第6話 夫の実家が怖いんだけど

 2週間の新婚休暇を貰った。普通ならこの休暇は貴族なら毎日毎日だらだらと新婚さんはラブラブ子作りに励む所だ。


 しかしながら私とクレイグの間にはただの上司と部下、仕事仲間という意識が強い。式も挙げていないし書類上のサインだけで指輪すらもないのでもはや結婚しているのかも謎に問われる。


 それでも実家に挨拶にと言われたのでああ、そういやこの竜人と結婚してたわ。と忘れかけていたことを思い出した。

 1週間みっちり鬼の侍女長に鍛えられ上げ、主人のフィリス様の美しさに癒される日々だったからな!!リオン様と並ぶと絵画のようで目の保養であった。

 私この方達の幸せを邪魔しない!!応援する!むしろ親衛隊になりたい!!

 と密かに思うほどのファンに成り下がったただの村娘である。


 荷物を持ちクレイグの所に行くと彼は一回転して竜の姿に戻った。相変わらず栗色の冴えない竜でその辺りにたくさんいる竜とあまり見分けがつかなくなりそう。同じような色の竜が多い。

 因みにリオン様は美しい黒竜で我が主人は美しい銀の竜姿を見せてもらったことがある。私はそれを見た時感動で


「うおおおお!!綺麗!!凄っ!!主いいいい!!もうほんとお美しい!!」

 と涙と鼻水で駆け寄ったらリオン様に尻尾でバシンとぶっ飛ばされ


「汚い!鼻水だらけでフィリスに近づくな!バカ人間!!」

 とイケボで怒られた。

 その時近くにいた夫は笑ってたが。とりあえず手を引っ張り起こしてくれた。まぁ一応優しい。基本的にうちの夫らしき上司は。


 とりあえずまたクレイグによじ登ろうと腕まくりをしたら今度は尻尾を差し出してここに乗るよう指示されてちょこんと座ると背中まで簡単にヒョイと乗れた。


「最初の時もそうしてくれたら良かったのに!!」

 と文句を言うと


「あの時はほら、他の人間が沢山いたし、威厳?ってヤツを示さないと舐められるからって言われてたので態度でかくしないといけなかったんですよー…」


「まぁそういうことなら仕方ないわね」

 どうでもいいわ。あんな薄情な村!!


 バサバサと飛びながら


「ねぇフィリス様付きになれて私本当に幸せ!あの方の美しさを見ていると癒される!ポーリーナ見ても何とも思わなかったのに!」


「ポーリーナーとは?誰です」

 げっ!ヤバ!!しまった!!ポーリーナが村1番の美人だと知れたら!!……でもよく考えたらもしポーリーナがここに来てもどの道この夫と結婚させられてたのか。


「夫婦に隠し事はなしですよ?」


「誰にも言わない??」


「口は硬いですから」

 とクレイグが言うからついに喋ってしまった。


「私さぁ…2番目なのよ。あの村で美しかったの…。1番はポーリーナ。でもポーリーナはね、男爵家との嫁入りが決まってたからとかいう理由で私が竜の生贄にされたってわけ。お前さえ黙ってれば平気だーとか言われてさ」

 と言うとクレイグは


「えっ!?そうなんですか!?…まぁこちらもいろいろと誤魔化してましたし…ジュリエットさんには何か申し訳ないことばかりになったのでそれは黙っておきますよ」

 と言った。


「ありがとうクレイグさん。あ、そうそう!ポーリーナは村を出る前に積年の恨みで腹を渾身の力で殴り付けておいたからスッキリだわ。あの時は死ぬと思ってたしね」

 と言うとクレイグが我慢できず笑った!!


「ぶはっ!!な、何それ!!あはは!!おかしい!!凄い!!へ、変な人だ!!」

 と飛び方がおかしくなる。


「ぎゃっ、よ、酔うからやめてよぉ!」


「ひいっ!ジュリエットさんが笑かすからです!!あはは!信じられない!!」

 と笑いながらも何とか空に浮かぶ島が見えてきた。


「本当に島が浮いてる。凄いわ。」

 やはり何頭か竜は飛んでいたりする。

 少し飛ぶと村や街も見えてきた。

 ようやく侯爵家らしき所の上空で降りて私を下ろして一回転して人間姿に戻るクレイグ。

 荷物を持ってくれた。


「じゃあ、行きましょう…」

 と言い玄関の呼び鈴を押すと中から執事風のお爺さんが出てきて


「クレイグ坊っちゃま!!お帰りなさいませ!!」

 と言う。


「やあ、エルマー!元気そうだね!」


「おや、この芳しい香り!まさかそちら人間?これはこれは!貴重な獲物を捕まえてきたのですね!料理長に早速夕飯として準備させましょう!」


「ひいいっ!」

 と私は震えた!夕飯に出されるっ!!

 慌ててクレイグが


「ち、違う違う!彼女はほら!例の50年に一度の竜の花嫁さんだよ!…ええと手紙読んだ?私のお嫁さんになったんだよ。1週間前にね」

 と言うのでエルマーさんは目を丸くして


「と、とんでもないご無礼を!!そこそこ可愛い程度のレベルの女性だったので食料かと!!すみませんでした!!奥様!!」

 と謝ったがお前ほんと失礼だな!何なの?竜族の女性のレベルって!そりゃ、皆私より綺麗な人多いけど!そこそこで悪かったなあ!!


「料理長達にも伝えて!彼女は食料じゃないって!!」

 とクレイグが言う。その食料はやめてくれ!!恐ろしすぎる!私ここで2週間も生きてられるんかい!?デッドオアアライブの2週間じゃん!!

 と恐怖した。


 それから居間に通されて長男夫妻とクレイグの両親に会った。

 皆私をギラついた爬虫類の目で最初見ていた。ゴクリと生唾を飲む音がして怖い。クレイグが必死にまた説明した。


 長男のグレン・アーサー・ラスキンさんが


「ああ、結婚したとは手紙に書いてあったが本当に人間としたのだな。王子命令か…」


「私…人間を見るの初めてですわ…触ってもよろしくて?」

 と妻のペネロビさんが私に興味を持った。

 そして手袋を外して頰を触ったり腕をサワサワと手付きがヤバイ。ジュルっとすする音までしてからに!!お前まだ私のこと食料だと思ってんだろう!!


「美味しそ…じゃなくて健康な方なのね!」

 とか言いやがった!!


「あの…ペネロビお義姉様…ジュリエットさんはよく働いてくださってますよ!?フィリス様付きの侍女でして!!」

 と言うとようやくペネロビさん達含めて家族は顔色を変えた。


「ま、まぁまあ!フィリス様の侍女さんになられたのね!!(それは無理だわー。つまみ食いは…)」

 とかおいいいい!ちっちゃい声で何言ってんのおおお!やっぱり食う気だったんだ!!怖い!!


「それにしても…クレイグ…お前が結婚とは。仕事一筋だと思ったのに!もう一生結婚しなくて孫の顔も見れんと思っていたのに!!良かった本当に!!」

 と父親のジョン・ホール・ラスキンさんが涙ぐんで母親のシドニーさんも


「クレイグ!!2週間は離れの部屋を使っていいわよ!!お二人とも頑張ってね!!」

 と期待した目で見られた!!愛情ないんすけど。


「ええと…あの…ほら、私はジュリエットさんと住む家も休暇中に見つけなくてはならないのであまり昼間は居ないかもしれませんのでその間…ジュリエットさんの相手をしてもらえると助かります…。くれぐれも食べないように!!」

 と夫の最後の言葉がマジ怖い!!



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