら?煉瓦造りでとにかく可愛らしいお伽話に出てくるようなのが良いかなぁ」

 と言うと


「何でもいい割には注文が多いですね!!」


「えっ!?そう?普通じゃない?管理人は優しそうな中年夫婦がいいわ。若いと掃除とか雑だからね!!」


「わ、判りました。探してみますね。そうだ!まだ挨拶していないのですが、兄さんとお義姉さんに双子の子供がいるんですよ。今は狩に行ってていないとか。夕方には帰るそうです」


「へー…ふ、ふーん…狩かぁ…兎とかかなぁ!??」


「…………大蛇だいじゃだそうです」


「なっ!!大蛇ああああああ!!?」

 いや伏せ目がちに言われてもあんたあ!!大蛇ああああああ!?


「蛇がお口に合うと良いんですけど…」

 合うわけねぇ!!無理!

 私は白目になり、夕方になると言葉通り超巨大な蛇を咥えて降りてきた2匹の竜の子がくるりと一回転して人間の可愛い姿になった。


 私がクレイグの人間の嫁と念入りに説明を受けたが双子達は私に視線を向けている!!完全に獲物を見る目である!!怖っ!!


 双子は女の子で青いリボンのツインテがアシュリーでピンクのリボンのツインテがオフィーリアと言う。2人は食事中も爬虫類の目をしてヨダレを垂らしながら私を見つつご飯を食べて


「今日のご飯美味しいね」


「ね、なんか進むね」

 と言う。それはあれでは?美味しそうなものを見ながら食べると食が進むって言う…。いや考えたらおしまいだ!!


「大丈夫ですか?ジュリエットさん?食事が進んでませんよ?」


「ええ…へ、平気ですわ」

 馬鹿野郎!!進むかーーー!!双子達か怖えええよ!!見てみろあの目!!こっち見んなって!!


 やべえ食われる!いつか食われる!!

 食事が終わると


「ジュリエットおねーちゃん…一緒に遊ぼうよー」

 とにまりと近付いてくる双子にもはや恐怖で心臓がドッドドッと音がする!!


「ご、ごめんなさい…あの私気分が…」


「そうなのぉ、明日は一緒に遊んでねぇ??」


「お庭を案内してあげるう!庭園があるのおおお!約束だよおおお?」

 と指切りをさせられ私は泣きそうになった。

 昼間は…クレイグがいない!!!

 嘘だろおい!?死ぬって!!


 *

 カタカタと私は朝から震えていた。


「大丈夫…ですよ…な、なるべく早く帰ってくるので」

 思わずクレイグの服を掴む。

 クレイグはビクっとした。


「ジュリエットさん?」

 私はフルフルと離して


「い、いってらっしゃいませ…旦那様…」


「ああ、はい…は、早く帰りますから…」

 と言い、庭に出ると彼は一回転してバサバサと飛んで行った。

 さようなら!クレイグ!!

 私たぶん今日あの双子に骨までしゃぶられそう!なんか夢見も悪かった!

 あの2人に食われる夢見た!きっと予知夢だわ!!ああああああ!!


 するとコンコンとノックがした!


「ひっ!!」

 薄く開いた扉から4つの赤い目がこちらを見ていた。


「お姉ちゃん…ご飯食べたらお庭行こうね?」


「鬼ごっこしようね?」

 と言われ戦慄が走る。

 食卓で私は震えながらカチカチと歯を鳴らした。


 *

 そして午後…恐怖の時間がやってきた!!

 最初は普通に庭園を案内していたが…私はあるものが目に入り落ち着かない。双子が手に塩と胡椒の瓶を持っている!!


 お前ら食う気だろおおおお!!

 なんだそれはああああ!!


「じゃあそろそろ鬼ごっこ始めようよおおお」


「私達が鬼でいいよおおお」

 と木に顔を預けて数を数え出した双子。


 私は猛ダッシュで逃げて隠れ場所を探した!!嫌だ嫌だ嫌だ!!食われてなるものか!!


 必死で逃げて物置小屋を発見!!私は上着を脱ぎ捨てカカシに取り付けた。

 そして更に庭にあった泥水をブッ被り棚の後ろの隙間に入り込み震えた。

 奴等は匂いを嗅ぎ分けることくらいこの1週間で学んだ。皆私を見て鼻をクンクンしていた。同僚達も侍女長もたまにクンクンさせていたもの。


 例外なのはクレイグだけであった。彼は私を食料として見ていない唯一のまともな奴だった。それはフィリス様とリオン様もだけど。


 程なくして双子が物置小屋にやってきてカモフラしたカカシに飛びかかっていた!!

 藁が飛び交いボロボロにされていくのを見て私は悲鳴を必死に飲み込む。


 震えが止まらん!!


「囮を使ったよ…」


「頭がいいんだあ…人間のくせに」

 と双子は外へ出て行った。ホッとしてそれから少し時間が経ったころトイレに行きたくなり困った。どうしよ?

 ここでするか?いや、流石に!!しかし!


 悩んでいると棚が動かされて行くのが判る!!

 ゴゴゴズリズリズリ…


 そして目の前にギラついた双子。


「みぃつけたあああ」


「きゃあああああああ!!」

 私は漏らした!!もう恥とか言ってられるか!恐怖が勝っていた。


「ダメだよ粗相は…」

 とアシュリーが私目掛けて塩をかけてオフィーリアが胡椒をかけた!!


「やめ!ぶへっくしょい!!やめて!」


「大丈夫味見だけ!ね?流石にクレイグ叔父さんに叱られちゃう!」


「怒ったら怖いもんね、叔父さん!」


「怖いならやめなさい!!ダメ!!絶対にダメええええー!」

 しかし2人は私に飛びかかると両腕にがぶりと噛み付いた!!痛みが走る!!


「いやーーーーー!!痛い痛い痛いーーー!!た、助けてえええええええクレイグーーーー!!!」

 と泣き叫び気絶した。


 *

 それから数時間後に私はベッドの上で両腕に包帯を巻かれて気付いた。凄い痛い。もう包帯の下見たくもない。

 側にはクレイグがいた。泣きそうな目で何度も


「ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 と謝っていた。どうやらクレイグが私が双子に齧られているのを見つけて助かったみたい。ギリギリだったみたい。

 あ、そういや私漏らしたんだった。助けた時臭くなかったかな?


 私はぐったりした。


「アシュリーとオフィーリアにはキツイ仕置きをしておきました。もう心配ありません」

 どんな仕置きなら??


「クレイグさんは私の事食料として見ないのね…」


「当たり前でしょう?どこの世界に妻を食べる夫がいるんですか!!少なくとも食料なんて思えない!!」


「ありがとう…うう…怖かった…私骨になるかと…」

 とボロボロ泣いた。おろおろしていたクレイグがポンポンと頭を撫でた。

 泣かないでということか。


「すみません…。こんなことになり…」


「大丈夫です。とりあえず生きてたし…」

 飛んだ目にあったけど。嫁が子供のオヤツにされるとかほんとないわ。

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